地盤固め
ホンゾさんとは研究所で別れました。そのままルファはホンゾさんとともにニンジア本部のある遠くの地方まで行くことになりました。まあ元からあの体はそっちからきたので、まったくおかしなところはありません。
こちらは今まで通りの生活です。違うのは夜にルファと話し合ったり魔法を教えてもらったりがなくなったことぐらいですわ。ルファとあってなかったらいろいろと南で詰んでいたと思います。彼と会えたことは幸運でした。
冬の間、わたくしは主にプラウドアルターとともに帝都で活動を開始しました。帝都に研究所で生まれた魔法具の品々を直販する店を出すことにしたからです。その頃には治療特化型と精神安定に特化した蝋燭も開発できており、また特に精神安定特化型は効果は落ちますが一般の方でも手が届くレベルの価格帯にまで押し下げることが出来ましたので街の方々にも売れると思います。今のそれなりの値段がする初期型でも富裕層を中心にお買い求めになられていたようですから、潜在的な需要はあると思います。精神安定効果は本来魔力を回復させるためのものですが、気分が落ち着きやすくなるので。
そのために帝都に訪れた時に、ようやくお兄様にもお会いできました。お兄様はわたくしの無実を信じ、様々な無実の証拠、というかわたくしに冤罪を押し付けてきた者たちが残していたその証拠を集めてくださっていました。いずれこれらを使ってわたくしの無実を訴えるつもりだったらしいです。本当にありがたいです。
当初はわたくしの弔い合戦のつもりだったらしいので、わたくしが生きて帰ってきたことに、驚きと疑いの目で見られましたが、すぐにわたくしが本物であると理解してくれました。今ではヴァルター様の腹心として動いております。
ただ、今、わたくしが帰ってきたということを大々的に言うのは、ヴァルター様の障害になりかねず、またわたくしのお父様が現皇帝陛下とヴァルター様の間で微妙な立ち位置ですので、そのへんの調整をするために、お父様とはまだお会いできていません。わたくしが生きているというのは知っているらしいので、それで満足していただいている状況です。わたくしもお会いしたいのですが、わたくしのわがままでこちらの都合を潰すわけにもいきませんし。
なによりびっくりしたのが、もうずいぶんと前の話ですのに、未だにわたくしの噂を聞くことです。それも街の方々はわたくしが無実の罪で犠牲になった、みたいな話をされているのです。たぶん前にホンゾさんが言っていた、噂を流す、というものなのでしょうけど、本当に自然に流れてきたのでびっくりしました。わたくし名前とかは知られていましたが顔などはまったく知られていないので、まさかわたくしがそのアクレシアだなんて皆さん分からないようで、わたくしも直接何度か噂話を聞きました。
……怖いですね、ニンジア。今回のわたくしの話は事実ですからいいものの、これ嘘とかでも同様に出来るんですよね。国がニンジアに負けたという話も聞いていましたが、本当の話なのかもしれません。ニンジアを敵に回すことにならなくて本当に良かったです。
あとニンジアの噂と言えば、普通に今の皇帝陛下やハインツ殿下の評価も下がっていました。こちらも事実ですから仕方ありませんが、皇帝陛下やハインツ殿下の行ったことが何故悪かったのか、が誰にでも分かるように説明されていてそれが噂話として流れていたので、自らの行いで評価を下げているだけ、とも取れます。嘘偽りはお二人の噂の中には含まれていませんでしたが、聖女ラウラの評判も同時に落ちていて、その中にはわたくしには事実かどうか分からないものも含まれていました。
ハインツ殿下が推し進めた孤児院の数を増やすのも、武器に税金をかけるというのも、元々似たようなことをラウラが言っていたものでした。わたくしはそれは非現実的で効果がないどころか悪影響さえあるとしてラウラに言っていたのです。
そもそも武器と一口に言っても、明らかに武器と言えるのは、剣と槍ぐらいではないでしょうか? 短剣やナイフ、斧や弓矢なども武器でもありますが、道具でもあります。それに人は、誰かを傷つけようと思えば武器でなくてもそれが出来ます。例えば棒で叩けば人が死ぬこともあるでしょうけど、棒を規制するのでしょうか?
今帝国にある武器販売停止令など目的に対してはザル法過ぎますし、普通に臣民たちの負担になっています。道具である斧や弓矢、ナイフや包丁などにも高額の税金をかけて流通を制限しているのですから。
ラウラは皇帝陛下も聖女と認めた人物ですので帝都で知らぬものはいませんが、最近は悪く言われて、代わりにわたくしが持ち上げられているという状況のようです。たとえ元がラウラが言ったことであったとしても、それを受けて実行したのは皇帝陛下やハインツ殿下なので、それでラウラが悪く言われてるのはちょっと違う気がしますが、わたくしにそれを止める術はありません。ですからわたくしが、わたくしやラウラの噂をふられてもあいまいにしか返せません。
ラウラ自身がどう思っているかは分かりませんが、わたくしはラウラとまだ友達であると思っています。今の所、お兄様の調べでもニンジアの調べでも、わたくしの国外追放にラウラ自身が関わったという証拠はなく、むしろひきとめていたという証言もあるらしいですし。もちろん人をはめる常套手段として見えるところでかばっているというのはあると思うので、それを素直に信じることもできませんが、わたくしは少なくともラウラにそんな腹芸が出来るとは思っていませんので、信じています。
プラウドアルターは帝都を拠点として細々な依頼をこなされています。以前だったらプラウドアルターがやることもなかった簡単な、安い仕事も受けています。とはいっても体が資本の仕事ですので、幾分長めの休みも時々とっておられます。わたくしは出来るだけプラウドアルター、というかヴァルター様についていっています。休みの時は商会の直営店とかの切り盛りですね。
それとオークヒーローのゾーグさんもオークということを隠さずにプラウドアルターとして、ともに行動しています。オークの立場を少しでも良くするための策のようで、ミルトさんの護衛はテグモスさんや他の方に任せて、こちらとともに行動されているようです。元々ゾーグさんは人間の言葉も話せる上に、ヴァルター様やイプゾーシンさんに匹敵、もしくは上回る戦士ですので、一気に名前が売れました。ゾーグさんは帝都でも寡黙な紳士ですので、評判も上々です。
わたくしもプラウドアルターにいなかった十代の魔法使いシアという形で名前を売ってしまいました。お兄様いわく髪型も雰囲気も目つきも変わったので、以前のわたくしアクレシアと同一人物だと見抜ける人は少ないだろう、とのことでした。事実未だばれておりません。人前では口調もなるべく変えていますしね。
そんなわたくしには目まぐるしい日々があっという間に過ぎ去って、ヴァルター様の試練の終了の日がやってきました。




