閑話 クルル
母上の茶会に婚約者である白が出席する。
出会った当初、碌な奴じゃない。そう思った。
が……私の生まれ育ったアストラル王国には、古より王族に男児のみ言い伝えられている文言がある。
あまりにも古い言葉故に、口頭で伝えられる。
それを現代風に要訳すれば……。
精霊の大樹と呼ばれる我が国の守護樹が、この世界に住まう精霊と世界に存続が危ぶまれたその時――異界より娘を召喚する。その娘は精霊と世界を救う。とされている。
そして、娘を愛し、愛される存在になれと言うものだった。
正直、眉唾物だと思っていたし、信じるなどと言う事もなかった。
――白が、私の目の前に現れるまでは。
白は変な女だった。あぁ言えばこう言うし、恥ずかしげもなく好きだと言ったり、その……わ、わたしにお、おいしく頂かれたかったなどと……そんな事を平気で言う娘なのだ。
異世界から渡って来たと言いだし精霊樹に彼女を連れて行けば、精霊が見えると彼女は言った。
正直にその時の私の気持ちを言えば……勘弁してくれだった。
そのおかげで、私は持ちたくもない婚約者を持つはめになってしまうのだから……。
それでも私は努力をしようと考えた。
できうる限り彼女と話をして互いに分かりあえる存在になれるように……が、価値観が全くかみ合わない。
オリジン様と初めて出会ったのはその頃だ。
あの時はあの時で、また大変だったが……。
その後も、食事会で出た鳥が……ダメだったり、ほんのり膨らんだ白く滑らかな……肌を見てしまったり……。
とにかく彼女とどう接すればいいのか悩みんだ事だけは覚えている。
が、悪い所ばかりではなかった。
彼女の表情がコロコロと変わる。その言葉は淑女らしくないが、裏表がなく私にすり寄るようなこともせず、そこらへんの令嬢とは全く違った。
それにだ、たまに見せる愛らしい表情がたまらず興味を惹いた。頬を染めたりする姿は愛らしいし、オリジン様にクッキーを手渡すその仕草もまた女性らしく可愛らしい。
そう思えるようになったのは、クリスティアの茶会の話以降だが……。
あの時の彼女は何か、思いつめたようなそんな顔をしていた。
その表情は、今までに見せた事が無い程深く暗い……そう感じられた。
今ではもう、思い出せないほど彼女の居ない日常は、遥か遠くに行ってしまったように感じる。
そんな、白が母上の茶会に出席することになった。
彼女は茶会に強い拒否感を持っているらしい事は、クリスティアの件で分かっていた私は、イリュスと相談する。
そして、白を途中退場させることについて母上に断りを入れておく。
その話をしに母上の部屋を訪れ、話終えると同時に残念そうにしながらもなんとか了承してくれた。
それはクリスティアが白に、クッキーを食べさせようとした時に起きた。
遠目に見ていた私には、良く分からなかった。が、しかしイリュスの報告によればオリジン様が、白に差し出されたクッキーを食べた事が発端のようだ。
この国の作法では、認めていない相手に差し出されたものや渡されたものを目の前で消す行為は相手に対し拒絶を意味する。
だが、作法や魔法を知らない白では、そう言う意味でしたのではないと分かる。
それ故、母上は何も言われなかったのだろう。
が……精霊が見えない周囲の彼女達にとって、それは拒絶を意味する行動にとれたのだろう。
結果、オリジン様のその行動が、白に災いを齎した。
周囲の視線や行動に耐えきれなくなった彼女が俯き両手を握りしめた。
遠目にみても明らかにあの時と同じだったのだ。
それを見咎めた私は、彼女の元へ向かい辞去させる。
初めて見せた弱った顔の白を、守らねばと思った。
腕の中に閉じ込め彼女をここから連れ出し安全に守ってやりたかった。
なのに――。
私は白を守るどころか、クリスティアを挑発し、白を傷つける結果となってしまった。
情けない。何よりも情けないのは、クリスティアが感情のままに放った魔法に気付かず、白に守られ彼女に血を流させてしまったことだ。
甘い。そんな己に腹だ立つ。
「イリュス。クリスティアはどうしていた?」
「大人しくしたがって下さいました。
後、白様に申し訳なかった……そう伝えて欲しいと仰っていましたよ」
「そうか……」
クリスティアはまだ子供だ。だからと言って感情のまま白を攻撃した事が許される訳ではない。
けれど……アレでも、私の親類にあたる。
婚約者として見た事は一度もないが、妹として可愛がっていた娘だ。
気にするのも気が引けるが、一応状況は聞いておきたかった。
『あの娘は二度とハクに近付かせるな』
「オリジン様の仰る事に、私も同意です」
『私の契約者を傷つけたのだ。本来ならば一族郎党皆殺しでもすまん!』
「精霊様の怒りを買えばそうなって当然でしょう」
オリジン様の怒りもまた私には、理解できた。契約者である白を、傷つけた以上精霊の怒りを買うのもまた当然なのだ。
だが……白はどう思っているのだろうか? あの時何故、私を止めたのだろう?
そんな事を考えていた私の横で顔をあげたオリジン様は白に向かい。
『ハク。そう悩むな。
そなたの声は全て、我に届くと分かっているだろう?』
そう告げた。その言葉に私は彼女がクリスティアの事を悩んでくれているのかもしれない。
そう思った――。
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