大好きなカレはツンツンからツンデレになるみたいです⑥
静かになったトイレの扉の向こうから、一生懸命私に声をかけてくれるメアリーさんとアマンダさん。そんな二人の声に絆されたあたしは、扉の鍵を開け顔を出した。
「白様! ようございましたわ。さぁ、参りましょう……」
「うふふ。下種は成敗しておきましたわっ!」
そう言って微笑んでくれる二人の後ろで、頭を押さえたイリュス様と鳩尾を抑え痛そうな顔をしたクルル様が苦笑いをしながら立ち上がる。
さぁさぁ、と腰に手を置いたメアリーさんに促され、まずは着替えを済ませるのか、続き部屋に連れて行かれた。
胸の大きさを気にするあたしに、メアリーさんたちはほとんどの女性はこうして大きく見せているんですよと……死ぬほどコルセットを締めあげたっ!
「はうぅぅぅぅぅ!」
「白様のために今まで手加減しておりましたが、これで思う存分その美しさを際立たせられますわね」
嬉々とした顔で、コルセットを締めあげるメアリーさん……本当にヤバいです。色々と出そうですってば……確かに巨乳にはなりたい、でも、無理ぃぃぃぃぃ!
さっきまで泣いてたはずのあたしにそのショックの余韻に浸る余裕すら与えてくれないメアリーさんたち出来るメイドさん部隊。
一時間位かけて、出来あがったドレス姿を見た彼女たちは、口々に褒めてくれるものの……あたしにそれに答える元気は残されていなかった。
ソファー座り、寛ぐ基息を整えるあたしの横に当然のように座ったクルル様が、本当に本当に小さな声で「白。私は別にお、お前のであればそれでいいだけだぞ?」とデレた。
クルル様がデレた? 何があったの? て言うか、デレ方がまた可愛いんですけどー!
なんて事を考えていたあたしを余所に、何事も無かったかのように大事な話があると話を切り出したクルル様は、イリュス様の方を見た。
「白様には、明日より講義を受けて頂く事になります」
「は?」
「淑女教育と言うよりは、王太子妃の教育だな」
「聞いてない」
「今伝えている……」
「勉強するの?」
「そうだ」
「えぇ。これには、陛下も王妃様も賛成しておられますし。白様が婚約者になられた時点で教育係を手配もしておりましたので……」
そう言えば、ラノベとかにも良くあったな―。淑女教育と言う名のお妃さま教育。歩き方とかダンスとか色々仕込まれるんでしょ~? あたしに出来ると思うの? 引き籠りで人の目すらまともに見れないあたしに……。
「あのぉ……、辞――「明日の午後には講師をして下さいます。ニュールヘル公夫人とコーリアル伯夫人がいらっしゃいますので、ご準備をなさっておいてくださいね」」
いい笑顔で微笑むイリュス様。そんな彼に脳内で盛大な突っ込みを入れる。
いや、いや、あたしに勉強しろと……!! しかも、中学以来学校と言うものに行っていないあたしに……!
鬼畜ですか? 絶対イリュス様はサドですよね? 間違いです。もう脳内サドと変換します。
準備しておいて下さいって言われても、ここの世界の文字が読めるかどうかもわからないのに……シャーペンとノートあるのかな? まさか、羊皮紙とか羽ペン使うの?
やばー。不安しかない……文字が日本語でもいいのかな? 日本語以外……できないよ?
「あの……質問してもいいですか?」
「どうした?」
「えっと……勉強って言われても、こっちの文字とか知らないんですけど……」
「え?」
「あっ!」
「はっ!」
あたしの質問に、三者三様の反応を示したクルル様、メアリーさん、イリュス様の三人が順に視線を逸らしていく。
だよねー。忘れてたよね―。あたしだってさっき思い出したし?
「これって、無理じゃないですか?」
ここで、折れてくれれば勉強は免除されるはずっ! と淡い希望を胸にイリュス様を見れば、その瞳をキランと輝かせ、近くにあった本棚から一冊の本を取り出すとあたしにひろげて見せた。
ふむ……緑の夢国と呼ばれる大自然に囲まれた国が、オリジン達の生まれた妖精の国かぁ~。ほうほう。それでそれで――。
「次めくってくれません?」
この本はオリジン達の住むとされる妖精の国の詳細が想像で書かれているみたい。
もう少し先を読めば詳しくわかるだろうけど……イリュス様が捲ってくれない。焦れたあたしは、イリュス様にページをめくるようお願いした。
ペラっと開くページと同時に、サド様の嬉々とした声が響いた。
「文字は問題なく読めますね」
「そ、そんなぁぁぁぁぁ! 卑怯だ―!」
「何が卑怯なのですかっ! 読めるかどうか試しただけでしょうがっ!」
「ヒドイヒドイヒドイヒドイ!」
「まぁ、まぁ、二人共落ち着け。白は本が読めて良かったではないか。イリュス、白に合わせてお前まで幼い言葉遣いになってどうする」
騙された! イリュス様酷い。もうサド大王と呼んでやるっ!
苦笑いを浮かべたクルル様が、頭を撫でながら本が読めて良かったと言ってくれたけれど、あたしとしては読めない方が良かった……。
なんでそんなに嬉しそうなのクルル様。
恨めしと言わんばかりにクルル様を見つめ、どうにか勉強会を無しにできないかと悪だくみを考えてみるも結局、これをやらないとクルル様の嫁にはなれないと言われてしまい。
がっくり項垂れながら諦めた――。
次の日、いつもより早い時間に叩き起こされたあたしは、寝ぼけ眼のまま出来るメイドメアリーさんたちに案内され、入浴、マッサージ、締め上げ、化粧、着替えを済ませ、漸くソファーに座ったのは、昼ちょっと前だった。
朝食は、手軽に食べられるサンドウィッチだけ……とてもじゃないが、足りない!!
お腹が空いたよとメアリーさんに伝えれば、どうぜ後程嫌というほど食べますよと言われ、何も食べさせて貰えないまま、講師二人を前にした。
「お初にお目に掛りますわ。ハク・アマチ様。
この国の宰相をしておりますユーギルス・ハウンド・ニュークヘルの妻で、リーンと申します。担当は、マナーですわ。宜しくお願い致しますわね」
そう言うと、金髪のサイドを結い後ろをドリルの如く縦ロールにした切れ長の目に、濃い赤い口紅を差した美人さんが綺麗なカテーシーを決めて挨拶した。
続くように横に立った、赤茶の髪を綺麗に纏めあげた少しぼーっとした感じのご婦人が挨拶をするため一歩前にでた。
「お初にお目に掛りますわ。ハク・アマチ様。
歴史やこの国の貴族に関する全てを担当いたします。
ヒューバート・ハンクス・コーリアルの妻で、メルリと申します。宜しくお願い申し上げます」
そして、ピシっと決められるカテーシー。
徐にソファーから立ち上がったあたしが出来る事は、日本風……90度に腰を折り自己紹介した。
「ハク・アマチと言います。宜しくお願いします……」
頭を上げたあたしは、ドリルロールのリーンさんの目が光るのを見逃さなかった。
やば……さっそく目を付けられてしまったかもしれない……。
そうして始まった、地獄の日々――。
あたしはこの日この時のあの光った眼を忘れない・……。
足を運んで頂きありがとうございます。




