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入り混じる感情④

 その顔に恐怖を乗せたクリスティアちゃんに歩み寄るオリジンの腕を、なんとか生まれたての子鹿のように震える足に鞭を打ち立ち上がり掴んだ。

 腕を掴まれたオリジンが歩みを止めあたしを見る。その瞳には紛れもなく、怒りに染まっている。


「オリジン。ごめんね。ありがとう……でも、ダメ。オリジンがクリスティアちゃんを傷つけたらあたし悲しくなるよ? だからさ、止めよ?」


 震える声で、本心からの言葉を出来る限り必死に精霊であるオリジンに訴えた。

 オリジンが誰かを傷つけるのは嫌だ。

 それが、誰でも無いあたしのせいなのはもっと嫌だ。

 オリジンにはいつも通り、沢山クッキーを食べてぽっこりお腹で居眠りしてて欲しいな。


『ハク……。そなたは我の契約者だ。その契約者を傷つけた相手を、精霊の我が許すと思うか? 我が、何もせず無事に返すと思うのか?』

「オリジン。あのね……確かに痛かったし、二度とこう言う目には遭いたくない。けどさ、あたしは知ってるんだ。人の事を傷付けた人は、傷付いた人よりココ……こころに傷を負うんだよ」


 そう言って、自分の左胸の上を数回掌で軽く叩いて見せる。

 意味が伝わったのかはわからない。

 だけど、オリジンはふっ。と息を吐き出しその表情に苦い笑顔を乗せ「こう言う奴であったな……仕方が無い」と一言呟いた。


 そして、あたしの頬を指先で撫で、視線だけをクリスティアちゃんに向け『二度目は無いと思え』そう言って視線を離しあたしの方を見る。


『これで良いか?』

「うん。超素敵だよオリジン」

『フン。当然だ!』


 そんな掛け合いの後あたしの左隣に立ったオリジンが、腰を支え歩きやすいよう握ってくれた。


「ありがとう……オリジン」


 オリジンにお礼を言い終え、歩き出す。

 すると右側をクルル様が、支えてくれる。


「ありがとう。クルル様」

「薬を用意する。今は何も考えず、部屋でゆっくりと休め」

「ふふっ。二人が優しいと違和感が凄いなぁ~」

「なんだと! 私はいつも優しいだろう?」

『我は、いつでも優しいぞ!』

「え~? 二人共全然優しくないよー!」


 二人して、同時にありえない! こんなに優しい男は他にいないだろう? そう言いたげな表情をする。それがおかしくて、ついつい笑ってしまう。

 とそこに、呼びだされたイリュス様が階段を降りて来るのが見えた。


「ど! どうなさったのですか?」

「イリュス。クリスティアを部屋から一歩も出さないようにしろ! それと魔封じの腕輪もつけておけ」


 緊迫したクルル様の声に、イリュス様はそれ以上何も云わず「ハッ」と短く返事をするとクリスティアちゃんの元へ向かった。




 二人に支えられ辿り着いた部屋では、事情を聞いたメアリーさんがすぐにお風呂を用意してくれる。

 そして、アマンダさんが走り医師を呼びに走ってくれた。


「白様、どこか痛みはまだありますか?」

「ううん。オリジンがすぐに治してくれたし平気だよ」

「傷口はふさがっているが、痛みの感覚がまだ残っているようだ。数日は、様子を見て出来る限り支えてやってくれ」

「畏まりました」


 メアリーさんに色々指示をしていたクルル様を訪ねてイリュス様が部屋を訪れた。

 それと同時ぐらいで、アマンダさんが医師を伴って部屋へ戻ってくる。


「イリュス、少し待て」

「はい」

「ゼシリア殿。すまないが婚約者を見てもらえるか?」

「王太子殿下。お久しゅうございます。どういったお怪我をされたのでしょう?」

「これから話す事は、他言無用で頼む」

「はい」

「氷の魔法で右腕と左足を射抜かれた」


 クルル様の声にイリュス様が、眉間を寄せ何かを考える素振りをする。そして、ゼシリアと呼ばれた老医師はあたしの右腕と左太もも――ドレスに穴があいてるから分かりやすかったのだろう――を見る。


「なるほど、丁寧な治療をされたようですね。後は残らないでしょう……」

「あぁ、ただ初めて身体に魔法で傷を負ったのだ。未だ身体が上手く動かせないようでな……」

「そうなのですね……。それでは、数日は無理せずお部屋でのんびりなさってください。そして、どうしても痛みで眠れないようでしたら、こちらをお飲み下さい」


 そう言って、粉ではなく液体の飲み薬の瓶をテーブルに置いたゼシリア先生。

 その笑顔とは裏腹に、液体の色は濃い緑色……ガチで苦い奴だ。飲みたくない!

 そう思いながらも脳裏にちらつくのはさっき見たクリスティアちゃんの苦い顔だった。


 ゼシリア先生は薬を置いて、安静にするよう言い残すと部屋を後にした。

 お風呂の準備が出来たと呼びに来たメアリーに促され、支えられて浴室へ向かう。


 やっぱり、未だに足は上手く動いてくれなくて……傷も無いのに痛い。そんな感じだった。

 身体の反応なんだろうけどさ、微妙だよ~。


 ゆっくりと湯船につかり終えて、バスローブの下にパジャマを着る。

 そのままベットに寝かされたあたしは、少し離れたソファーでクルル様とオリジン。

 そして、イリュス様の三人が難しい顔をして話している様子を眺めながら、クリスティアちゃんの今後の事を考えていた。


 あとくされが悪いというか……嫌な感じだ。なんでこんな風になったんだろう?

 どうすればいいのかな? あの子はただクルル様が好きなだけなのに……。

 あたしに何かできる事は無いの? うぅ~! 思いつかない! 


『ハク。そう悩むな。そなたの声は全て、我に届くと分かっているだろう?』

「……あ!」


 ソファーから顔をあげたオリジンの声に、そうじゃん! 失念してた! 

 そう反省しつつじゃぁ、どうやって考えればいいのだろう?

 オリジンの言葉に、悩む事を悩んでしまう。


 そんなあたしにを二人が凄く優しい顔で見ているとも知らずに――。


足を運んで頂きありがとうございます!

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