リーンの正体①
イリュス様を先頭に地下へ降りたあたしは、恐怖に負けそうな心を必死にニマ君の柔らかな毛並みで癒す。
あー、どうしたらいいの? あたしがリーンと会うとかないよね? だって、リーンってあれでしょ、可愛い女の子でしょ? あたしじゃ、どうやっても勝てない……。いや、勝つ必要はないよね。なんで勝たなきゃいけないっておもったんだっけ? あれ? そうだった。クルル様を取られたくないからだ。
「ご苦労。中の様子は?」
「はっ、特段何もありません。大人しく部屋にいるようで、物音ひとつ聞こえません」
「そうか」
部屋の前にいる騎士様と話し終えたイリュス様が、扉を開ける。ランプに照らされた室内は意外と明るく、部屋は広くない。そうは言っても、日本の六畳一間の三倍ぐらいはありそうだけど。
部屋の内装はガチであたしの好みだった。リーンさえソファーに座っていなければ……。
「クルル様~、やっほ~」
気の抜けたと言うか気を抜きすぎている様子のリーンは、寝ころんだままクルル様たちの方へ顔を向けると手を振って見せる。
ちょ、何から突っ込めばいいの? ヒロインなんだから、見た目気にしてって言うべき? それとも、うつ伏せに転んで足立てちゃダメって言うべき? はたまた、クルル様にやっほ~は無いって言うべき?
大混乱のあたしはクルル様の影から呆然とリーンを眺めた。
『これが、あれにゃにょか?』
『……私の知るリーンとは別人のようだ』
『主様、大丈夫かえ?』
『うわー、凄いねーアノ子、ハクでもしないような体勢だよ~』
『はん、大したことねーな。それよりも、俺らの事見えてんのか?』
言いたい放題の精霊たちの声にハッと覚醒したあたしは、唯一心配してくれたグレイシアに心の中でありがとうとお礼を言った。
一歩中へ入ったイリュス様が、ちらりと壁の方へ視線を移す。釣られるように見た壁際には、できるメイドさん部隊が勢ぞろいで黒い笑顔を浮かべていた。
「その子がが、クルル様の婚約者?」
問に答えないままクルル様とイリュス様に挟まれる形で移動したあたしは、突き刺さるようなリーンの視線に耐える。
『こやつ、不敬じゃ! 我が主様に何という不躾な!!』
羽を広げて怒るグレイシア。
『うーん。この子、前に会った時とは違うよ~?』
ニマ君は、コテンと可愛く首を倒す。
『ふむ、やはりこの娘にはにゃにが隠されているようだ』
オリジンは、小人姿で眉間に皺を刻んでいた。
それよりもリーンの口が超絶、悪いんですけど? あたしの知ってるリーンは、こんな子じゃなかった。素直で、誰分でも優しくてみんなに好かれる性格をしてた。このリーンには、それがない。あたしの感覚から言うと目の前にいるリーンは、日本人の高校生っぽい話し方だし、所作がリーンとはまるで違う。本物って言われても信じられない。
「て言うかさー、なんでここに天地さんがいんの?」
「はっ?」
予想だにしなかった言葉にオリジンやニマ君たちが警戒を強め、クルル様とイリュス様は眦をあげる。
一方の苗字を呼ばれたあたしは、ガバッと音がなりそうな勢いで顔をリーンへ向けた。
『ハク。この者と食堂以外で会ったりしたにょか?』
――イイエ。
『この女に名乗った事はねーのか?』
――イイエ。
『例えば、学園とかですれ違ったりは……』
――タブン、イイエ。
オリジン、ノヴァ、クリシュアの順で聞かれたけど、あたしの答えは決まっている。全てがイイエだ。頭と言うか思考が酷く混乱している。
目の前に座っている少女は、間違いなくリーンでLove with youのヒロインと同じだ。腰までのプラチナブロンドの髪も晴れた日の海の色の瞳も、顔の造詣も、胸の大きさもっ。
「あー、やっぱそうじゃん! 天地白だよね? あたしの事覚えてない?」
「……覚えてないと言われましても?」
当然のように問われたけどあたしに誰かなんて分かる訳がない。だって見た目リーンだし。
皆の視線が一気に集まりる。皆の眼が知ってるのか? と問いただす。けれど、あたしは知らないと頭を左右に振った。
「悪いが、私の許可なく婚約者に話しかけるのは止めてくれ。条件はいくつかあるが、それを守ってもらえるのであればお前を保護してもいいと思っている」
片手であたしを庇うように抱き寄せたクルル様が、射抜くような視線でリーンを見ながら本題を話す。
保護してもいいとクルル様が言った途端、リーンは両手を上げて「マジ~? やったぁ~」と、喜んだ。
眼鏡を上げたイリュス様が「一つお伺いしても?」とリーンに聞けば、彼女は起き上がりソファーに座ると片手を出して「……どうぞ?」と答えた。
リーンの表情に憂いは無く。話せることは全部話すと言う言葉に嘘はないみたい。
「あなたが、彼女の名前を言い当てた理由はなんですか?」
「あー。それはね。うーん。ちょっと待ってね。どこから話せばいいかな~」
しばらくの間腕を組み、ソファーに胡坐をかいて悩んだリーンは「これから話すことに嘘はないから、あと天地さんには先に謝っとく。あの時はごめん」と頭を下げた。
「ひとまず先に自己紹介する方が良いかな。あたしの名前は――」
また、明日更新です。
ひっぱってすいません……。




