お妃修行、敢行中⑥
次の日クルル様は、朝早めにあたしの部屋を訪れる。
「すまないな。朝しか時間が無くてな」
「ふふっ。いいですよぅ~。ご飯一緒にしますか?」
支度を整えこれからご飯と言う時間に来たクルル様に、朝食を一緒にと勧める。すると、既に済ませているらしく、向かいの椅子座り紅茶を頼むとメアリーに頼んだ。
昨日は部屋に戻ると直にもどちゃったからなぁ、クルル様。
久しぶりに朝からクルル様に会えるなんてラッキー。なんだろ? クルル様がキラキラしてみえる。
あぁ、やっぱり素敵。
朝日を浴びる姿も、昼下がりに見る姿も、月明かりに見る姿も……す・て・き。
穴が開くほどクルル様を見つめ、ほぅと息を零した。
それに気付いたらしいクルル様が、視線を逸らしつつペシっとデコピンをかまし「そんなに見るな」と言う。
デレ? これはデレか? やっばっ! 超可愛いんですけどー。
「白、今日は午前中の講義だけだったな?」
「そうですけど……?」
朝食のおかずのひとつであるスクランブルエッグをフォークに刺しながら、クルル様の質問に答えれば「それなら問題ないな」とクルル様が呟いた。
何? お昼から何か楽しい事があるのかな? 昨日の家出、基部屋出は成功と言えるかもしれない。
なんて考えていたあたしに、クルル様は纏う空気を変えると、爆弾を落とした。
「では、昼から少し付き合ってくれ……」
「いいですよ~」
「ならば執務が終わり次第迎えに来る」
「はーい」
なんだろ? 何するのかな? ワクワクドキドキしながらクルル様に、何をするのかと聞けばフッと笑ったクルル様が「母上の部屋に行く」と言った。
意味がわからないあたしは首を傾げ、話の先をクルル様に促す。
「昨日、父上と相談してな。淑女教育以外の時間は、母上たちについて学んでもらう事になった。
いずれ、キチンとした貴族が通うべき学園に行く事にはなるがな……。」
「――は?」
クルル様の言葉を聞いたあたしは、スクランブルエッグをフォークに刺したまま固まる。
早速打開策を打ってきたか……って、イヤイヤイヤイヤなんで? なんでこうなった?
クルル様のお母様。イコール、王妃様。イコール、未来のお姑さんと一緒に一日中いるぐらいなら、部屋に一人でいる方が何百倍もマシだ。
「まぁ、母上以外に三人母が居る訳だが……皆、優しく美しい方々だ」
ちょっ! 何人が固まってる間に語ってるのクルル様!
その姿を思い浮かべたかのような表情をするクルル様に、心の中で突っ込みを入れた。
「え……? ま、まなぶってナニヲ?」
漸く絞り出した言葉に、クルル様は朝日を受けてその切れ長の瞳をやや細め、爽やかな頬笑みを浮かべる。
「王妃として必要な事をだ」
「な、なんで……そ、そんなことに……」
王妃様と一緒に勉強……ありえない。マジでありえない……絶対、嫁姑問題になるよ。それに、王妃様と他の奥さんたち間違いなく、ネチネチ・ドロドロしてるからやだ。怖いよ、行きたくないよ。
クルル様の提案を拒否したいあたしは、オリジンに縋ろうと朝食のサンドウィッチを齧るオリジンに視線を向ける。
するとそこには……クルル様の話しを聞きながら「それがよいにょだ」と言うオリジンの姿があった。
なんとか回避しなければ、もうあれだオリジンに……って、何お前は頷いとんじゃぁ! もっと淑女らしくなればいいだとぉぉ! あたしに淑女らしさがあるわけないじゃないかっ!
なんてオリジンに心で毒づいていたあたしに、眩しい笑顔を向けたクルル様が目を細めたまま手を伸ばし頬を撫でる。
不意をつかれ、つい手に持ったフォークを落としてしまった。
「ハク」
「な、なんですか……?」
なんだろう……凄く、嫌な予感がする。て言うか、聞いてはいけないと脳内のお母さんが言っている。
危機感を感じ、即座に席を立とうとするあたし。
それを回避するよう既に手を打っていたらしいクルル様が、すぐそばであたしの腕を掴む。
耳が痛くなるような緊張がそこにはあった。
逃げたい! ダメだ……これを聞いたら逃げられない!
耳を塞ぐ刹那、クルル様から仄かに香る柑橘系の香りがあたしの鼻を擽るった。
その香りに、僅かに手の動きが鈍り……隙を突いたクルル様の少し掠れた声が、あたしの耳元で囁いた。
「私を好いてくれているのだろう?
ならば、好いた私のために白も努力してくれるだろ?」
「はひっ」
その声に思わず、はいと返事をすればクスっと笑ったクルル様が、顔をあたしの耳から放しニコっとした笑みを浮かべ肩をガシっと掴み何度か叩く。
「では、頼むぞ」
「……くっ!」
ひ、卑怯なっ!
「あぁ、そうだ。母上達は4人いる。
それぞれに日を替え教えてくれるよう頼んであるから、これで寂しくはないだろう?
これで時間を持て余す暇もないだろう?」
クルル様は、実に楽しそうな様子で扉に向かいながらそう言った。
静まり返る室内。
そこには、残されたあたしの肩を気の毒そうに叩くメアリーと、もぐもぐご飯を食べ続けるオリジン。そして、打ちひしがれたあたしが居た。
「な、なっ! なんで、なんでこうなったあああああ!」
『……ハク。これもう食べにゃいにょか?』
窓辺に向かい叫ぶあたしを余所に、食い意地の張ったオリジンはあたしの朝食を狙う。
あたしが望んだのはこんなことじゃない! ていうか、クルル様との時間が欲しいって言っただけなのになんで、なんで……クルル様の親なの?!
マジ意味分かんない……くそっ! どうしてこうなった?
モンモンと脳内で、そうじゃないと考え続けた――。
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