入り混じる感情②
あたしを紹介して嬉しそうに笑うお義母様に促され、挨拶をする羽目になった。な、なんて言えばいい? あたしそう言うの得意じゃないし聞いてないんですけどおぉぉぉぉ?
キャパを遥かに超えたあたしは、一人テンパリダラダラと汗を流す。
(だいじょうぶよ。白ちゃん! あなたならできるわ! だってわたくしの可愛い娘なのですもの)
あぁ、期待されてる……。
「は、はく……です。よ、よよよよ、よろしくおねがいします」
挨拶を終え頭を下げたあたしに、まばらながら拍手が送られた。それと同時に聞こえる心の声……。
その声のほとんどが、なんで、あんな子が……? そう言っていた。
その中にはクリスティアちゃんの声も聞こえる。
呪詛? ねぇ、あなたあたしに呪詛呟いてるの?? 怖い! この子顔は凄い可愛いのにヤバすぎでしょ!
その声が聞こえないお義母様は、あたしの背を優しく数回撫でると
「さぁ、お茶会を楽しみましょう!」そうし捲りり、椅子に座りなおした。
「ふふっ。緊張しちゃったみたいね。でも、いい挨拶だったわよ!」
扇を開いたお義母様は、小さな声でそう言ってくれた。本当に優しい人だ。そう思いながら、お礼を伝え紅茶を一口啜る。
カップを持つ手が、小刻みに震えていたけどこの場でそそうをする訳にもいかない。なんとか必死に力を入れ堪えた。
お義母様の元へ続々とお貴族様の奥様や娘さんが挨拶に訪れる。
お妃様の教育を受けているにも関わらず、誰が誰だか分からない。その上、香水臭い!!
なんの香水なのこれ、生臭い? ん~。こう言うのをこの世界の人は好むの? まだトイレの芳香剤の方がマシ! そう思えるほど酷い匂いが充満していた。
『人はにゃぜこんにゃにくしゃいにょだ(人は何故、こんなに臭いのだ)』
鼻をつまみながら我慢ならないと言わんばかりにそう言ったオリジン。
わかるわ~。と心の底から同意する。
「ハクお姉さま」
(チッ、仕方ないから仲良しアピールしてやるわ。そうすれば、王妃様もわたくしの可愛さに絆されるはず。ていうか、なんでこんな不細工が気に入られてるのよ!)
「……はひ」
黒過ぎますよクリスティアちゃん。
そんな彼女に名前を呼ばれ、壊れた機械の如くそちらを向いた。
すると彼女は、肩手にクッキーを持ちあたしの口元へ近付けて来る。
「はい。ハクお姉さま、あ~ん」
「――え?」
な、なななななな! 何事?
焦るあたし。必死に小さな体で、あたしに食べさせようとするクリスティアちゃん。その腹の中は……どす黒いまま。
「あらあら、クリスちゃん。白ちゃんと仲良しなのね~」
そうお義母様の声が聞こえた。
なるほど……狙いはこれか!
そう思った刹那、クッキーがオリジンノ口に入る。
「ひっ!」
短い悲鳴がクリスティアちゃんの口から上がり、集を見回せば見ていた人達は驚いたように瞳を見開き指をさしている。
ん~? あ、そうか! オリジン見えないから、消えたようにみえるのか!
なんであんなに人が驚いているのだろう? そう思って思考を巡らしオリジンがあたし以外には見えない事に気付く。
「あ、ごめんね。えっとオリジンが食べちゃったみたい」
一応、説明する形で謝ってみればお義母様は、納得したように笑い。周囲は引き攣りながらヒソヒソとこちらを見ながら話をしていた。
その目は、異様な物? 異物? を見るようなそんな感じだった。
あ……この感覚知ってる。あの時みたい……。
全身が硬直したように動かなくなり、全身に震えが走る。そして、周囲の視線が自分の身体に突き刺さり、ヒソヒソと話す声が異様にゆっくり聞こえた。
嫌な記憶があたしの脳裏に思い浮かぶ。
その恐怖から、瞼をきつく閉じると俯いた。
その時だった――。
腕を引かれ、椅子から立ち上がる。そして、黒い髪が一瞬見えたかと思うと、柑橘系の爽やかな香りに全身が包まれた。
優しく背を撫でるよう腕が回され、優しい声音が耳元であたしの名前を呼ぶ。
「おに――「白。大丈夫か?」」
「……ん。平気……じゃないよ。クルル様」
「わかった。今少しだけ待て」
突然現れたクルル様にクリスティアちゃんが、かわいらしい笑顔を湛え声をかけようとする。が、クルル様は彼女の存在を見ていないのか。
あたしを抱きしめたままお義母様の方へ向き直った。
「母上。申し訳ありませんが、白はどうやら体調が優れないようです。
今日はこれで辞去させて頂きたいのですが、よろしいですか?」
クルル様の声に、お義母様は「それは大変ね。無理をさせてごめんなさいね」と申し訳なさそうに言ってくれた。
「白、歩けるか?」
無言のまま頷くあたしの腰に手を回したクルル様は、会場の方へ視線を向け「では、失礼する」そう言ってあたしを支えながら廊下の方へ歩く。
会場が見えなくなり、漸く息が出来るような感覚に思いっきり息を吸い込み深呼吸を数回繰り返す。
「すまない。無理をさせた……出来る限り、早めに迎えに行くつもりだったのだが、執務が終わらなくてな」
「あ、あり、がと」
「あぁ。今日は部屋に戻ってゆっくり休むといい」
震えるあたしの背をゆっくりと撫でてくれたクルル様に促され、部屋に向かい二人歩き出す。
「お、おまちになって!」
振り返ったそこには、息を切らしかけて来たのであろう。クリスティアちゃんの姿があった――。
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