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響くは『ハーメルン』の笛の音  作者: 勇寛


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「うぃーす。ご苦労様でーす」


 詩音たちの様子を見た後、近くの廃材をかき集めて建てたバラックに雄一郎たちはそのまま移動すした。

 詩音とジェットがジャンク漁りを続けている様子もこのバラックから見ることができる。


「おう、ご苦労さん」


 声を掛けた羽田は持っていたトンカチを作業台の上に置くと、浮いていた汗をボロのタオルで拭う。

 その奥ではビビッドなカラーリングであるが、元々のコンセプトは工事現場のニッカボッカの「ブットビカート」のコスチュームを着ている亘が作業をしていた。

 亘の「ブットビカート」の車体に、明らかに無理くり作った荷台を引かせるようにならないかと試行錯誤しているところだ。

 他にも、物資調達班のメンバーがそろってああでもないこうでもない、とレンチやらノコギリやらを手にしてやいのやいのやっている。


「お疲れ様です。それで、どんな状況ですかね?」


 和人が声を掛けると、羽田が腕組みしながら答える。


「いやぁ、接続部のあたりがどーも難しいですね。一度仮組してこのあたりを一度ぐるりと引かせてみたんですが、石踏んでで跳ねた途端、すぐに外れちまいました。ただ、それ以外の本体部はどうにかこうにか。見通しが立たないってほどじゃあ無いですね」

「午後までには間に合いませんか」


 うむむ、と悩む羽田の助け舟として亘が割り込む。


「そりゃあ厳しいですよ、和人さん。ただ、今くっつけてるのじゃなくて、最初に外れちゃったのは持ってっていただいても構わないです。そっちはもともと作ってあった物らしいので、台車。リヤカーとしては十分使えますよ。ご自由にどうぞ」

「そうですか、それでもありがたい」


 そう言って和人はその荷台に引っ付ける予定だったリヤカーに手を掛けた。

 元々は鉄のパイプだのなんだのをひん曲げたり、バンセンで締めあげたりしたものに比較的大丈夫そうなタイヤを見つけ出してくっ付けて、色々と補強したりでどうにかこうにかでっち上げたものだ。

 荷物の運搬には有用なはずである。そういうことをするために「リヤカー」というものは発明されたのだから。


「それを持って午後からは?」

「ええええ、私と雄一郎君、健太君で物資回収ですね。いわゆる“いのちだいじに”作戦で回るつもりですが」

「そこまでの量を回収してくるつもりなんですか?」

「いえいえ、できたらいいな、ですよ。ちょっとでもヤバそうなら全力でこのリヤカーに二人を乗っけて私が走って逃げますから」


 わっはっは、と何とも情けないことを言ってみせる和人。

 力量としては彼がこのコロニーの中で一番近接戦闘能力があるだろうことは間違いないだろう。

 この世界に連れて来られる直前までプレイしていた「輝きの剣Ⅳリマスター」の主人公装備一式とそのアイテムが満載の「ナップザック」、そしてその主人公のステータスをそのまま引き継いでいるのだから。


「戦闘には可能な限り参加しない、というお話を聞きましたが」

「はいはい。どうしようもなくなった時にはどうにかしますが、そうならない限りは私は後ろに控えておきます」

「……それも、昨日のお話の“今後の為に”ですか」

「ええええ。そうしておかないと先々で問題が起きてしまいますから。その分、他の作業で仕事はいたしますよ」


 にこにこと笑う和人に、羽田ははぁとため息を吐く。


「リスクヘッジのために、全体的な育成を、ですか。本当にそんな必要が出てくるんですかね?」

「出てくるかどうかまでは分かりませんが、可能性としてはあり得る。いわば我々はバグに近い異分子です。問答無用で能力などのアドバンテージが消し飛ばされるということは往々にして考えられる。要するに、急にアップデート的な何かが実行されることで、何も持っていません、となるのは避けたいですから」


 そう言うことだ。

 今、和人たちが行っているのは手に入った能力を利用しつつも、「ワールド・エンド3」のステータスやアビリティの取得を目指したものである。

 詩音や亘は互いに違った角度からレアな「メカニック」のジョブを、敏郎はコロニー運営に作用するリーダー系のアビリティの取得を。和人は純粋に戦闘ジョブを手に入れるために動いている。

 バグを大っぴらに使って荒稼ぎをするチーターどもには当然運営が即行修正を入れられるが、そこまで大きな影響を与えない程度にこっそりとやっている分には運営に報告が上がるまで時間がかかるし、さらに緊急ではないと正式なアップデートまで猶予があることもないではない。時には、限定的にそのバグが正式採用されることもあったりもした。

 今回はそのギリギリの線を攻めるわけだ。

 そのバグ、昔々は裏技と呼ばれたそれがただのゲームを陳腐化する毒になるか、それともある意味で彩る一つの助けになるか。

 それはきっと使い手の問題“だった”のだ。

 だが、それがもう過去の概念となって久しいのは寂しいものではある。

 いまは何度も何度もチェックされてそんなイースターエッグも出てこない。


「まあ、いくら私たちが気をつけても他の場所に出てきた第二陣の人たちが、やらかしてしまえばそれまでですから。いつどんなタイミングでアドバンテージを失ってもいいように準備だけはしておきませんとね」







「では、よろしくお願いしますね」


 がらごろとリヤカーを引っ張ってきた和人が、同伴している雄一郎と健太の二人に頭を下げる。


「いや、こちらこそっす」

「同じくです」


 本来は可能な限り隠れて、ソロで動くことが多い物資調達であるが、和人の能力の確認と健太たちがどういうやり方で回収しているかの手本を見せることも兼ねて二人も同行している形である。


「じゃあ、まずはこのビルの中からですね」


 半壊したビルの正面は崩れて入れなくなっているので、ぐるりと回りこんで崩れた壁の隙間から侵入する。

 慣れた様子で健太が先導し、和人がそのあと、殿が雄一郎だ。


「成程成程。この様子だとこのビルは何かのお店だったんでしょうねぇ」


 エントランスと思しき場所が見える。

 入り口は二階以上のフロアが落ちてきてぺしゃんこになっているようだ。だが、そこはレジか何かが置かれていたようなスペースがあった。そこから推測するに、店舗であったと思われる。


「そういうことですね。とりあえず中を漁るわけなんですけど。……この作りなら、このフロアのどっかに警備室とか休憩室があってもいいんですけど」


 きょろきょろと周りを見渡す。

 こういったビルで資源を漁るときにはまずそれがどういったタイプのビルだったのかを見るのが大切だ。

 会社タイプであれば、事務系アイテム。居住系なら衣服。商業系であればそのそれぞれのアイテムが転がっている。

 そしてビルの入り口には警備員がいるということから一階のフロアには警備室として設定された「漁りポイント」がある事も多い。


「その『防塵ベスト』みたいなものがあるかもしれませんしね」


 和人が指さしたのは雄一郎の「防刃ベスト:WE3」である。


「ここまでのものはあんまり出てこないっすね。でも『金属バット』とか、『警備服』とか『ヘルメット』とかが出てくると嬉しいんですがね」

「ひどい時は『ひどくくたびれたシャツ』だったんで。……あの時のがっくり感は結構尾を引くんだよなぁ」


 思い出したあんまりな「ひどくくたびれたシャツ」。首元がでろんと伸びきったシャツだが、ほんの少し。そう、ほんの少しだけ防御力があるという微妙な性能。

 防御用のアイテムとしては下の下。最低ランクの品。

 それが複数まとめて出てきたときのショックはかなり気落ちしたのを覚えている。


「では、そうならないことを祈りつつ、行きましょうか」


 そう言って和人は腰の「ナップザック」から「スモールレザーシールド」と「ブロンズダガー」を取り出す。

 この二つは「輝きの剣」内でも初期の初期に手に入る装備品。

 これを自分だけでなく、雄一郎と健太にも渡す。

 派手で露骨な物は可能な限り避ける。場合によっては「ワールド・エンド3」のなかでも作成できるような性能のものに留めておくことが肝要。

 火の玉を噴き出す杖、敵を一斉に薙ぎ払う剣、飲み干す度こんこんと溢れ出る生命の水を湛えた聖杯。

 ここら辺は緊急時以外の使用はアウトだろう。

 使うとすればある程度のコロニーの状況が改善してから。ただ、その後どうなるかを心配するクラスのアイテム類が「ナップザック」内には満載である。

 が、和人がそれを持っているのを知っているのは雄一郎たちを含めごく少数なのだ。

 だからこそ、レア度の低そうな「旅立ちの服」を和人は見に纏っている。


「……盾って使ったことないんですよね」

「はは、実は私もです。でもまあ、何故か使えるという気しかしないので、参考にはなりませんけど」


 和人のそれは、「輝きの剣」の主人公が盾を装備できるから、だろう。

 元々の基本的なスペックとして盾の使い方を熟知しているのは、十分に予想できる。


「あって悪いもんでもなし。装備できるなら装備しとこうぜ」


 雄一郎の言葉に皆が盾を装備する。そして、どうやら入れそうな部屋と思われる場所にたどり着く。

 入り口のドアはカギがかかってはおらず、半ば開いた状態であった。

 油断なく構えを取ったまま、健太が足の先にドアをひっかけて、ゆっくりと引く。


 ぎぎぎぃ……!


 さび付いたドアが思った以上の大きな音を立てた。

 それをうけて全員が息を飲んで、周囲の音を耳をそばだてて聞くことに集中。


「……動きはなし、ってことで」


 時間にして十秒ほど無言のまま何かの音がしないかと集中し、聞こえてくるのは他の人間の抑えた息づかいのみ。

 ゆっくりと開いたドアから中へと侵入していく。

 中を覗くと、目的の警備室ではなく、荷物などを放り込んで置くバックヤードの様だった。

 とはいえ、更衣室も兼ねていたのか「ロッカー」が置かれている。


「一個ずつ確認して、『食料』系のアイテムは確保。『装備』系はよっぽどでなければそのまま放棄で」

「まずは生きていくためのカロリーの確保が最優先、ということですね」

「そういうことです。それに、このあたりのドロップアイテムは『食料』系以外だとそんなに良いものは出ないので」


 先ほども言った「ひどくくたびれたシャツ」も含め、「ひどくくたびれた」と最初に付くシリーズはどれもこれも最低品質。

 そのため、最初期の頃に予備も含めて大量に回収してきている。

 おかげで惜しげもなく服を使えるようにはなったが、あまり見た目は良くなく、評判も最悪。その割にどこででも簡単に入手できることから、回収対象としては一時的に省かれていた。


「よっし、こっちは『救急箱』、あとは『兵糧丸』だ。ここは当たりかもな」

「こっちは、外れだ。なんもない」


 健太があたり、雄一郎は外れを引く。

 こういうこともある。

 そんな二人をよそに、和人がガサゴソとロッカーを漁る。


「どんなもんですか?」

「ええええ。面白いものが」


 頭を「ロッカー」から引っこ抜いて和人が何かを取り出す。


「ほら、『ウェイトレスセット』ですね。ここ、ファミレスかなんかだったんでしょうか」


 取り出して見せた「ウェイトレスセット」。女性専用の装備アイテムで、この世界の不思議パワーにより、何故か「戦国一閃」の足軽の鎧よりも防御力の高いという一品。


「ここの誰も装備できませんけど……。ま、コロニー戻れば誰かに渡せそうですかね。確保の方向で」

「ウェイトレスが金属バットとかパイプ槍持って巡回か……。まさに世紀末だな」


 一種異様な光景が頭に浮かぶが今更のことだ。


「こちらは、おお。『カップ麺:味噌』です。しかも箱入り、二十個もありますね」

「マジっすか! やりましたね! 和人さん!!」


 見つけ出した「食料」アイテムの「カップ麺:味噌」。嗜好品としてかなりの人気の品である。いまは「ジャガイモ」などの生産されたものを主食とするが、日本人である皆の舌は肥えている。

 時折でもその舌を慰めるような食事がとれないとストレスは溜まっていくのだ。

 そこに「カップ麺」シリーズである。

 技量も何もなしで作り出せるラーメンは、この極限下ではご馳走オブご馳走といえるのだ。

 そこで箱入りの二十個。これは大当たり。

 健太も騒がしくなろうというものだ。


「しかもこれ、扱い的にはアイテム一個分の扱いっすよ。やった、容量も圧迫しないし。最高の出だしじゃないっすか、和人さん」

「では、このまま回収できるものを回収していきましょう。ビギナーズラックが無くなる前に、根こそぎね」


 ふふふ、と穏やかに「カップ麺:味噌」のケースを抱えて和人はほほ笑んだ。

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