↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
25/32

第四章 エピローグ

 村外れへ続く道を抜けると、木々に囲まれた小さな空間へ出た。


 その中央に、一枚の石板が立っている。


 副職選択の石板。


 アレンは石板の前まで進み、静かに足を止めた。


 ガルドは少し離れた場所に立ち、それ以上近付こうとはしない。


 最後に選ぶのはアレン自身だと、その距離が物語っていた。


 絶え間なく響く滝の音が、木々の隙間を抜けて届いている。


 初めて滝下の村へ来た頃は、あまりの大きさに戸惑った音だった。


 今では耳にするだけで心が落ち着く。


 朝になれば、この音とともに目を覚ます。


 村へ出れば誰かに名前を呼ばれ、頼まれた仕事を手伝い、家へ戻れば食卓に自分の席がある。


 いつの間にか滝の音は、この場所で待つ人たちの存在を感じさせるものになっていた。


「迷いはないか」


 背後からガルドに尋ねられ、アレンは石板を見つめたまま頷いた。


「はい」

「そうか」


 アレンは石板へ手を伸ばした。


 指先が触れると、冷たい感触が伝わってくる。


 十歳の契約の儀で、同じように副職を選ぶよう求められた。


 あの時は、自分がその力で何をしたいのか分からず、何も選べなかった。


 今は、守りたい場所も、共に歩きたい人たちもいる。


 その中で自分がどのように生きたいのか、もう迷うことはなかった。


 アレンが石板へ魔力を流すと、掌の下から淡い光が溢れた。


 光は石板の表面をゆっくりと巡り、まだ何も刻まれていない場所へ集まっていく。


 石板を満たす光の中に、答えの出ない日々でも変わらず傍にいてくれたクローネの笑顔が浮かんだ。


「これが答えだよ。クローネ」


 光が一際強く輝く。


 やがて、選び取った副職の名が石板へくっきりと刻まれた。


『策士』


 刻まれた文字から光が立ち昇り、石板へ触れていた掌を通してアレンの身体へ流れ込んでくる。


 温かな力が腕を巡り、胸の奥へ静かに根付いた。


 何かが急にできるようになったわけではない。


 それでも、自ら選び取った力が確かに宿ったことだけは分かった。


 光が収まると、アレンは石板から手を離した。


 刻まれた二文字を見つめても、胸の内に迷いはなかった。


「策士か」


 ガルドが静かに呟いた。


 意外だと驚くことも、別の天啓を勧めることもない。


 僅かに目を細め、短く告げる。


「お前らしいな」

「そうでしょうか」

「ああ」


 ガルドは石板の前に立つアレンへ目を向けた。


「お前は力で相手を押し切るより、周囲を見て進む道を作る方が得意だ。結界師として学んだことも、その副職なら活かせるだろう」


 野兎や魚の逃げ道を塞いだ時も、魔物を滝壺へ誘導した時も、相手を力で打ち倒したわけではなかった。


 誰がどこへ進めば、最も良い結果へ繋がるのか。


 ガルドから結界を学ぶ中で、アレンは常にそれを考えてきた。


「僕も、そう思います」


 剣を手に、一人で先頭を進むのではない。


 それぞれの力を見極め、皆が前へ進めるように支える。


 迷った者がいれば共に考え、進むべき道が見えなければ探し出す。


 それが、アレンの選んだ生き方だった。


「戻るぞ」

「はい」


 二人は石板へ背を向け、滝下の村へ続く道を歩き始めた。


 木々の間を抜けるにつれ、遠ざかっていた滝の音が再び大きくなる。


 やがて畑と家々が見え、その先から聞き慣れた声が届いた。


「アレン兄!」


 レンが大きく手を振っている。


 その隣では、フィナが早く来るよう仕草で促し、ユナも小さく手を振っていた。


 アレンも手を上げ、三人のもとへ歩いていく。


 帰る場所を失ったと思っていた。


 もう二度と、家族と呼べる人たちには出会えないと思っていた。


 それでも今は、自分の帰りを待つ人たちがいる。


 滝下の村で過ごす日々は、それからも穏やかに続いた。


 レンは騒がしくも真っ直ぐに剣を振り続けた。


 フィナは神官として学び、村人から頼られるようになっていった。


 ユナは創作士として、自分に何が作れるのかを少しずつ探し始めた。


 アレンもまた、結界師と、自ら選んだ副職の力を学び続けた。


 誰もが、明日も同じ日々が続くと信じていた。


 そして、五年の歳月が流れた。

第四章『滝下の日々』をお読みいただき、ありがとうございました。


この章では、アレンが滝下の村で過ごした穏やかな日々と、仲間達との絆を中心に描きました。


フィナは神官に。 ユナは創作士に。 そしてアレンもまた、自分の進むべき道を見つけることになります。


追放され、居場所を失ったアレンが少しずつ前を向き、「守りたい」と思える人達に出会った時間でもありました。


大きな戦いや派手な展開は少ない章でしたが、物語全体を通して見ても大切な章になったと思っています。


次章からは五年後。

いよいよ本編スタートです!

それぞれが成長した滝下の村の物語が始まります。


今後とも『繋ごう、高らかに』をよろしくお願いいたします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。