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響くは『ハーメルン』の笛の音  作者: 勇寛


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「それで、一旦引き上げてきたわけね。……あまり気持ちのいい話ではないけれど」


 和人たちの報告の最後に、若年者だけのグループが「オレンジ」跡地で存在していることについての説明をうけて祥子はうなる。


「誰かを連絡係に残していくというのも考えましたが、双方の緊張を煽るだけになりそうです。それでは何も解決しませんし、強引に連れ帰るのはそもそも論外。そしてあの場に長居するというのはさらに悪手です。いつ襲撃を受けるかわからない周辺状況の不確かな場所に皆を留めるのは避けるべきです」


 繕い跡の残るソファに座り、そういう和人。

 彼の横には、「アキカンヒロイ」への合流に同意した恵美が和人の報告の補足として座っている。

 順平たちのグループに保護された形の彼女は、あくまで仕方なしにそこにいる形だった。

 より安全であるだろう「アキカンヒロイ」への合流は当然の判断である。

 順平たちへの恩があるのでは、という声もあろう。

 しかし、少年たちは隠しているつもりだろうが、恵美の離脱をむしろ歓迎している風でもあった。

 年齢差というものもあるだろうが、それ以上に彼女一人分の食い扶持が減るということが大きそうだった。


「人間一人の食糧が浮く。それだけの理由でグループのメンバーを減らすとなると、先行きは暗い。その辺りは伝えたの?」

「いえ、あの状況でそんな話をするのは、ねぇ。食料や薬品の備蓄はまだありますので、あとはモンスターどもの襲撃が無いことを祈るしかないでしょう。積極的に争いに関わるタイプではないでしょうから、身を隠してくれていればいいのですが。一応、また今度訪ねるとは言っておきました」

「……彼らに一番近い年齢は健太君に雄一郎君だけど。あなたたちはどう見た?」


 祥子が大人たちの意見を聞いた後に、会話をした健太に話題を振る。


「っても俺もアイツらと比べるともうちょい年はいくんで。そこにやっぱ壁は感じました。こっち来るんじゃねえよ、って感じはビンビンっすね。イキってるってよりは、意固地になってる風もありますけど」

「俺は遠目から見た感じですけど、なんていうか。健太が向こうの順平ってのと話してる横でこっち警戒して槍とかバット構えた奴らがメンチ切ってまして。あの様子だと友好的な関係ってのはどうでしょうか。ぶっちゃけ、アイツらをここにいれてもあのケンカ腰ってのは勘弁してほしいっすね」

「そうねぇ……。まあ今すぐ彼らを吸収できる余裕があるかって言えば、正直ギリギリのところもあるし」


 祥子が懸念を持つのはそこだ。

 第二陣の「チート」っぽい皆ができる事は生活の向上に多分に寄与している。例えばコロニー内の食糧生産が上向きになったのは事実である。

 直接戦力の拡大と、装備品やカートなどの副産物による人員の再配置ができたのがデカい。

 その分の人的リソースをファママプレーヤーの畑に注力すれば効率も上がる。

 だが、その「アキカンヒロイ」の皆の努力で積み上げた余剰・備蓄を、ケンカ腰の順平たちと共有するとなると少なからずコロニー内でもめるだろう。


「そうなると彼らが崩れた際に受け入れられる土壌を準備しておくこと、ですか」

「ええ。崩れること前提でっていうのは大人としてはどうかと思うけれど。自分たちの扱いが不当だったと“思い込んでいる”彼らを受け入れたくはないわね」


 ばっさりと順平たちのグループがあまりに未熟であると祥子は言う。


「短絡的に暴力に走る可能性がありますからね。貧すれば窮する。彼らが崩れきる前にはこちら側の受け入れが出来るようにですね。そう考えると、喫緊の課題は回収してきた『水生成ポンプ』の修復ですか」

「できそう?」


 ストレートに聞かれる。

 尋ねたのは、『軽トラ』の修理をなし得た二人、詩音と亘。


「ものをじっくり見てみてからの話ですけど、ポンプの中にまで毒の水が入り込んでるんだ。それ洗い流して仮で分解して、そのあとどこがイカレてるかの確認をして……」

「フレームから組み直した『軽トラ』の場合はガラクタの中に同系統のジャンクがあったんです。今回の『ポンプ』は欠損してた場合に、その代替パーツがどこを探しても見つかりません、って結果も考えてほしいですね」


 つまり二人の結論は分解してみてからでないとどうとも言えないということになる。


「帰ってきたばかりだし、もう夜になるわ。今日はもう無理だし、明日一日は少し休んでもらってから、って思ってたんだけど……。ごめんなさい。本格的でなくていいから明日少しだけでも取り掛かってくれないかしら」


 祥子の要請は、二人にとって働きづめになるということだ。

 だが、この先の方向性を決めるために壊れた「ポンプ」を当てにできるかどうかだけは大至急で知りたい事案。

 詩音の「軽トラ」復旧に使われたサポートAIは他者に貸出できないし、亘の「リヤカー」作成の経験値も欲しい。

 多面的な意見が欲しいのだ。


「私はオッケーです。『ポンプ』が直れば将来的にお風呂の可能性とかもワンチャン出てくるでしょうしねー」

「僕も別に大丈夫です。機械いじりもジャンクあさりも楽しくなってきた所なので」


 二人はごねることなくオッケーを出す。

 それに雄一郎は内心ですげーなと感心する。

 何故ならば間違いなく雄一郎の中に疲労感が存在していた。

 それは横の健太も同様だ。

 別ゲームのプレイヤーの第二陣の連中はどうやら違う法則が働いているのか、そういった疲労などに強い者も“中には”いる。


「和人さん、そうなるとあなたは……」

「私はコロニー周辺の捜索でしょうね。『オレンジ』で出てきたというモンスターの氾濫というのが気にかかります。それが不幸にも『オレンジ』のコロニーだけに出てきたものなのか、それともこの『ワールドエンド3』のシステムとしてもたらされた物なのか。後者だった場合には対策を考えなくては」

「物資捜索や周辺警戒のチームに任せて少し休んでからでも」


 祥子の提案に和人は首を振る。


「チームはチームとしていつもの巡回をしてもらった方がいい。未確定の不安を無暗に皆に与えるよりはそれを継続してももらい、体の空いた私が単身で確認に動く方が面倒は少ないでしょう。チームにはワールドクエストの進行度の上昇でモンスターの活性化が起きたかもしれないということで。少し警戒度を上げてもらって危険即逃走を徹底してもらえますか」


 羽田へと可否を問うと、少し考えて彼は首を縦に振る。


「ああ、それがいいだろう。第一そちらの帰還までの間には格別問題の報告はなかったんだ。急にコロニーの存亡クラスの問題が起きています、という緊急度まで警戒を上げるよりは、多少の変化があった程度とした方がまだ動揺は少ないはずだ」

「まあ、そこまでのことが起きていればもう誰かしらから報告があがってくるでしょうし」


 この「アキカンヒロイ」の基本方針としてほう・れん・そうの徹底がある。

 どんな小さなことでも報告し、相談することは弱者の生存には必要不可欠。


「我々はそうでしょうが、他のコロニーの状況はどんなものですか?」

「そういう情報についてはまるで駄目だ。そもそもの話、ウチが他のコロニーと交流する機会自体がない。『オレンジ』の崩壊の件ですら現地にウチの人間が行って初めて知るレベルだったんだ。そりゃあ今後を考えるなら同程度の零細コロニーとの連絡網は欲しいが……」

「その辺りのコロニーが『オレンジ』と同様の被害を受けている、とは思いたくないですね。……ここらで一番大きいって話の『世界攻略本部』はどうでしょうか」


 元妻である郡山紀子がトップのコロニーについて尋ねる。


「あそこは本当に即戦力しか受け入れないし、交流もそれに準じてだ。その分、ここよりもアベレージでいえば充実した戦力を持っているだろうさ。だが、弱小と思われてるウチが危機を煽っても、寄生を求めてきたと考える可能性すらある。コロニー崩壊からの難民発生ってなれば労働力として若いのは吸収するだろうが……」


 言葉を濁すが、それ以外の人材は放置するかもしれない、ということだろう。


「そうなると手遅れなんですがね、ウチとしては。寄らば大樹の陰、という作戦は使えませんか」

「そうだな」


 あくまで羽田の主観だが、実の母である祥子もそれを強くは否定しない。

 小さなコロニーを管理するというスタイルは採らず、自己の増強を優先するということだ。


「ふむ……。そうですか。まあこちらも明確なエビデンスがあるわけでも無いのは事実。容易に伝える術もない。情報を伝えても見返りは少ない。……危険のあるコロニー間の移動がある以上、こちらの持ち出しが多いだけ。……我々の思い過ごしになるかもしれませんし、連絡するのは止めた方がよさそうですね」

「向こうの方がこちらよりも防衛力はあるはずよ。まあそれ以前に人の心配できるほどの余裕がウチにないからね」


 ふぅ、と祥子がため息を一つ。


「しかし、目に見えてに何かが起きるのが目前となると、焦るものですよ。……順調なようですからね」


 和人はそう言って自分の前に表示したステータスを確認。

 いや、その中にある項目、ワールドクエストの進捗を見ている。

 先日和人たちが来たばかりの段階で確認した『全マップ捜索率2%を達成』の達成度。1.3パーセントだったそれが今はもう1.8パーセントまで進んでいる。

 もうすぐその項目が達成される。

 つまり「NPC街のアンロック」、そしてノン・プレイヤー・キャラクターの実装。

 それは少なくとも現代社会で生活してきたプレイヤーとは一線を画す文化形態の他者が隣に現れるということ。

 文化・宗教・風習の異なる二つが出会った時。

 その最終的な結末まで、徹頭徹尾平和的で友好的な経緯であったことは一度もなかった。

 それは人類の歴史が証明している。

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