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響くは『ハーメルン』の笛の音  作者: 勇寛


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 がらがらとリヤカーが荒れ果てた道路の上を行く。

 それを引っ張る和人と、周りを警戒するように雄一郎がその横につき、健太はリヤカーに満載したアイテム類を崩れないように支えるのと、後ろを警戒するために和人から提供された「ショートボウ」を片手に抱えている。


「いやいや、上々ですねぇ。色々と手に入りました」

「……ゴブリンに思いっきり襲われましたけどね」

「やはり、危ない仕事です。油断は禁物ということがよくわかりましたね」


 疲れた顔の雄一郎と、そしてうんうんと頷いている和人。

 ビルの中で「カップ麺:味噌」をケースで入手した後、ビルの中を一切合切漁りつくしたのである。

 その中で、あるフロアに侵入したところでゴブリンどもと遭遇したわけだ。

 結果は……、まあここで雄一郎たちが無事にコロニーへの帰路についていることからも察してくれることだろう。

 初期の雑魚モンスターであるはずのゴブリンとの戦闘であるが、やはり刃物を向けられるということは恐怖を覚えるものである。


(そうなるってのが普通だろうに……)


 だというのに、和人は遭遇したゴブリン五体のうち、三体を相手取って悠々と勝利していた。

 まず接敵するやいなや、一番の脅威となるだろう槍持ちと、攻撃範囲の広い弓持ちの個体を狙って一気に駆け出し、手持ちの「ブロンズダガー」で一気に一体目の槍持ちの喉をかっ切り、二体目の顔面を「レザーシールド」で殴りつけコンクリの壁にめり込ませた。そして弓を引き絞ろうとする最後の一体に、手持ちの「ブロンズダガー」を投擲。胸元にどすんと音を立てて突き立ったそれは三体のゴブリンを瞬時に無力化したのである。

 そして残された二体のこん棒持ちのゴブリンを雄一郎と健太が、いつものようにひいこら言いながら倒しているのを横で何かあった場合に備えて、観察する余裕すらあった。

 現に健太はすきを突かれてゴブリンのこん棒で一度「レザーシールド」越しに殴られたのだが、追撃しようとしたゴブリンの腕に、弓持ちを仕留めた「ブロンズダガー」が再び和人からずどん、とプレゼントされたのである。

 その勢いで形勢を逆転した健太は結果的に無傷でゴブリンを撃破できた。


「ドロップアイテムが『おにぎり:塩』っていうのはシブいですけど。命がけでおにぎり一個は割に合いませんよねぇ」

「そりゃ同感です。ああ、こわかったぁ」


 リヤカーの上で荷物になっている健太がぼやく。

 念のためにそこで物資調達は終了。

 健太もダメージは無いが、実際に盾ごしとはいえ打撃を受けている。メンタル面で明確な動揺が見られなくても、ここは休息をメインに警戒するという役割に徹してもらう。

 安全マージンは広めにとっておくというのは「アキカンヒロイ」の鉄則なのだ。


「ですがそこそこの『食料』アイテムに、『装備』アイテムもいくつか。それとアイテムではない日用雑貨も手に入れてこれました。今までの皆さんのお話から察するに、初めての回収作業でしたが上々な成績と言えるのではないでしょうか」

「そうですね。『ウェイトレスセット』に、さらに『スニーカー』が二足。後はこの『朱染めのこん棒』一本。これに関してはレアですから」

「確か『戦国一閃』の装備品でしたね」


 今までの「金属バット」から変更した「朱染めのこん棒」は、初期装備の中でもワンランク上のレア装備。

 装備した者のステータスのうち、力の項目を三パーセント追加する特殊効果がある。

 ベースはこん棒なわけで、攻撃力が高いわけではないが、ステータスの値をパーセンテージで向上するということならば、有用なアイテムである。


「ええ、やっぱり補正付きのアイテムは数を確保しておきたいですから」


 軽く素振りしてみるが、そのスイングスピードも速くなっている気がする。力強いスイングを数回繰り返して、うんうんと頷く。

 使い勝手は「金属バット」とそこまで変わりはしないだろう。

 アイテムではない日用雑貨は、例えば皿やコップなどの食器、破れて垂れ下がっていたカーテンなどの布地、デスクの中に転がっていた使いかけの鉛筆や裏返せば書き込める紙などの事務用品。このあたりを見つけた限りでごっそりと持ち出している。

 零細コロニーの「アキカンヒロイ」では二の次になっていたそれらをリヤカーを利用して回収できたというのは大きな成果と言える。

 人はパンのみにて生きるにあらず、に似せるわけではないが、プレイヤーはアイテムのみで生きるにあらず、とでも言いかえるべきだろうか。

 最低限の身の回りのものを揃えるのも必要なことではある。ただただアイテムを回収していくだけでは足りなくなるものもあるのだ。


「これで少しは我々第二陣が『アキカンヒロイ』に役立つということが証明できたわけですから。ようやくスタートラインですねぇ。ここからが大変ですが」

「取り敢えず、大きな異変が起きるまではこれを継続って形でしたっけ」

「ええ、軽トラックの修復がもう少し進めば、それを使ってもうひとチーム。亘君のカートに接続できるリヤカーが準備できればさらにもう一つ。最大三チームで物資回収と戦闘経験の積み上げを。敏郎さんのレッスンで底上げした住民の方を説得してその方も入れた物資回収につながれば最高ですが……。まあここに関しては祥子さんの説得次第です。とはいえ、強制はできませんしね」


 がらごろと世間話をしながらも和人は周辺を見回しながら危険がないかを確認しているようだ。雄一郎は言わずもがな。

 コロニーの外を歩く限り、危険と隣り合わせの帰り道。


「和人さんの考えた将来的な危険、ですけど……。そんなことになりますかね」

「はは。まあそうならなければそうならないでいいんです。結果としては皆さんの生活水準の向上にはつながりますしね。ですが、やはりNPCのアンロック。これに関してだけは譲れませんねぇ」


 穏やかに話す和人が、その一点。敵対的NPCに関しては断固として譲らない。

 この点だけはどうしてでも防衛体制の強化は必須としていた。


「……モンスターがひどく動物的ではあってもその個体個体で思考し、動いていたのを確認できました。これがもしNPC、特に人型の敵対的NPCにも実装されてアンロックされると仮定するとですね」

「はぁ……」

「我々のような最底辺の零細コロニー群だけではなく、中堅どころのコロニーもいくつかその敵対的NPCの群に飲み込まれます。最悪の想定ではこのクソゲームのクリアどころか小さなミッションのクリアすらもままならない奴隷生活に叩き落されると思われるので」

「ええっ? そんな話なんですか、今の状況って」


 がらごろとリヤカーを引く和人は前を見つめたまま、荷台で驚く健太に答えた。


「……人間というのは人間に対して暴力をふるうのを、本能的にかそれまでの慣習からか忌避する傾向があります。というか動物は本来同種に対しては理由なく暴力を行いません。あ、オスがメスをめぐっての争いとかの、生存に関わる本能は除きますがね」

「は、はい?」


 急な生物の仕組みについての解説が入る。


「これはうろ覚えなんですが、とある軍で行った調査結果がありまして。それは初陣の新兵が敵を倒せるのかどうか、という内容につながるものなんですがね。敵軍に相対した時、訓練を受けた新兵が、その敵に向けて最初の一発目の『引き金を引けたかどうか』を調べたものです。結果として、かなりの割合の兵士が『引き金を引けませんでした』、と答えています。そして何かの後押しの後、ようやく引き金を引いた、ということでした。そして最初に『発砲した』と回答した者に、追加質問で『相手を狙って撃ったか』という内容に『相手の姿は視認せず、その方向に向けて撃った』と答える者が多かったとされています。つまり、同じ人間に対してでは、自分に向かってくる敵にですら『死んでしまうかもしれない』攻撃を躊躇う、という結果で締められています」

「そ、そりゃあまあ。戦争でも人殺しはイヤですから」

「ええええ、そう思うんですよ私たちは。ああ、ちなみにこの調査。比較的経済的に発展している先進国ほど躊躇する割合が高くなっていたそうです。あくまで私の感想ですが、暴力を用いずとも生きていける環境、つまりそういった行為が日常から遠い人間ほどこの傾向が高くなるのではないかと」


 そこまで言って和人は健太に振り返ってこう言う。


「……今まで、人型の敵モンスターはゴブリンと餓鬼くらいだと。人語を理解する敵対者は居なかった。だが、次は間違いなくそういった敵が出てくる。その時に、我々が一切の躊躇なくそれを害することができると思いますか? 私は自分自身にその自信がありません。なにせ、人を殺したことは無いのでね。剣を振り上げたところで、ブルッて取り落とすかもしれませんし、相手に腰を抜かすかもしれないんです。でも、相手は違う」

「そのように設定されているNPCだから?」

「はいはい。相手は人間の形をした、こちらと同じ言葉を話す、それでいてそのロールに忠実で、暴力的な、殺人も厭わないNPC。……あまりに壮絶で凄惨な現場が作り出される可能性が高い。そのうちの複数が命の危険にさらされて、その危機に対し抵抗できたとしても、です」


 ぞっとする。

 そう言われてしまうとその恐れが高まる。

 いや、比較的友好的なNPCが出てくるということも考えられる。だが、それは在り得るが、その逆の敵対的なNPCは出てこないという都合のいい話はないだろう。

「単に殺戮、というだけで済むならばそこでゲームオーバーとなりますが、こういったポストアポカリプス系の敵というと、所謂ヒャッハーでしょう?」


 簡単に言えばモヒカンとか鋲付きの革ジャンのバイク乗りの悪者集団のことだが、この説明でヒャッハーがピンとこなかった場合は個々で調べてほしい。


「そうですね、そういうゲームは多いし少なくても『WE3』に関してはヒャッハーさんでした」

「そうなると、他者を虐げるような継続的な拘束……遠回しに言っても仕方ないので言いますが、プレイヤーの我々の強制的な従属・奴隷化をしてくるでしょう? そしてそのように潰したコロニーを糾合し、徐々に勢力を拡大し、時にはプレイヤー同士で潰し合わせ、さらに上のコロニーを制圧していくこともあろうかと。そして最後はヒャッハーさんの大帝国、プレイヤーのみんなはミッションクリアどころじゃなくなりました、チャンチャン。なんてケースもこのラインの上に生まれてきますよ。レアケース、というわけではなく、ちらほらとねぇ?」


 これは和人の考える最低最悪のパターンの一つだ。

 述べられている内容が現実に起こり得るかどうかは不透明で、確証など一切ない。

 だが、それでも。

 雄一郎にしろ健太にしろ、ここまで聞いて、その未確定の恐怖に対策を講じないほど人生を投げてはいないのだ。


「そうならないために、最終的にどうにか個々で最低限の抵抗ができるくらいには。皆さんのステータスを上げておく。……この先も生き残っていくのであれば、この最底辺と言われる零細コロニー群から底上げしていななくては。単独でトップクラスのプレイヤーのコロニーだけが強くなっても駄目なんです。有象無象の小さなコロニーを集めて数で押し込めば、どんなレベルのプレイヤーと言えどいつかは崩れる。だからどんなに小さくても各コロニーは戦力の底上げと自衛手段の確保を進めていかないと。別に積極的な戦闘をお願いするわけではないですから。コロニー内の生活水準の向上であったり、物資の管理だったり。単独の最強プレイヤーチームを育成し、それに命運を託すのも生き抜くための策ではありますが。……自分の運命を誰かも知らない“強いだけ”の者に託すというのは有り金全部をそこに一点賭けするようなものです。鉄板レースで馬鹿を見る人間も多いんですから。それこそ絶対に大丈夫、って思考停止してるんですよ」


 暗にトッププレイヤーをサポートする体制をとる別コロニーを批判している言い様。


「和人さん自身がその強いプレイヤーの立場なのに、ですか」


 当然の質問を雄一郎がする。


「ええええ。こういった個人単位に頼ってしまうとあっという間に廃れるものです。エースで四番の太郎君がいる地域で一番強い少年野球チーム。実はエースが凄くて野手の守備はてんで駄目、四番が打つから打線はそれを軸に考えて。太郎君が引っ越すと、一気に地域で最下位に。そんな感じですね。そのトッププレイヤーがもし不幸な事故で脱落したとすれば、後に同様にできる人間を育てているようでもないですし。実社会でもワンマン社長の後、会社が傾くってケースは結構多いですよ?」

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