商人を追って⑤
アリューストの王太子殿下・アレク・ユーチャリス・ア・アリューストか……。
ゲーム設定で読んだだけだけど……確か、この国は、王子一人に王女が二人。政略結婚の王様と王妃様の中は悪くも良くもない。そんな二人の冷めた姿を見て育ったアレクは、愛を知らず誰に対しても恋愛感情を抱くことはなかった。
周囲の大人たちはアレクが間違っていても訂正しない。そのせいで。誰よりも優れていると勘違いしている。
そこへ現れたヒロインが、アレクの心を潤し癒すことで彼は更生していく。
興味津々の王様は、身体を前のめりにしながらあたしの方をマジマジと見ている。
王妃様は、王妃様で、開いた扇の奥から品定めをするような眼を向けて来る。
王様と王妃様の後ろに立っている推しメン一位――この国の王太子殿下は、馬鹿にしたような表情であたしを見て鼻で笑った。
そして始まるイケメン同士のご挨拶。
やっぱ、アレクよりクルル様のがイケメンでカッコイイ!
「クルル久しぶりだな。息災そうで何よりだ」
「あぁ、アレク。久しぶりだな」
「そうそう。アニーがクルルが来ると聞いて茶会に参加して欲しいと言っていたぞ」
「アーニセス王女が?」
「あぁ。あいつはクルルに惚れてるからな」
は? アーニセス王女がクルル様に惚れているだとっ!? どういう事? 聞いてない!
「そう、だったか?」
「あぁ、あいつは側室でもいいからクルルに嫁ぎたいと父上に交渉するほどお前に惚れてるぞ?」
「……」
「うふふっ。そう言えばそんなことをアニーが言っていましたわね」
「ふむ。どうだ? うちの娘もそなたの婚約者に負けず器量よしだぞ?」
ちょっ! 普通婚約者の前で、他の女進めるとかしないよね? これって、ある意味ではあたしの存在を認めないって言う意味なのかな? あぁ、やだな……この空気。
クルル様の腕が回された腰が酷く熱い。隣に立っているあたしはこの場でいない事にされたみたいだ。
初めての他国で、こんな気持ちなるなんて……。知らず知らずのうちにあたしは顔を俯かせる。
『ふにゅ』
肩に乗ったまま眠っていたはずのオリジンが、そっとあたしの頬に小さな小さな手を添える。足元に伏せをしていたはずのニマ君もあたしを守るようにくるりと体を使い囲んでいる。 二人ともありがとう。
「お話は大変にうれしく思います。ですが、国が関わる事ですので私から、この場でお返事は出来かねます」
「まさか、婚約者様はクルル様を独り占めする気ではないのでしょう?」
赤い唇に弧を書いた王妃様があたしへ話をふる。その仕草や表情はまるで女狐のようだった。
こわいっ!! でも、でも、クルル様が側室を持つのは嫌だ。伝えなきゃ。嫌だって言わなきゃ……。
震える両手でドレスの布を握り占め、何度も何度も深呼吸をする。
「く、クルル様が、そ、側室をも、持つのは……い、嫌です」
「なっ!」
「……側室を持つのは王のステータスでもあるんだがなっ」
眉根を吊り上げる王妃様は、忌々しそうにあたしを睨んだかと思えばわざとらしく微笑んで見せた。その目は冷ややかにあたしを見ていたけど……。
そして、王様は明らかに落胆したと言うような表情をする。
「愚かな……」
ボソッと聞こえたアレクの声にあたしの肩は大きく跳ねた。背中に暖かな掌の感触を感じ顔をあげる。見れば神々しい笑顔のクルル様があたしを見ていた。
きっとあたしは今、情けない顔をしているはずだ。それなのにクルル様は更に笑みを深めると真顔になり顔の向きをアレクの方へ向ける。
「アレク、愚かとは……誰の事をいっている? まさかとは思うが、私の婚約者に対して言っているのではないよな?」
「そ、それは……」
「この際なのでハッキリ伝えておくが、白は”精霊に選ばれし乙女”だ。彼女を傷つける者は、彼女を慕う精霊に殺されても文句は言えんぞ?」
威圧感たっぷりでクルル様は、アレクに対し怒り? をぶつける。
「なんだと?」
「その娘が、精霊に選ばれし乙女だと!」
「……世迷言を」
精霊に選ばれし乙女とクルル様が言った途端、王様は驚いた様子で立ち上がり、アレクは一歩前に歩を進め、王妃様は未だ信じていないようで扇を仰いだ。
「オリジン様、アーニマ様。申し訳ありませんが、お姿を見せていただけませんか?」
『ふにゅ』
『ん~。この人たち嫌い~。良くない感じがするの~』
そこを何とか……ね? クルル様がこのままだとウソつきになる。そんなのは嫌だよ。だから、お願いオリジン、ニマ君。
『仕方にゃいにょだ。アーニマ、見せるぞ』
『ん~。ハクのお願いだしいいよぅ~』
返事をすると同時に、オリジンは小人ではなく大人オリジンの姿で、ニマ君はいつもの姿よりも二回り大きな姿になった。
「お二方ともありがとうございます」
「うむ。我の契約者を罵ったのはそこの男か?」
「ハクを愚弄する愚かな人よ。それなりの覚悟があるのであろうな?」
頭を下げたクルル様は、顔を上げると王様たちの方へ向き直る。
あたしの隣に立つオリジンは鋭利な視線をアレクに向け他の人にも聞こえる言葉で話しかけ、ニマ君はその大きな体であたしとクルル様を包み込むようにして牙をむきとても低い声で怒りを露わにした。
三人ともありがとう。あたし、嬉しくて泣きそうだよ。
足をお運びいただきありがとうございます!




