お妃修行、敢行中①
「白様、背が曲がっておられますわよっ。ホホホホ」
「はひっ!」
庭園で優雅に紅茶を飲む昼下がり……微笑むドリルのリーンさんが、あたしの座り方が悪いと、優雅に指摘する。
もう、お茶の味すら判りません……。アレから10日、毎日休みなく行われるお妃様修行に既に音をあげそうです。お母さん……。
「そう言えば、今度白様のお披露目を王妃様主催のお茶会で行うそうですね」
「えぇ。そのように、伺ってますです。はい」
「おります。ですよ……白様。さぁ、もう一度?」
会話の返事を間違えるとこんな感じでやり直しをさせられ続ける。
もう、ヤダ……クルル様のお嫁さんにはなりたいけど、笑いなれていない頬が筋肉痛で無理だよぉー!
けれど、そんな事は口が裂けても言えない……。だって、ドリルのリーンさん眼力がヤバい!!
「そう言えば、今度白様のお披露目を王妃様主催のお茶会で行うそうですね」
「えぇ……そのように、伺っております……」
「それで、ドレスはもうお決まりになりまして?」
「――っ!!」
ドレスとか知らないし……全部、メアリーに丸投げだよっ! と言葉に詰まったあたしの横に座るドリルがパサっと扇を広げて、眼だけで凄んでくる。
知らないものは知らないんだもん……。
『ハク。そこにょケーキがほしにょだ。食べてもいいか?』
「あぁ、はいはい。コレ?」
『違う。そこにょ右にょだ』
「イチゴのね。はい、どうぞ~」
肩の上に座るオリジンがケーキを強請るので取ってあげる。不思議そうな顔をしたドリルのリーンさんが、目を見開きオリジンのいる肩を見つめた。
もしかして、精霊がみたいの・・…?
「オリジン。リーンさんにご挨拶したら?」
『にゃぜだ?』
「凄い、オリジンに会いたそうだから?」
『仕方がにゃい……そにゃたは嫌がるだろうが、しばしの間大きくにゃるにょだ』
そう言葉にした途端、オリジンが人型位の大きさになり姿を見せた。イケメンの容姿なのに、パイを口一杯に頬張りその美形を崩しながら咀嚼する。
それを終えるともうひとつ口に入れ頬張り咀嚼した。三つめを手にしようとしたところで、オリジンの手を握り「ご挨拶」と心の中で囁いてあげた。
ハッとした顔をしたオリジンが大きくなった目的を思い出したかのように、ドリルのリーンさんに向かいその声を大にして名乗りを上げる。
「我名は、オリジン。生命を司る精霊だ。我が主が世話になっているようだな。できる事があればいつでも言うがいい」
え? それだけ……ほら、もっとハクに優しくしてやってくれとか、言うことあるでしょ? ねぇ!
そんな私の心の声を無視するオリジンは、挨拶が終わると同時に二つケーキを両手に持ち小人サイズになると咀嚼し始めた。
だめだ、この精霊役に立たない!
『にゃににょいうにょら、もぐもぐ、わたひゅはきちゅんと、もぐもぐ、あいしゃつをしゅましぇたぞ』
(何を言うのだ。私はキチンと挨拶をすませたぞ)
どこがだよっ!! 挨拶って名乗っただけじゃん。何が出来る事があれば言うがいいだ。あたしに優しくしてやってくれとかそういう言葉を言うべきじゃないの?
オリジンのバカ、バカ、バカァァァァァァ!
はぁ、オリジンの役立たず……。お菓子食べる以外何もしてないじゃないか!
「あら、ハク様は本当に精霊様をお連れになっているのですね……私、精霊様にお会いしたのは初めてですわ」
「そうですか……オリジンは、普段小人のサイズで見えないのですが、常に私の側にいてくれる精霊なのですよ。オホホホ」
「ふむ……少し硬いですが、まぁ、いい返しですわね」
「ありがとうございます」
あぶねー。ちゃんと返せて良かった……マジ、こう言うテスト止めてほしいよ……。
もうリーンさんって言うの面倒だから、ドリルさんにしよう。ドリルさんには、この10日ずっとこうして言葉遊びをさせられながら、お茶の飲み方とか食べ方を指摘され続けている。
そして、午前中は……もう一人の奥様ことメリルさんに、永遠と呪文の様な貴族の名前を覚えさせられている。
気の休まる時間がない。挙句クルル様とはこの10日まったくと言っていいほど会えていない。
デレたと思ったのになぁ……勘違いだったのかなぁ? まー、好きじゃないって言われたし多分勘違いだったんだろうな。
「あのー。リーンさんに聞きたいんですけど……」
「どうかなさいまして?」
「旦那様とラブラブって聞いたんですけど、どんな感じでラブラブになったんですか~?」
「ら、らぶらぶ?」
「あーえーっと、相思相愛? 好き合ってる? 愛し合ってる?」
「あぁ、夫婦仲がよろしいと言う意味ですわね?」
「そうです! そうです!」
ドリルさんと言うよりこの世界の恋話を聞いてみる。正直、クルル様がどんな風にあたしを思って居るのか分からない現状で、あたしからアタックするにしてもこの世界のやり方を知らない事には何もできないから……。
「そうですわねぇ~。夫婦になる前に夫はわたくしに毎日のように会いに来て下さいましたわ。それで……会いに来る度に花を一輪必ず持ってきて下さいましたの」
「なるほど……素敵ですねぇ~!」
頬を染めながら、ドリルさんが昔を振り返る。
こう言う表情は乙女なんだけどなぁ……毎日に会いに来て花を一輪かー。本気で好きだったんだろうなぁ~。
「それなのに、あの人ったら……初めての社交界で、わたくしをエスコートして下さると思っていたのに、他の女性をエスコートしたのですわっ!」
「えぇ! それって浮気じゃないですかー!」
あ……扇が折れそう……ミシミシ言ってるから、それ以上曲げちゃダメ!
要らないことまで思いだしたらしいドリルさんが、青筋を立てた凄い形相で右手に持っていた扇をへし折りそうな勢いで曲げた。
「まぁ、事情があったらしいので今となっては笑い話ですませてさしあげますけど……あの当時、相当泣きましたわねぇ~」
「なるほど……事情ってなんだったんですか?」
「それが、聞いて下さいます? ハク様」
「えぇ、もちろんですわっ!」
前のめりで聞けと言うドリルさんに合わせて、ついつい言葉遣いを変えてしまうあたし。
どこぞの井戸端会議のように、優雅なティータイムが旦那さんの愚痴と言うよりは、浮気を追求するような場になってしまった。
ドリルさんの旦那さんは、どうやら家柄や見た目が良かったらしく相当にもてたらしい。
初めての社交界の日の前日、幼馴染の女性にこれで最後だからと泣きつかれ、仕方なく彼女をエスコートしてしまったらしい。
宰相はドリルさんと、幼馴染の人は別の男性と結婚した。けれど、幼馴染の女性の旦那さんが病気で亡くなり女性は独身に、幸いにも幼馴染の人と死別した旦那さんの間に子供はいなかった。
けれど、旦那さんを失くして未亡人になった彼女は旦那さんの実家からまだ若いからと言う理由で、新しい人と家庭を築くべきだと言われ生家へと戻されてしまったそうだ。
彼女の生家は、所謂、爵位だけを持った貧乏貴族。彼女が戻ったところで緊迫した状況は変わらない。それ以上に家は苦しくなる一方だったと言う。
そこで彼女は、宰相さんを頼って訪ねて来たとドリルさんは紅茶を一口含み息を整える。
訪ねて来た彼女に対し宰相さんはなんと……ドリルさんに相談も無く、その日の内にメイドとして雇い。自分の屋敷に住まわせる事にしてしまいドリルさんには全て事後報告で済ませたと言う。
なにそれ……結婚した後まで、面倒を見る必要があるの? ていうか、一緒に暮らすって無しでしょ? 幾ら、旦那さんがいなくて生家が大変だからって……あたし的には無し。
話し終えたドリルさんの表情が今まで見た事がない程寂しい笑顔だった。
初めて会った時の光る眼は姿を隠し、今は自信なさげで、酷く悲しそうに揺れている。
その表情に、見覚えがある――全てを諦めていたあの頃の自分だとそう思った。
きっとドリルさんは言いたい事も言えず、宰相さんに対してどう伝えればいいのか分からないんじゃないかな? だったらあたしが彼女の味方になってあげよう。
そうして、行動に移す……お節介は承知の上だけど、リーンさんをどうにかしてあげたい。
「行きましょう!」
「えっ? ハク様? どうされましたの?」
「旦那さんのとこに行きましょう! 宰相だかなんだか知らないけど、リーンさんの事本当に好きなら、その人とは手を切って貰うべきです!」
勢いのまま席を立ち、あたしはドリルさんの手を取り宰相さんの元へ向かう。
奥さんにこんな顔させてるなんて本当に最低だよ。むっちゃ腹立つしこう言うのは好きじゃない!
足を運んで下さりありがとうございます。
すみません、予約投稿がなぜか……22時になってました!




