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響くは『ハーメルン』の笛の音  作者: 勇寛


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「こりゃあ、凄い。どうやって持ち出しましょうかねぇ」


 横倒しになった大きなコンテナに首を突っ込んで覗き込んだ先に置かれているのは段ボールの山。崩れてはいるが、かなりの量が詰込まれていた。

 そこから引っ張り出してきたと思われる開封された段ボールが和人の足元に置かれていて、半分ほどが消費されている。主に食料品がぎっしりと詰めこまれていた。

 くるり、と振り返って和人は後ろにいる者に尋ねる。


「出入り口はここだけですか?」

「は、はい。反対側に階段があるんですが、そっちは踊り場のあたりで崩れていて……。この非常口以外は出入りができる場所は無いと思います」

「ですか……。見た感じだと搬送用のトラック。……の成れの果、といったとこですか。運転席もがれきで潰れてぐちゃぐちゃですし。修理はまあ不可能でしょうね」


 ごんごん、と上から落ちてきただろうがれきを拳で突く。

 大型コンテナの前には潰れてスクラップになったトラックの運転席。それにけん引されていただろうキャリア付きの荷台が横転していた。

 位置的にはそこから外れたコンテナが横倒しに滑り落ちたのだろう。


「この場所を知っている『オレンジ』の関係者はいらっしゃるんでしょうか」


 和人は答えてくれた者に再度尋ねる。

 先ほども答えたその「オレンジ」の廃墟に隠れていた女性、満島恵美は首を否定に振る。

 彼女は和人たちが「水採取ポンプ」を回収する現場に詩音たちが連れてきた一団の最年長者だった。

 最年長者、とはいうものの彼女は見た感じで二十代前半。和人の目が節穴だったとしてもアラサーが良いところだ。

 つまりそんな年齢の人物が一番年上、となる。


「たぶん、そんなにいないと思います。ここは『オレンジ』の中心部からは外れていますし、この非常口を見つけたのは大人ではなく、彼らでしたから」

「まーね。大人にバレるとみんな売り物だ、って持ってかれちゃうじゃん」


 恵美の後ろで手を頭の後ろで組んだ男性、いや少年や子供と言っていいだろう。その男の子、鴨下順平が言う。

 その少年である順平が次点の年長者でもある。


「すると、このコンテナの物資は『オレンジ』の皆さんは知らなかった、と?」

「みんなで売り買いしてコロニーを運営していくって話で、そんな所にガキを入れると思う? 荷物運び以外の仕事なんて割り振られないし、それで渡される飯も少ないし。働きに応じて平等に、って言ってたコロニー長のおっさんは隠れて肉食ってたし。あと酒も。なんかここを教えるのも馬鹿らしくってさ」

「そうですか」

「コロニーの大人はガキに構ってるような暇はなかったんじゃない? 自分の子供でもないし、逆に邪魔だと思ったっぽいよ。顔にモロ出てたから。そうじゃない考えの動ける人は、とっくに他のコロニーに行っちゃったよ。ここの大人はこーりつ主義っていうの? 大人のほとんどが自分のことしか考えてなかったしね」

「そんなここに君はどうして残った?」

「大人たちの中身は最悪でも、外面を気にして少なくても飯は食わせてくれる。ここは比較的マシな方だってのも知ってる。他のコロニーに行って、そんでそこが駄目ならどうすんのさ?」


 それなりに順平は物が見えていた。

 三カ月のこの荒んだ異世界生活で、一番理解が早いのは頭の固い大人よりも若い人間の方なのだろう。

 順平の独白の後、和人は視線を恵美に向けた。


「私は、ここに物々交換をしに来たところだったんです。その最中に、モンスターがここを襲ってきて……」

「それで『オレンジ』の方と一緒に脱出を?」


 こくん、と頷く。


「襲われたときに警備をしている方が『東へ逃げろ』と叫んでいました。ここから東に向かえば『臨時市議会』のコロニーがありますから。あそこが一番このあたりだとプレイヤーの方も強いと聞いていますし」

「妥当な判断です」

「その途中で、コロニーを襲ったのとは別のモンスターの集団に襲われました。結局、その場で『臨時市議会』に向かっていた人たちは散り散りに……。私は一人でコロニーへたどり着けるわけもなくて。しばらく隠れながらここまで逃げ帰ってきたんです」


 俯きがちに恵美があらましを伝える。


「そんで、俺たちと合流した。って感じかな」


 順平はそう言って近くのがれきに座る。

 彼のほかにも数名の同年代の少年少女たちがいた。


「君らは逃げずにここに残ったわけか」

「逃げ出すにしても様子を見ながらって思ったんだ。逃げ出す奴らで道路は埋まってたしね。それに襲われたのは夜で、そのタイミングで逃げるのは怖かったし」


 あっけらかんと言い放つ順平。

 だが、和人は順平が敢えてそう言っているのだということに気付く。

 恐らくは彼らも逃げ出そうとはしたのだろう。

 だが、大人たちは彼らを連れて行くことはしなかった。

 余裕があれば少年少女たちを連れて行ったかもしれない。しかし、夜プラス襲撃というダブルの混乱。

 そんな余裕は無かったのだろう。

 置いて行かれた彼らをどうにか順平がまとめ上げ、そして今までこの生活を維持してきたということだ。


(中々に胸糞の悪い状況ですね……。カルネアデスの板というわけか)


 自分たちの判断でここに留まったということにして、精神的な均衡を維持した順平。

 モンスターの襲撃後は、さほどこの地に誰かが来訪することもなくなっていた。

 結果として自分たちのコロニー外の恵美の保護すらできるグループの誕生となったわけで。


「それで、この“ポップアップ”スポットで生活を維持してきたわけだ」

「そーゆーこと。だから、まあ俺らは俺らでどうにかして行けるよ。だから、さ」


 がしゃんがしゃん、と金物が擦れる音が響いた。


「帰ってくれよ、オジサン。……お話合いだけで終わるなら最高だろ? お互いに怪我したくはねえじゃん?」


 順平を含んだ少年少女たちが一斉に和人に弓を、ボウガンを、そしてぎらりと光る刀を見せる。

 敵対するわけではない。ただ純粋に彼らは和人に自分たちの戦力を見せただけ。

 そして一番は、和人たちに自分たちに関わるなというメッセージを発したかったのだ。

 そう言いたいのだろうが、順平の顔にはほんのりと優越感が見て取れる。


「あくまで私たちは敵対する意思はない、と伝えてありますよね?」

「そりゃ判ってるさ。武器関係もここに案内するときに預けてもらったし、ツレの人たちも外で待ってもらってる。多分、和人さんだったっけ? オジサンはそういう意見なんだろうけど、『アキカンヒロイ』の皆が皆、同じ意見かどうかってのは俺らにはわかんないじゃん。この“ポップアップ”のトラック狙ってくる可能性もあるし」

「……そんなことはさせません、というだけの権限が私にはないですからねぇ。仕方ありませんか」


 順平たちがこのトラックの残された崩れた倉庫、つまりは定期的にアイテムが補充される“ポップアップ”ポイントで生活を維持できていたのは幸運なことで、人数が増えすぎなければ何とかやっていけるのだ。

 いかにもゲーム的なシステムで、アイテムとしてトラックコンテナからは低レア度の「食料」「医薬品」「装備」が回収できる。そして空になったそのコンテナは、約三日で再ポップアップしているらしい。

 そのため、必要最低限の外出以外は引きこもり、身を潜めていることができていた。

 詩音たちがこの順平たちを見つけたのは偶然だった。

 順平たちが生きていくうえで最大の問題はゴミや排泄物をどうするか、ということである。

 安全とはいいがたいながらも宿、そして定期的な食糧の補充ができていても、どうしても不要となるものは出てくる。

 それは、拠点である崩れた倉庫の傍に捨てるわけにはいかない。

 それらは不衛生であり、さらに動物系のモンスターを引き寄せる。腐れ犬や大ネズミなどと戦うのを避けていた彼らは、ごみを遠くへと捨てる必要があった。

 丁度詩音たちが調査している時に、そのゴミ廃棄が重なって順平たちが見つかったということになる。


「我々と一緒に『アキカンヒロイ』へと来る気は?」

「……俺は今のところねーな。皆はどーか知らんけどさ」


 順平が言うと、周りの皆が「行かない」の合唱を始める。


(……同調圧力、というよりかは危機的状況下での連帯感、という感じですか。これは厄介な)


 ふむ、と和人は悩む。

 実のところ、生存者がいるのであれば一緒に『アキカンヒロイ』へと戻りたい。

 実績にもなるし、何より和人は子供だけ(大人である恵美が一人いたりはするが)で集団生活をしている現状に危機感を覚えている。


(今は良いが、この生活をずっと。……遠からず無理をして破綻するな、これは)


 実質、ここに戻って十日程度という話らしい。

 その前の混沌とした三カ月の生活の流れで、発生した生活からのさほどの変化の無さのため彼らは気づいていないのだろう。

 自分たちだけでもやっていけるという判断をして、そのテリトリーを守ろうとしている。

 和人たちはそれに異を唱える異物と考えている。

 それが、差し伸べられた救いの手であるということを考慮もせず。


(虐げられている、と思ってはいても、それでも大人たちが築いた秩序の利益は得ていたんだってことを考えていない、な。これは)


 失ってはじめて気づく変化はある。

 大人たちが完全に彼らを排除していたのではなく、ある程度の庇護はあっただろう。与えられているだけの、若年者がそれに気付きにくい環境であったのは確かだが。

 人はパンのみにて生きるにあらず。


(でも、今の時点ではどうにも説得はできそうになさそうですね……)


 子どもの持つ根拠のない全能感、それに酔いしれた暴走ともいえる順平たちのふるまいに和人は悩まし気に眉を顰めるしかできなかった。

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