リーンの正体③
「えっと、その野田君と言う人はなんか関係あるの?」
いきなり出て来た野田君に気を取られたあたしは恐怖も忘れ、話し方が普通に戻っているのも気付かず金平さんに話しかけた。
「うーん。関係あるっちゃあるのかな? 詳しくはあたしも聞いてないけどさ。実はあの頃ショーコが、その野田のこと好きだったんだよ」
野田君……野田君? 野田君って、どんな人だっけ? うちに中学野球部は全員坊主だったし、興味の欠片も無かったんだよね。あたしは乙女ゲームの推し以外興味が無かったからなー。あー、野田君が全く思い出せない。本当に存在してたの? その男子。
どんなに思い出そうとしてもかすりもしない野田君を諦め、金平さんに話の続きを促す。
「……それで?」
「でさ、ショーコが野田に告ったわけ。んで、そん時に野田は、天地さんが好きだからごめんって断ったらしいんだよね」
天地さんが好きと言う文言を聞いたクルル様の眦がピクリと跳ね上がる。
ちょ、クルル様手が、手がつぶれるから……握る力、弱めて!!
ってそんなことより、もしかして思いが通じなかったからその腹いせで二次被害を被ったとか言う話じゃないよね?
「もしかして、二次被害で……?」
「いや~、うちらも止めたんだよ? 天地さんが野田と話してる所見たことなかったし、絶対ショーコの勘違いだって! けど、あいつなんかすげー自信満々でさー」
待って、ちょっと待って、イジメの原因って、野田君と勘違いした前原さんのせいであって、あたし何もしてないじゃん!!
うわー、あたし今まで散々悩んできたのに……こんなオチはない。
「しかもだよ。ショーコは、天地さんがショーコが野田のこと好きなの知ってて、野田にちょっかいかけたって言うし。うちらもどうしていいか分かんなくってさー」
「はぁぁぁぁぁ? 野田君って人の顔すら浮かばないのにちょっかいなんかかける訳ないじゃん! あたしの好みはこの顔だよ!」
ソファーから勢いよく立ち上がり、フンスと無い胸を張ったあたしはビシッとクルル様の麗しい顔を指した。
それをやんわりと手で包み降ろしたクルル様が、嬉しそうに微笑みながら「口を挟んで悪いが、私たちにも判るように話して欲しいのだが」と言う。
よっぽど嬉しかったのかクルル様が、あたしの手を引き抱き抱えるようにしてソファーに座らせる。
「ちょ、クルル様?」
「……いやなのか?」
「嫌じゃないです」
「ならいいな」
クルル様に見つめられると顔に熱がっ!! 絶対あたし真っ赤だ。あぁ、そのイケボで、嫌なのかとか聞かないで―! 嫌な訳なじゃん。
あたしとクルル様を交互に見てポカンと口を開けた金平さんが、悔しそうに「リア充が、マジで爆散しろっ」と拳を作って、叫んだ。
「あ、ごめんね……その、そう言うつもりは無かったんだけど」
「はぁ~、天地さんのそう言うとこがショーコに勘違いさせたんじゃないの? くそっ、こっちとら彼氏いないんだよ。マジ目の前でイチャイチャすんのやめて?」
「はい、すいません。でもクルル様はあれだよ。落ちてから無茶苦茶甘くなるタイプなんだよ! アレクもだけど、この世界の王子様やばいよ」
「あー、そうだったっけ? ってそうじゃない! 説明だったよね? えっとーショーコが好きな野田に告白して、天地さんが好きだって振られて、ショーコはプライド高いからそれを隠したくって勘違いしたふりをして腹いせ紛れに天地さんをイジメたの! わかった?」
金平さんには申し訳ないけど、今の言い方じゃ王族のクルル様や貴族のイリュス様、精霊の皆には伝わらない。ていうか、何勘違いしたふりって、あたし聞いてない!
ていうか、わかって無さそうな人たちに説明するのはあたしの仕事だよね。わかってますよ。やりますよ。
自分がイジメられていた事をなんでわざわざ、本人が説明しなきゃいけないんだろう。
仕方なくあたしは、金平さんの話を翻訳した――。
『くだらん』
「自分の想いが伝わらないからと白に八つ当たりするなど、全くもって淑女の風上にも置けんバカ者だ」
「御令嬢ですら、そんな理由ではイジメたりしませんよ。呆れてものが言えませんね」
「白様、お可哀想に……」
「仇は必ず……」
『主様、妾がその馬鹿を喰ろうてやるぞよ』
『巻き込まれ損じゃねーか』
「うちの白様を……許すまじ……」
『呆れるしかないな』
『ハク〜、大変だったね〜』
翻訳を終えた途端、皆してこの言い分である。
呆れた顔のイリュス様が頭を振り「白様の世界は、バカしかいないのですか?」 と付け加え。怒り心頭のクルル様は「白、もう二度と相手する必要はない。お前は私が守る」と甘い笑顔付きで言い切った。
壁際で出来るメイドさん部隊から殺気が漏れてるのは気のせいだって思いたいです。
「……天地さん。本当にあの時はごめん。謝って済むことじゃないのはわかってるんだけど……。これ、どうに課して欲しい。流石に、食べられるのはちょっと……」
「あー。えーっと……た、タブン大丈夫。グレイシアには、穏便にお願いしておくよ」
「あぁ、そうかよか――は? 穏便に何をお願いするの!」
「……平和的解決?」
「……そう」
グレイシアには、平和にねと伝えておいた。出来るメイドさん部隊の殺気は、あたしの手に負えないから諦めて欲しい。
金平さんにそっと手を合わせ、心の中で謝った。
明日もまたよろしくお願いします!




