入り混じる感情③
あたしたちを呼び止めたは良いものの、言葉をどう切り出そうか迷っている心の声が聞こえた。
そんな彼女にクルル様は冷ややかな視線を送る。
「なんのようだ? クリスティア」
「あ、あの……」
「用が無いのなら、私達は部屋へ戻るが?」
どこかイラついたようなそんな感じの言い回しにクリスティアちゃんは、唇をかみしめ心の中で必死にクルル様にその悔しさを訴えかけていた。
(なんでよ! どうして、そんなにわたくしを嫌うの? クルルお兄様!)
けれど、それは次第に、恨みとなり共にいるあたしへと向けられる。
(許せない……なんで、あんな女が……精霊がいるからって何よ! ただの役立たずの癖に!)
彼女の言葉があたしの心臓を鷲掴み握りつぶしていく。
怖い。もう、聞きたくない!
ぶるっと震えた身体に反応し、クルル様の視線があたしを見る。
『クルル。ハクを部屋へ。その女は二度と近付けるな』
いつの間にやら大きくなっていたオリジンが、あたしを背に庇う様にして隠すとクルル様に向かってそう言った。
それに頷いたクルル様が、無言でクリスティアちゃんに背を向ける。
「ど、どうして? なにが、そんなに違うのですか? その女は、ただの役立たずではありませんか!」
とても小さな声だった。振り向いた刹那、ポツポツと呟かれたその言葉は次第に大きくなり彼女の双眸から、涙が流れる。
「どうして……お兄様の婚約者はわたくしの予定でしたでしょう?」
彼女がクルル様を好きな事は知っていた。だって、初めてあった時からあたしを目の敵にしていたし……クルル様の前だと、凄く女の子だったから……。
「クリスティア。私は、お前の婚約者候補であったことはない。それに白は役立たずなんかではない」
「何故……どうして、そんな女をかば、うのよ?」
(いやよ! お兄様……わたくしを選んで!)
痛い。聞こえるクリスティアちゃんの心の声が悲痛に叫ぶ。
「ご、ごめ――「なによ! あんたなんか現れ無きゃよかったのよ! あんたなんて大っきらい!」」
謝ろうとした矢先、言葉を被せるように叫んだクリスティアちゃんは、憎悪に満ちた瞳であたしを鋭く睨みつけた。
クリスティアちゃんが言葉を発する同時に、何処からともなく鋭い氷塊があたしたちの背後から、あたしたち目掛け何本も迫りくる。
「ヒッ!! く、クルル様、オリジン危ない!」
二人して呆然と立ったまま動かない。
咄嗟に二人を何とか弾き飛ばしたところで、氷の塊が辿り着いてしまう。
「白!」
『ハク!』
「いっ!」
二人の声が聞こえた気がした。
そしてかがむこともできないまま、二本の氷があたしの太ももと腕を貫いく。その反動か、弾き飛ばされてしまったあたしは、貫かれた痛みと衝撃による痛みで顔を顰めた。
「……ぁ、ど、や……」
「白!」
流石のクリスティアちゃんも、怪我をしたあたしを呆然と見つめている。
クルル様の緊迫した声に、無理やり首をそちらに向け笑顔を無理やり作った。
「バカ者! 何故庇ったりした!」
『な、なぜかばったりしたのだ!』
二人同時にあたしの所にかけよりながら、どなり声をあげた。
怒りながらもクルル様は、あたしの身体を抱き起こす。そして、怒りながらオリジンはあたしの手を握る。
二人して声とは裏腹に眉根を寄せ心配そうな顔をした。
なんでって、そんなの簡単だよ。
二人には怪我して欲しく無かったんだもん。
「ふふっ、あたしはだ、大丈夫だ、よ? 二人は、けが、怪我、してない?」
『すぐに治す。じっとしていろ!』
「怪我しているのは白だろう!」
心配させないように、答えたあたしにオリジンは傷口を確かめ魔法を使い。クルル様は、痛ましそうな表情であたしを治療するオリジンを見守っていた。
と、そこに複数人の足音が聞こえそのうちの一人がクルル様の名を呼んだ。
「殿下! 場内にて魔法が行使されたようです。お怪我はございませんか?」
「私に怪我は無い。だが、白が――「クルル様! お願い……」」
強めに名前を呼んだあたしの声にクルル様が言葉を止め、あたしを見る。
懇願する眼差しで、首を僅かに横に振る。
どうか、どうかクリスティアちゃんを犯罪者にしないで欲しいと――。
そんなあたしを真剣なまなざしで見つめていたクルル様は、一つ息を零した。
そして「後で事情を説明する。イリュスを呼んでくれ」そう兵士の人に伝えてくれた。
兵士の人達が去ると同時にクルル様に視線を向ける。
「あり、がとう」
「お人よしが過ぎるぞ」
『まったく、庇う必要あるまい!』
呆れた顔をするクルル様。
そして、治療が終わったようで側を離れるオリジン。
治療は終わったけど、まだ身体に違和感はある。なんて言うんだろ、えっと……血は流れていないけど痛いみたいなやつ……。
うーん思い出せない! ってこんな事考えてる場合じゃ無かった。
オリジンはそのままクルリと後ろを向いた。その視線の先には、クリスティアちゃんがいる。
「ヒッ! ヤッ、こないで!」
大きく見開かれたクリスティアちゃんの目が、オリジンを捕え悲鳴を上げる。
なんとか逃げるよう手足をばたつかせ後ずさる。
そんな彼女を向いたオリジンの身体の周囲に何か靄? オーラ? と呼ぶべきものが見えた気がした。
一歩、また一歩とオリジンがクリスティアちゃんに歩み寄る――。
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