お妃修行、敢行中⑦
「白様、お召し変えいたしましょうか」
「え? 今ご飯食べたし、さっき着替えたよね? これで十分だよ?」
「王妃様にお会いになるのですから、おめかしいたしましょう!」
「マジ?」
「マジです!」
昼食の最後の一口を食べ終え紅茶を飲んだところで、ニッコリほほ笑むメアリーが着替えをすると言いだした。
会話でも分かる通りあたしはついさっき、食事前に着替えたばかりだ……なのに、王妃様に会うためだけにまた着替え……。
まさか……まさか、これが毎日??? あぁ、考えるだけで嫌だ。
そう思いながらも、メアリーが悲しい顔をするので嫌だとは言いだせなくて仕方なくクローゼットに連行され着替えた。
王妃様に会うためにメアリーが選んだドレスは、首から肩にかけてレースで装飾されたクリーム色をした優しい色の生地に白や艶やかなオレンジの色合いの刺繍がたっぷり入ったものだった。
漸く着替え終わりソファーに座ると同時にクルル様がやってきた。どっと疲れた後に見るその顔には満面の笑みが乗っている。
あぁ……本気だ。そう思ったあたしは、全てを諦めた。
「準備はできているようだな」
「あぁ、はい」
「母上達も白に逢えるを楽しみにしていると言っていた。紅茶を飲んだら母上たちの元へ向かおうか」
「……はぁ……」
なんでこんなに機嫌がいいんだろう? そう思える程クルル様の機嫌が良い。そこに不信感を抱いておけば良かったけれど……着替えの連発と昼食の満足感からあたしの危機管理能力は仕事をしなかった。
紅茶を出来る限りチビチビ飲み時間を稼ぐもそう時間はかからず……立ち上がったクルル様のキラキラ笑顔つきで、差し出された手をついつい取ってしまった。
王妃様の部屋はあたしが今住んでいる宮殿から、歩いて10分。
まだつかないの? 正直ヒールで10分歩いてるし足痛いし、帰りたい!
そう思っていたあたしが道を覚えているはずもなく、明日からどうやってこようかなんて考えながら、あまりのしんどさに案内役の人を頼もうと考える事すら放棄した。
「白、大丈夫か?」
息を切らし歩くあたしを心配するようにクルル様が声をかけてくれる。
心配するぐらいなら……最初から連れてこないで……。
「だ、だいじょうぶ……じゃな……ぃ」
「そうか、ならいけるな。もうすぐだ」
大丈夫の後を聞いていないらしいクルル様は、組んだままのあたしの腕をポンポンと叩き歩きはじめる。
いや……だから大丈夫じゃないって! マジ、ヒールでこんな長距離あるかせんな……。
『ハクは、その高い履物がにがてにゃにょか?』
うん、凄い歩きにくいししんどい……。
『にゃらば、我が魔法で替えてやるにょだ』
まじ? できるなら踵を低くして!
『わかったにょだ!』
肩に乗っていたオリジンがあたしの心の悲鳴を聞き靴を魔法で変えてくれると言う。
その言葉に早速お願いすれば、頭に乗った葉っぱを手にとり息を吹きかけ聞いた事の無い言葉を呟いた。
すると高かったヒールが無くなりペタっとした靴になる。
そのお陰で、釣りそうだったふくらはぎと足の裏が楽になって歩きやすくなった。
ありがとーオリジン!
オリジンにお礼を伝えたあたしは気分良く歩き出そうとした。けれど後ろに引っ張られるようにしてつんのめる。
「わっ!」
つんのめった原因であるクルル様を見れば、目を見開きあたしを凝視している。
何? どうしたの?
「白……な、なんでいきなり縮んだ?」
「あぁ! オリジンにヒールを失くして貰ったんですよ~! これで歩きやすくなりましたよ~」
あぁ、そうか……クルル様にはあたしとオリジンの会話は聞こえないから、突然腕組んでたあたしが縮んだように見えて驚いたんだな。
そう思ったあたしは、クルル様に事情を説明した。
驚いた顔のまま「そ、そうか」と言ったクルル様は、顔を引き攣らせたままあたしから視線を逸らすと歩き始めた。
階段を登り、花や絵画が飾られた長い廊下の奥に目指す王妃様の部屋はあった。
「白、息を整えたら入室するから、ゆっくり呼吸をしなさい」
「はぁ……ていうか、クルル様口調違いません?」
「……うるさい。とにかく、呼吸を整えろ!」
いつもと違う話し方に、息を切らしながら突っ込みを入れれば脳天を尖らせた指先の関節でグリグリやられた……。
だって、違和感あったんだもん。しょうがないじゃん……。
「いいか? 母上達……特に、第四夫人のミリアナ妃と第二夫人のカザス妃には気をつけろよ?」
「は? 気をつけるって何を??」
「まぁ、逢えば分かる……」
意味深な発言をしたクルル様は、そう言うと扉をノックした。
それ以上聞く事ができなかったあたしは、頭の上にクエッションマークを大量に浮かべながら、扉が辛くのを見つめた。
重厚な両開きになった扉が開かれ、どこか緊張した様子のピシっとしたメイドさんがこれまたピシっとしたお辞儀で迎えてくれた。
なんだろ……メアリーさん達とはだいぶ違う気がする……。
そんな事を考えていたあたしの背中をクルル様が軽く叩いた。
それに答えるように顔をあげたあたしに、クルル様は口パクで『背を伸ばせ、姿勢に気をつけろ。既にみられている』と伝える。
何? そう聞き返そうとしたところで、あたしの耳に少し甲高い声で「まぁまぁ!」と言う女性の声が聞こえた。
現れたその人は、かっちり上げたこげ茶の髪を大ぶりの真珠の髪留めで纏め、モスグリーンのクラシックドレスを纏った少しかっぷくのいい優しそうな笑顔の中に刺すような視線を隠した女性だった。
クルル様のその言葉の意味を、あたしが知った瞬間といっていいかもしれなかった――。
足をお運び頂きありがとうございます!




