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リーンの正体②

「ひとまず先に自己紹介する方が良いかな。あたしの名前は金平(かねひら)由紀子(ゆきこ)。天地さんと同じ中学の同級生で、同じクラスだった。彼女が学校に来なくなるまでは……」


 彼女が名乗った瞬間、あたしの頭の中でクスクスと嫌な笑いを浮かべる女子グループが浮かんだ。


 左から、おさげ頭に利発そうな目元の川原(かわはら)(じゅん)

 大人しそうな見た目の前田(まえだ)ヒナタ。

 中央に居るのは、見た目は美人だけど気の強そうな眼をしたハーフアップの髪型の前原(まえはら)祥子(しょうこ)

 そして、前原さんと一番仲の良かった自分物が彼女――金平由紀子だ。


 彼女は常に前原さんを持ち上げ、褒めたりしてた。見た目は茶髪に薄く化粧をしててチャラそうなのに意外とフォローが上手くて、前原さんも頼りにしていた。


 なんで金平さんが、どうしてここ――この世界にいるの? なんで、本人の姿じゃなくてリーンの姿をしているの? 考えなきゃ、考えなきゃいけないのに……。


「……うそ、だ」と、否定するのであたしは精一杯だった。


「いや、マジだよ。ショーコのこと、純のこと、ひなたのことも知ってるでしょ? まぁ天地さんからしたら聞きたくない名前だろうけど……」


 眉を八の字に下げた金平さんは気まずい顔をすると、あたしに「あの時は本当にごめん」と謝った。


 何度謝られようと彼女たちにされた過去が消える訳じゃないし、許すことはできない。けど、彼女がリーンじゃないって事だけは信じられる。


「金平さんは、どうしてそのえっと――」

『――その身体は、そなたのものではないな?』


 言い淀むあたしの言葉を、いつの間にか大人になったオリジンが引き継いだ。

 すると今度は金平さんが「あー、それはー」と言い淀み、少しだけ考える。


「なんつったらいいのかな……えっとね。あたしがなんでこのリーンって人の中にいるのかは、あたし自身もよく分かってないんだよ。ただ、気づいたらこの状態になってて、教会の奴がいた。奴らは何を聞いても詳しくは教えられないって言うだけで、しつこく聞いたらなんかの薬を飲まされて意識が無くなって、気づいたらここに居たって状態なんだよね」


 真実かどうかをイリュス様がオリジンに聞く。答えたのはグレイシアで、彼女が嘘を言っていないと教えていた。

 クルル様は話の内容を精査中のようで無言で金平さんを見てる。

 オリジンたちに人為的に中の意識を――魂を入れ替える事が出来るのか聞いた。皆の答えは、わからないだった。

 

 今考えるべき事は……えっと……ダメだ。リーンの姿をしていても金平さんなんだって思うと視線が怖くて考えがまとまらない。あの当時受けたトラウマのせいで目の前がくらくらする。


 ぶり返した恐怖をやり過ごそうと深呼吸を繰り返す。収まりそうにない眩暈にぎゅっと眼を閉じた。

 暗く暗転した世界で、彼女たちのニヤニヤした笑い顔が浮かぶ。


 強くなったつもりだったのに、あたしは相変わらずダメダメで……怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖いと、助けを求めるように何度も心で呟いた。


 安心できる温もりを求めてクルル様に手を伸ばす。薄く開いた瞼から覗き込むようにして、クルル様を探していると金平さんと目が合った。

 その瞬間、彼女の顔がニヤニヤとした笑いを浮かべた様に錯覚したあたしは恐怖で力なく腕を垂らす。


『ハク、大丈夫? 凄い汗かいてるよ? この子がいやなの?』と、ニマ君が心配そうに見上げる。


 ソファーの上で行き場を失ったあたしの手の甲をクルル様が、励ますように力強く握ってくれる。擽るように親指の腹で甲を撫でられ、顔を上げるとクルル様の唇が『任せろ』と音なく呟いた。


 安心したからか、嬉しいからかわからないけど酷く泣きたくなった。

 目頭が熱くなると自然と視界が歪む。眼に力を込めて泣くのを我慢する。

 

 金平さんをどうするか考えるのはあたしの仕事だ。だってそのためにこの部屋に来たんだもん。

 多分だけど、あたしが金平さんを拒絶したらきっとクルル様たちは有無を言わさず彼女を放り出すよね。正直本音を言えばそうして欲しい部分もある。だって金平さんを全面的に信用するつもりがないから。


 それでも、金平さんをここで匿うべきだ。本当は凄くいやだけど、仕方ないよね。

 この国に起こってる問題――店で売られていた精霊のコイン。商人の行方。クリシュアに命の代償がある魔法陣を使わせた理由。本物のリーンの居場所。教会のこと。後、学園から消えた精霊――を解決するのに、どうしても彼女の見た物、知った事が必要だと思う。


 それとこの人にどうしても聞きたい事がある。


 意識して瞬きをしたあたしは出来る限りキリリと見えるように表情を作る。


 ドリル先生みたいに出来ないかもしれないけどやれ! 落ち着いて、大丈夫! 何度も何度もダメ出しくらって出来たじゃない。クルル様もオリジンたちも居るんだから……大丈夫!


「えっと、あなたが金平さんだって事は信じます。だから、ひとつだけ教えて欲しい事があります」

「な、何?」


 あたしの敬語に金平さんの顔が引き攣ってる。だけど、ここはちゃんと聞きたい。


「あの時……あたしがターゲットになった理由は、なんですか?」


 イジメが始まる前日。前原さんのバレッタが彼女の顔に似合わない色だったから、別の色の方がいいよと言ったのは覚えてる。

 それでイジメに発展したのなら仕方ない……全く納得は出来ないけど、彼女の矜持を傷つけてしまったのだと諦める。もし違うなら、その理由が知りたい。


「うんとさ、天地さん覚えてるかな? 同級生で野球部に野田っていたの」


 野球部の野田君って誰? 全く記憶にないんだけど?


 記憶を漁ったあたしはフルフルと横に首を振る。すると金平さんは、ばつの悪そうな顔をして「やっぱ、ショーコの勘違いじゃん」と零した。



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