お妃修行、敢行中⑤
「さ……さ、くらの木……どこっ? ていうか、ここどこおぉぉぉ?」
あぁ、マジ最悪だ……迷った。くそー、あの衛兵さえ通りかからなければ後少しで、桜の木だったはずなのにっ!
自分の部屋を抜けだして、桜の木を目指し歩いていたあたしはある庭園に差し掛かったところで、たまたま通りかかった衛兵に不審者と間違われ追いかけ回されてしまった。
追い回されれル間に桜の木までの道がわからなくなってしまい……追いかけた衛兵の姿を思い出し地団駄を踏む。
マジで……自分の国の王太子の婚約者の顔ぐらい覚えててよっ! って、そんな場合じゃない。
右を向いても森、左を向いても森……これは完全に迷った……系だよね?
えっと……こう言う場合ってどうすればいいんだっけ?
確か、学校の山登りの時に先生がなんか言っていたような……えーっと、うーん。
無理だ、あの当時のあたしは山登りが嫌過ぎて先生の顔しか覚えてない。
「はぁ、お腹すいた……こう言う時は、あれだよね味噌汁が飲みたくなるよね……作れないけど……」
って、誰も居ないのに独り言言うとか虚しい。
そうは思いつつもウロウロと歩きまわり、遂には体力の限界を迎え木の根元にへたり込み座ってしまった。
「あー。薄暗くなってきた~。部屋を出たのは昼過ぎだったはず……。こんなことなら、トイレにしとけばよかったよぅ」
薄暗くなった空を見上げ、ぽつりと後悔を口にすれば物悲しさから涙腺が緩む。異世界に来て、こんな風に思うのは何度めだろう。
他人と一緒に居るのに、まるで自分がその世界に存在しないかのようなそんな感覚に寂しさが募る。
日本ならば、少なからず家族がいた……口数は少ないけど、職人気質なお父さん。そんなお父さんを支える料理上手で、よくしゃべるお母さん。
「会いたいなぁ~」
この世界に飛ばされて、大好きなクルル様や沢山の人に会った……けどさ、やっぱり家族には会いたいよ。
ほろりと頬に一筋の線を描いて流れ落ちる滴を、慌てて袖で拭い『大丈夫』だと自分に言い聞かせる。そうしないと、このまま挫けてしまいそうで不安だった。
薄暗かった空がいつの間にか黒に染まり、薄い雲が月を覆う。
ホーホーと鳴くフクロウの声に、はっ! と目を覚ましたあたしが見たものは……。暗くて何も見えない世界だった。
「ちょっ! これマジで遭難じゃん!!」
遭難じゃん――そうなん、じゃん――そう、なん、じゃん――。
わ~。なんでこんなところでこだま聞いてるんだろう~? いあ、そんなのどうでもいい! お家に帰りたいよぉ。このまま一人寂しく空腹にのたれ死ぬのかな……あたし……。
『ハク……死にたいにょか?』
んな訳ないじゃん! オリジンのばかぁ~!
『それで、こんなところでにゃにをしているにょだ?』
迷って部屋に帰れないの……。
『ふむ……そうにゃにょか?』
うん、そうなのよ――って! なんで、オリジンがここにるの?
『にゃにをそんにゃに驚いてるにょだ?』
いや、だって当然のように居たら驚くのが普通だよね?
『ふむ。そうにゃにょか?』
うん。そうだよ。
心細かった気持ちがオリジンのおかげで少しだけ癒された気がした。肩に乗るオリジンにそっとありがとうと伝えれば、周囲が騒がしくなる。
『漸く来たようだな』
へ? 誰が……?
オリジンの声に、誰が来たのかと問いなおした刹那、少し焦ったようなにあたしの名前を呼ぶ声にはっと顔を上げた。
草木をかき分けて現れたその人は、松明を片手に乱れた髪と服装であたしへと駆け寄ると腕を伸ばしギューっと抱きしめた。見上げたその顔は、どこか不安そうで……。
「はくっ! 無事で良かった!」
「く、くるるさま……」
あたしの無事を確認するかのように更にきつく腕を回し、身体を密着させるかのように抱きしめるクルル様。
や、やばっ! クルル様の胸板がっ!! あぁ、やっぱり良い匂いだなぁ~。ってそんな事を思ってる場合じゃない。
ちょっ、いきなり抱きしめるとか……萌え死にさせる気なの?? 何、これは夢?
「く、く、る、る様?」
「はぁー。本当に無事で良かった……メアリーから白が居なくなったと聞いた時は、心臓が止まるかと思ったぞ」
「ご、ごめんなさい……」
名前を呼べば、ゆっくりと離れたクルル様が安心したかのような表情で、あたしを見つめた。
その優しげな視線と表情が――少しだけ細めた瞳にまつ毛が掛り、長めの髪がサラリと落ちて……乱れた服装からはチラリと鍛え上げられた胸板が見えて……。
絶対これスチルだあぁぁぁ。と内心悶え死にしそうになるのを必死に堪え、その顔を堪能する。
「何か嫌な事があったのか?」
「クルル様に会えなかったから、その寂しくて?」
あたしを見つめるクルル様の問いかけに、会えなかったから寂しかったと上目遣いに見上げて伝えれば、ピシっと音が鳴るようにクルル様が停止する。
あれ? 理由としてはまずかった? てか、そんな固まるような……あっ! 好きでも無い子に会えなくてさみしいとか言われたら、気持ち悪いってこと? やっぱりそうよね。
あたしならガチで引くし……って! 今のあたしの状況ヤバくない? ストーカーじゃん!!
あぁ、やらかしたと一人脳内反省会をしつつ、固まって動かないクルル様に申し訳ないと言う表情を向け謝った。
ハッと息を吹き返したように動いたクルル様が「もう、いいから……戻るぞ」とだけ言うと手を差し出してくれる。
その手を握っていいのか悩んでいる間に、焦れたらしクルル様の方から手を握ってくれた。
いつの間にか月に掛っていた薄雲が晴れ、月明かりがあたしたちを照らす。帰り道、クルル様にお礼を伝える。
「クルル様」
「なんだ?」
「ありがとうございます」
「ん……なんだ唐突に?」
「探してくれたんでしょう?」
「ば、いや、なんでもない」
「ふふっ。嬉しかったですよ?」
「はぁ~。まったく白は、目を離すとすぐに騒ぎを起こす……何か対策を練らなくてはならないな……」
「傍にいてくれれば騒ぎは起こさないですよ?」
「……善処する……はぁ~」
深い溜息を零したクルル様が、あたしの頭をグリグリ撫でる。
その後部屋に戻り、他にも沢山の人達があたしを探してくれていたのだと聞き皆にお礼とごめんなさいをした。
心配しましたよぉぉぉ! と涙ながらに抱きつくメアリーに、ごめんねと何度も謝った。
今度お詫びに、皆に日本のお菓子でもと考えた。けれどあたしはお菓子を作れない。ってことで、料理長さんに作って貰おう……と思いながら家出騒動が終了した――。
短くて申し訳ありません。なれないスマホでの執筆なのでご容赦いただきたくorz




