お妃修行、敢行中④
後の顛末を少しだけ、ドリルさんことリーンさんと宰相さんはその日の夜二人で本音を話し合い更に愛が深まったとか……そして件のメイドさんは、宰相さんのつてを使い別のお家で住み込みのメイドをすることになったそうだ。
ほっとしと安心したのも束の間あたしには、重大な事が残っている。
あの日、クルル様に感じた胸のトキメキが何なのか……一人で考えたいと数日部屋に引き籠る気満々だったあたしは……現在進行形で、新しいドレスを作れと言うお義母さまの命令の元……採寸を受けている。
あーでもない。こーでもないと言うメイドさんと、どこかの洋裁店の奥様方。そして、高そうな宝石の付いたアクセサリーをバックに入れたオバサマ二人に囲まれていた。
どうして、こうも簡単に新しいドレスやアクセサリーを持った人が、報告されたその日に来るのだろうか? と、考えつつ冷めた視線で見つめるあたしの脳裏に、ふと先日のドリルさんと
『白様。今度ある方のお茶会でマナーのテストをいたしましょう』
『ほえ?』
『ですから、マナーのテストですよ。
上手くそのお茶会を乗り切れたならば、淑女としてお認めいたしますわ』
『はぁ……お茶会はちょっと、パ――『できますわよね。アレほど愛しいと仰っていた王太子殿下のためですものね。うふふっ』……はひ』
と言うやり取りをした事を思い出した。
誰のとは言ってないけど……ドリルさんは、淑女教育のテストをするとだけ言っていた。なのに何故、義理の母である王妃様があたしのドレスやアクセサリーを――!!
ま、まさか!! 王妃様のお茶会があたしの淑女教育(マナー編の最終テストとかって言うオチなの? うわーオワッタていうか、無理だから……正直、失敗する自信しかないよぅ……。
「白様は、童顔でいらっしゃいますから……色艶やかな色合いより、可愛らしい色合いの方がお似合いになりますわ」
「確かにそうですわねぇ~。でも、胸元の開きは欲しいですわよね……」
「この色合いはいかがでしょう? 殿下の瞳の色になりますし」
「それでしたら、宝飾品はコレなどいかがでしょうか?
殿下の髪の色に瓜二つの色合いですよ!」
あぁ、もう何言ってるのこの人達……あたしじゃわからんって……。
トイレに引き籠りたい衝動をどうにか抑え、これで20回目になる「もういいかな?」を伝えた。
「もう少しですわ、白様!」
「この色も素敵ですけれど、今度のお茶会はクリスティア様もお呼びになるのだとか?
白様には、是非ともあの方に勝って頂きたいですわ!」
「はっ?」
「まぁ! それは、ただ事ではありませんわ!
白様に似合う色、そして何よりも白様を引きたてる色のドレスにするべきですわ!」
「あのー。もういいですか?」
「ダメですわ! これではだめです。もう一度お色の見本をよろしくて?」
かれこれ半日はこうしているだろうあたし。
ドレスはどうでもいいから、いい加減解放して欲しい。
ていうか、クルル様に感じたあのトキメキの正体を知りたいから、クルル様に会いたい! と思うのだけれど、一向に終わる気配がない。
そうして、深い溜息を吐く白であった――なんてね!
『にゃにをひとりでいっておるにょだ?』
あ。ここにあたしの心の声を読むマップ精霊が……一人。
『ま、まっぷぅとはにゃんにゃにょだ?』
ん~。まー地図ってことかなぁ~。そうだ良い事思いついた!
オリジン、お願いがあるんだけど聞いてくれない?
『ふむ……にゃんだ?』
ここにクルル様呼んで! 白が会いたいって言ってる~って伝えて欲しいの! ダメ?
『そんにゃに、くるるに会いたいにょか?』
うん! 超会いたい。
『わかったにょだ。少しだけ待っているにょだ。今連れて来てやる』
わーい。ありがとうオリジン~♪ 後で、クッキーあげるね。
『約束にゃにょだ!』
そう言って肩に乗っていたオリジンが、フワフワと浮き上がるとクローセットを後にする。未だ続くドレスの色を決める会議に夢中の人達を放置して、一人取っておいたジャージを引っ張り出し纏ったあたしは、ルンルン気分でクルル様の到着を待った。
ところが……。待てど暮らせどオリジンが帰って来ない。
漸く一人戻って来たオリジンが、口の周りにクッキーの食べかすを付けた状態でモゾモゾと懐から一枚の手紙をあたしに差し出した。
何これ……?
『クルルから、はくへの手紙だ』
ふーん。ありがとう。っていうか遅い! 何やってたのさ?
『少しクルルと話をしていただけだ』
ふーん。お菓子食べながら? 紅茶飲んで?
『ち、違うにょだ! 誤解だ!』
ジト目でオリジンを見つめ、口の周りについたクッキーのカスを指先で拭きとってやればバッっと両手で口を押さえた。
その仕草が可愛くて毒気を抜かれたあたしは、それ以上オリジンを責めずクルル様からの手紙を開く。
白く手触りが滑らかな高そうな紙に、筆記体にも似た文字で
”今日は執務が忙しく、そちらに顔を出す事はできそうにない。
その代わりと言ってはなんだが、明日の夜で良ければ晩餐を一緒にとらないか?”
と、書かれていた。
その内容に、ぷーっと頬を膨らませ拗ねる。
確かに執務が忙しくなるとは聞いてたし、無理言ってるのは分かってる。けど、オリジンとは、お茶飲みながら話す時間はあっても……あたしとは忙しくて会えないって。
なんかちょっと、お前は要らないって言われた気分になる。
どうせ、あたしの片思いだし……好きじゃないとは言われたけど……それでも、もう少し構ってくれてもいいじゃんって思っちゃうよ。
「はぁ~。もうお茶会とかどうでもよくなってきたぁ~」
考えれば考える程、都合のいい女的な立場じゃないか? と、クルル様に対し腹が立ってきた。
誰にも聞こえない声でポツリと零す。
満腹なのか「ぷくぅ~すぅ~。ぷくぅ~すぅ~」と寝息を立てるオリジンをそっと肩から降ろしクッション上に置いた。
そして、ジャージのままクローゼットを後にする。
未だ話し合いは続いているが、白熱し過ぎて誰もあたしが部屋を出た事に気付いては居ないようで、呼びとめる声もなかった。
そのまま部屋を抜け、庭に抜ける扉を開き外にでる。
この国に来て、ていうかこの世界に来てクルル様と結婚することになって……って、こう言う場合ラノベとかだとなんかしらイベント的な物あるはずなのに、あたしにはそのイベントが無い。
もっとこうさー。ライバルとガチガチ――あぁ、即負けしそうだから、それは無しで。
そうだ! あたしを本気で愛してくれるイケ――いや、それはなんか浮気してるみたいで嫌だなぁ。
うーん……ぶっちゃけ、あたしに何かイベントが起こったとしてどうにかできるのかな?
あれ? まったく自信が無いぞ……やべぇ。
お腹すいたし、起こらないイベントの事なんか考えても意味ないしいいや。と考える事をやめる。
そのままウロウロするのも目立つし、連れ戻される可能性があることからこの世界へ来た時にあった大きな桜の木の下へと向かう事にした――。
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