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知るということ

「答えは否です」


わたくしはヴァルター様を正面から見据えてはっきり申しました。


横でアッケンベルテさんが大笑いしています。


「あ……う……そう、か」


今まで興味がなかったらしいフリーダまでわたくしとヴァルター様を見比べています。


「まだ続きがあります。聞いていただけますか?」


かなり狼狽えているヴァルター様が肩を落として、うなずきます。ヴァルター様は誤解されているようです。言い方が悪かったでしょうか?


「わたくしは今すぐ婚約、というのを否としただけです。ヴァルター様は時間がないと思い込まれているようですが、常にわたくしが付いていけば時間は作れると思います。お互いを知るための時間が。それからでも遅くはないと思うのですが、どうでしょうか?」


「え? ……ということは?」


「今すぐの婚約は嫌ですが、お互いに知り合ってから、納得してからの婚約でしたらお受けいたします。両親はびっくりするでしょうが、以前も皇太子の許嫁をしていたので問題はないでしょうし」


「あ、ああ、君のご家族のことを考えていなかった。もちろんそうであって欲しい。正式に婚約した際にはもちろん挨拶に行かせて欲しい。お父上の才覚は信頼しているし」


「ふふ……、先程のヴァルター様のお顔、あんな絶望的な顔があるのかしら、と思いましたわ」


「な……、全力で、全てをかけて君に話したのに、君は俺をからかうのかい?」

ヴァルター様が怒ったふりをされています。そういう面もお持ちですのね。


「からかってなどいません。先程も言いましたが、わたくしは知りたいのです。それにこれでわたくしは、ヴァルター様の意外な一面、とお顔を知ることができましたし、ヴァルター様もわたくしがこのような質であると知れましたでしょう?」


「君は、最初からそんなだったかい? 母や弟から聞いていた君や俺が知っていた君とは違う気がするんだが」


「それは違いますよ。他の方の目を通ったあとのわたくしと過去のわたくしは、あまりわたくしではないと思います。わたくしはわたくしを直接見ないとわたくしと分からないかもです。それに南でいろいろあってわたくしも変わったかもしれません」


「そうだぞ、ヴァルター。女を決めつけで語るでないぞ。うつろうものなのだからな」


「ああそうだな、長年女をやってるアッケンベルテがそういうのだから間違いないだろう」


「仲良くなった? 良かったー」

フリーダもわたくしたちがどうなるのか気になっていたようですね。


「ところで気になってはいたが彼女は君のなんなんだい?」


ああ、そう言えばフリーダのことまったく説明していませんでしたね。


「フリーダとは南で会いました。もうフリーダはわたくしの娘みたいなものですね」


「む、娘?! あ、相手はいるのか?」


「ヴァルター落ち着け。フリーダはコボルドだ。生物的な娘ではない。それぐらい見れば分かるだろう。普段は冷静沈着なくせにシアが絡むとこれだ」


「ええ、そうです。エルノやクァルもそうです。南で一人のときに仲間になってくれたんです」


「そうだったのか、フリーダ、ありがとう」


「あたし、あなたにありがとう言われてることしていない。……ヒールする?」


「おやフリーダはヒールができるのか、そりゃ頼もしい。クレイタと交代、ってわけにはいかんよなぁ」


「最近うまくなった。だいたいの怪我なら治せるはず。毒や病気も治せるようになってきたはずだよ」


「それは本当に助かるよ、是非シアと一緒にいて欲しい」


「うん、シアはあたしがヒール使えるの知らなかったのにあたしにいて欲しい言ってくれた。いらないと言われるまでついていく」


「わたくしがフリーダをいらない、ということはないと思うわ。けどフリーダは自分の判断で離れるべきと思った時は離れていいのよ」


「そうだねー、二人が結婚したら少し離れるよ。だってあたしがいたら邪魔だものね」

そんなことをいってフリーダは笑った。わたくしもあのときは大変でしたが、フリーダやエルノもたいへんでしたからね。大変だった者同士だったわけです。



それから数日後にプラウドアルターの残りの面々と砦の本隊が戻ってきました。これから冬になりますが帝都やこの砦に雪が降ることはめったにありませんが、ランダイオなどの北部には雪が積もったりもしますから、しばらく攻めてはこないでしょう。


ヴァルター様の皇家の試練はまだ数ヶ月ありますので、今すぐ行動することは出来ませんが、逆に根回しの時間となりました。元からヴァルター様派の方は多いみたいで、根回しをする必要もないらしいですが、念には念を入れておくべきですし、将来の敵となりえる存在は無くしておいた方が良いに決まっています。

不穏なのは何故かハインツ殿下派が帝都には少なからずいるということです。あれだけやらかしているのに、まだ支持している人達がいるのは驚きました。がレレットステウさんの一言で理解できました。


「そりゃー、御輿は軽くて扱いやすい方が便利だろ?」


わたくしにはなかった視点でしたが、考えてみればそのとおりですよね。特に国や周りにいる人達がどうなろうと自分さえ良ければ、という考えの方は、そう考えますよね。わたくしはそもそもそういう考えの方が国のトップ近くにいるという事実自体を知りませんでしたし考えもしませんでした。周りが悪くなれば回り回って自分やその家族、家系が困ると思うのですが、そこまで考える方でしたら自分さえ良ければ、なんて思いませんものね。


スヴェンさんも貴族に叙されて、その後ろにはマルガさんとその実家があるということで、結構な力を帝都でも得はじめているようですし、レレットステウさんを始めとしたプラウドアルターの面々もそれぞれに大きなコネがあって、それを使って、ヴァルター様の地固めを行っているようです。


さらにわたくしは砦の酒保商人さんのコネを使わせてもらって、わたくしの代理となる商会を設立していただきました。才覚のある帝国人が商会主となって、直接の販路を作らせてもらいつつあります。研究所のベルクトはもともと他国の兵士として捕まった方なので、まだ表には出れませんが、所長として研究に勤しんでいます。この前も新たな魔法器具の説明をされましたわ。それも売れそうですし、ベルクトも楽しそうでしたわ。適材適所ですね。


わたくしやラメルキ砦、そこに駐屯する方面軍にはウァーリス家やランダイオ家、ドーマーヌ家やシャルンホルスト家などの名だたる貴族の名家が後ろについてくれていますので、何事も問題なくことは進んでいます。もちろんこれらの家は強力なヴァルター様派の家となっています。彼らが後ろについてくれたことでオークたちにもある程度恩恵を与えることが出来ております。各家はオークの移住に賛成してくれる立場になってくれていますから。またそのおかげで士気が上がったので、南の死の荒野の平定も想定以上に進んでいるとのことでした。南のオークの地からの支援も大きいようです。ミルトさんは次期皇帝であるヴァルター様と何度も会談されておりますし、ハインツ殿下の約束を待つ必要はなさそうです。


この数ヶ月でクァルはさらに大きくなって、ヴァルター様をも乗せて飛べるようになりました。ですのでクァルに許可を得てヴァルター様とわたくし、フリーダにエルノを騎手とした騎乗用ドラゴンの登録をしました。その登録を受けているドラゴンは過去を含めてもほとんどいないので、ヴァルター様の権威付けになるでしょう。あとヴァルター様のペットとされているフリーダやエルノにも大きな保護として役立ってくれるでしょう、わたくしもです。


あとニンジアのホンゾさんからある提案を受けました。

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