精霊救出作戦 ⑩
疲れた顔をしたクルル様とイリュス様が部屋へ来たのは、精霊達があたしの部屋へ来て七日目の夜だった。あの日以来、事件にかかわった関係者の捕縛や調書を作る作業をしていたらしい二人は、ここに来る時間すら取れず働いていたらしい。
「二人ともお疲れ様」
「あぁ、来れなくて済まなかった」
「白様はお元気そうですね」
真横に座ったクルル様が、スチル的笑顔で謝った。
ぎゃあああああああ、あたしの眼、眼が! 何その可愛い笑顔!
眉根を下げながら笑う顔が、本当に可愛かった。
『それで、奴りゃはどうにゃるにょだ?』
クルル様達に紅茶が出された所で、小人オリジンがそれまでの空気をぶち壊すように話し出した。
お、おりじんめ! あたしの癒しを…………。
恨みがましくオリジンに視線を向け、ブー垂れたあたしに空気を読んだかのようにニマ君が撫でろとせがむ。そんな彼の頭をゆっくり撫でつつイリュス様の報告を聞いた。
事の発端は、カザス夫人の兄である。現公爵の闇の資金を得るため。
彼女の実家であるベルドオーセ公爵家は代々この国の中枢を支え、権力を握ってきたそうだ。だけど、先々代――カザス夫人の祖父にあたる人物が、苛烈な貴族主義の思想家で、ある事件に関わったとして国の中枢から外されてしまう。
煌びやかな世界に慣れ、当然のように過ごしてきた彼らは、自分たちの置かれた状況を認められず諦めきれなかった。その為、今度はカザス夫人を使い第二夫人の親族として中枢に返り咲こうとした。でも、それも王様や宰相の采配によって阻まれてしまう。
追い詰められた彼らが最終手段として選択したのは、お金を使って中枢にいるであろう人物に自分たちの意見を通させる事だった。
「だが、それも長くは続かない」
「えぇ、そうです」
『それでにゃぜ精霊を捕まえる事ににゃるにょだ?』
「そこが問題なのです。公爵が言うには、たまたま知り合ったアリュスート王国の商人に精霊を売って欲しいと頼まれ、お金になると踏んで精霊をとらえ売り払っていたそうです」
『…………それだけか?』
クルル様とイリュス様が同時に頷く。それを見ていたオリジンが、可愛い顔を歪め考えこむ仕草をした。
『ん~。辻褄は合ってるように思うけど、違和感あるよね~』
「それと、この件に関わったと思われる商人の肖像画と名前はこちらです」
クルル様の視線を受けたイリュス様は、一枚の紙を取り出し机に置いた。そこに書かれていたのは、フードを被った男とも女とも取れない人物で顔すらわからない。名前はウェナトール。
…………うーん。このフードどこかで見たことあるけど……どこだっけ?
『ハク?』
『ハク!』
思い出そうと目を閉じて考えこんでいたあたしを不意にオリジンとニマ君が呼ぶ。その声にハッとそちらを見れば、つぶらな瞳が心配そうにこちらを見ていた。
横に座るクルル様が、少し強めに腰を握ったかと思えばイリュス様が、慌てたように立ち上がりかけていた。
状況が分からないあたしは、ニコっと微笑み首を傾げる。
「は、白……身体が!」
慌てたようにクルル様があたしの身体ぎゅっと抱きしめた――。
************
ふと気付いたあたしは、いつの間にか見慣れた豪奢な部屋にいた。見える角度から、浮いていることを理解する。そこには怖いと言う感情はない。
悲しい、辛い、憎い、何故あの子と共にいる事ができな。と言った誰かの想いがあたしの中に流れ込む。
この感情の持ち主は誰なのか、なんであたしを呼ぶのか……?
『あなたは誰? どうしてあたしを呼ぶの?』
『……ゆるさ、ない……』
憎いという感情に支配されているらしい相手は、あたしの声に答えない。一方通行な感情だけが相手から伝わる。
見える視界の先で、白いローブを纏った女性が部屋の中に入ってくる。
「聖女様。お加減はいかがですか?」
「……えぇ、大丈夫よ。セミリア」
柔らかな声音の女性の声がベットに眠る相手へ掛かる。するとベットから僅かに衣擦れの音があがり、腰まであるハニーピンクの髪が見えた。
「どうぞ、こちらをお使いください」
セミリアが取り出した桶から水をすくい顔を洗った聖女は、不意にこちらを見るような仕草をする。が、それも束の間すぐに視線は戻され、セミリアの方へと向いた。
『XXXXXX、私はここよ。さぁ早く、私を自由にして!』
「今日の予定は?」
「本日は、正殿にて参拝者の皆様との面会をお願いいたします」
嬉々としたもう一つの声音は、あたし以外の誰にも聞こえていないようだった。
起き上がった聖女は、顔を洗いセミリアに予定を確認すると、こちらを振り向くことなくそのまま別の部屋へと入っていった。
『どうして……なんで、私はあなたのXXXXではないの……?』
痛々しい声だけがその場に木霊した――。
足を運んでいただきありがとうございます。




