精霊救出作戦 ②
オリジンの説明でなんとなく判った事は、もしかしたらあたしが聖女になってしまったかもしれない事。
ヒロインじゃないのに精霊が癒せるってまずくない?! いや? いいのか! あたしがヒロインに変わってあのクエストを終わらせればいいだけだし。そしたらクルル様はあの学園に行かないし、ヒロインに会うこともないよね? そう分かった所で、拭えない不安があることに気付いた。
自分の中の不安が何なのか良く分からない。必死に悩むあたしのお肉をいつものように掴む手。この掴み方は……そう思いつつ腕が回された方を見れば、穏やかながらに真剣な表情をしたクルル様が座っていた。
表情の読めないオリジンとクルル様が何事かを離している。
「――なるほど、だからハクは、精霊樹の乙女だと認められたのですね」
「あぁ、そうだ」
ん? なんの話だ? 自分の中で考えている間に、話が進んでいたらしい。手言うか、クルル様凄い納得したって顔してるけど、どゆこと?
「では、救い出した精霊達を癒すのが今回ハク様の仕事と言う事でよろしいでしょうか?」
クルル様の後ろに控えるように立っていたイリュス様が、作戦的な何かをオリジンに確認する。
それに頷いたオリジンが「そうだな」と前置きした。
「……どの道、危険だと判っている場所に我がハクを連れて行く訳が無い」
自信満々なオリジンが、断言するかのように言葉尻強く言い放つと、イリュス様もクルル様もキラキラした眼でオリジンを見つめた。
そんな彼ら三人の様子に、聞き損ねたと言い出せないでいるあたしは一人冷や汗を垂れ流す。
「ではそう言う事で、皆様よろしいですね?」
確実に、最終確認であろう言葉を発するイリュス様にクルル様もオリジンも大きく頷く。
ちょ、ヤバィィィ……聞いてなった! どうしよう。とりあえず、ここに居ればいいってことだよね? ね? 誰かあぁぁぁぁ!
「ハク、落ちつくのだ。後でしっかり説明してやる」
オリジンに心を読まれ、理解していないことが周囲に伝わると同時に横と後ろから痛々しい程の視線を感じる。
「まったく……」
「ハク様は最近、気が抜けていらっしゃるようですね?」
クルル様とイリュス様は呆れたかのように呟く。
だって、だって……仕方ないじゃん。あたしなりに考える事があったんだもん! ヒロインの事とか、聖女の事とか……。
そう言い訳めいた言葉を並べるも言い返せず、しょんぼりと項垂れた。
そんなあたしに『ハクゥ~僕の事撫でて~』と身体をスリスリするニマ。
「ニマだけだよぅ。あたしを心配してくれるの」
天日干しした布団みたいな香りの長い毛に顔を埋め、ニマを撫でまわす。
メアリーさん達、出来るメイドさんがニマを洗ってブラッシングしてくれたおかげで、ニマの毛は滑らかでふわふわだ。
このまま不貞寝するのもありかも? なんて考えていたら、いつの間にかウトウト……。
******
いつの間にか眠ってしまったようで、眼が覚めるとフワフワとした感覚と共に視界がクリアになる。
『どこ、ここ?』
用心深く周囲を見回す。見慣れないはずなのに知っているように感じる調度品。白塗りの天上に金で縁どられた色とりどりの天使や機の絵。
『知ってる気がする。どこだっけ……?』
「聖女様……お目覚めですか?」
誰も居なかったはずの室内に静かな女性の声が響き、ドキっとする。恐る恐る、声がした方に顔を向けた。
頭から足元までスッポリと上質そうな白いローブを纏った女性は、上品な見た目に特徴的な赤い口紅。そして、凄く怖いと感じる緑色の瞳をしていた。
状況がわからず、固唾をのんで見守る。
そんなあたしの存在に気付いているのかいないのか、女性は赤く塗られた唇に弧を乗せたまま誰かがねているらしいベットへ一歩一歩近づく。
なんか、この人、能面みたいだ。感情が見えないって言うか、教室にいた同級生と同じ……? 声は優しいのに、信用できないし、怖い。
「聖女様? いかがされたのですか?」
「……セミリア……頭が痛いの」
聖女? ここに聖女がいるの? セミリアと呼ばれた能面のような女と彼女をそう呼んだ少女のような声に、あたしは酷く心配になりベットへ行こうと動く。
――刹那、ドス黒く重い楔があたしの身体に巻き付いた。
『ちょ! 何これ! 放して、XXXXが心配なの!』
誰かの声が、あたしの口を突いて出る。それと同時に、身体を振りみだし暴れる。その度に鎖がきつく巻き付き身体のあちらこちらに激痛が走った。
「早く、早く薬を頂戴! 頭が痛くてたまらないのよ!」
ヒステリー気味に語気を荒げる少女の声。その声を聞いてもなお、女が描いた弧の形は変わらない。
少女が眠るベットに静かに腰を下ろしたセミリアは、懐から白い紙に包まれた何かを取り出し「さぁ、聖女様。お薬ですよ」その言うと、少女の口に何かを含ませた。
『あああああああああああああ! 痛い! 痛いよ! 止めて、その薬は飲ませないで!!! お願い、お願いよXXXX!!』
自分に撒き付いた鎖から必死に腕を伸ばし、ベットに眠る少女へ懇願する。お願い気付いて、あたしはここにいるの! 深い悲しみがあたしを犯す――
『ハク! 染まるな!』
『ハク!! 戻って!! そっちに行っちゃダメだよ!』
オリジンとニマの声が聞こえた。
――刹那、あたしを取り巻く世界が渦を巻き暗転した。
******
誰かがあたしを呼ぶ。周囲に聞こえる声が優しく揺り起こす。眠い眼を擦りながら、眼を開けた。そこは見慣れた天蓋だ。
「あ、見慣れた天井だ……」
掠れた声で、某アニメのパクリに近い言葉を呟いた。開いた視界をクルル様、オリジン、ニマの心配そうな顔が塞ぐ。
その後ろから、イリュス様やメアリーさんも見える。
「ハク、無事でよかった!」
そう言ってあたしを抱き起こすオリジンが、額と額をくっつける。
「白、顔色が悪いぞ?? 酷く魘されていたが……?」
『ハク。良かったぁ!』
「ハク様?」
クルル様、ニマ、イリュス様の順に、あたしの名前を呼んでくれた。その言葉達と表情に、何故かはわからないけどホッと息を吐き出し「大丈夫だよ」と答え上手く動かない表情筋で笑顔を作った。
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