すごく難しいお話
「その……わたくしであるという理由ですわ。おそらく初恋のようなものの延長線上でしかなく、ヴァルター様はわたくしのことを伝聞でしか知らないはずです。それで侮辱者として国外追放され、貴族籍を失ったわたくしを妃として迎え入れるのはあまりにわたくしのことを知らないのではないでしょうか? それなのに何故こんなに話を早く進めようとなされるのですか?」
「さすがに君は聡明だ。やはり気になるよね。俺が君を気に入っているのは大前提として聞いて欲しい。多分に政治的な意味合いもあるんだが、家族の問題でもあるんだ」
「それは……。ヴァルター様はいずれ皇帝となられる方。だからこそわたくしもおいそれと受けることも叶わないのですから」
「少しお待ち、ヴァルター。儂はシアにつくよ、いいよな」
アッケンベルテさんが座っていたソファから立ち上がって、わたくしの隣、フリーダの逆に座り直します。
「ああ、もちろんだ。アッケンベルテのことは信用している。是非彼女の力になってやってほしい」
少し気がそれたせいか、小休憩になりました。メアリが熱いお茶を準備してくれます。お茶菓子も見たことのないものもあります。フリーダの目が輝いていますわ。
「ホンゾ様が持ってきてくださった東方の菓子です。塩辛い味ですのでお口直しにどうぞ」
小さな乾パンみたいなものに黒いものが巻かれています。小さいので一つ口の中に入れてみます。乾パンみたいでしたのに簡単に割れました。中は中空になっていたようですね、軽かったですし。それに、これはいったいなんなんでしょう? 確かに塩っぽい味もしますが、他にも複雑な味がしますわ。特に黒い巻かれていたものが、非常に面白い味ですね。
「なんだろう、これ? なんだろう」
フリーダは首を傾げながら美味しそうに食べていますわ。今までに食べたことのない味と食感ですものね。エルノとクァルはこういったお菓子は食べられないので、それが分かってて門番を引き受けてくれたのかも。今度二人にもご褒美あげないと。
わたくしやアッケンベルテさんも食べているのを見て、ヴァルター様も一つつまみました。
「これは、美味しいな! いくつでも食べれそうだ」
ヴァルター様も多少は気が緩んだみたいです。緊張続きなのもよくありませんしね。よくやりました、メアリ。プレッシャーをかけるつもりもありませんし。単に知りたいのです。わたくし、ヴァルター様のことやその向こうのことを、よく知りませんから。
お茶を一口飲んでから、座り直します。
それだけでヴァルター様も気づいたようです。ヴァルター様から緩みが一瞬でなくなりました。フリーダが感じ取れるほどのものでしたわ。まあ、フリーダには関係がないのでその後もおやつを楽しんでいましたが。
「話を戻そう。俺は試練が正式に終わった直後、今の皇帝を上皇に押し込んで皇帝となるつもりだ。それしか混乱した今の帝国を立て直す方法はないと考えている」
「それをわたくしなどに言ってもよろしいのでしょうか?」
「本来ならだめだろうね。けど俺は君を信頼しているし、巻き込む気満々だ。それは申し訳ないと思うが、必要なんだ……」
「儂はもう今さらか。ヴァルターの指導役として、試練の導き手としてずっと付き合ってきたんだから、いやがうえにも付き合うしかないわな」
「そういうことだ、アッケンベルテ。皇帝が上皇になるということは、その妻、皇后、僕の母だな、彼女にも引いてもらわなければならない。しかし支える者がいない、すなわち僕が独身だと納得されてはくれない方だ。俺にとって、父よりも母の方が難関なんだ。だが、母は君を気に入っていた。今から知らぬ者を連れて行っても母は納得してはくれないだろうが、見知った君であれば、事情さえ知れば理解してくれると思う。これも理由の一つだ」
ああ、ハインツ殿下の母上としか認識できていませんでしたが、確かにヴァルター様の母上でもありますし、皇后ですわね。彼女が抵抗したら、確かにヴァルター様にとっては面倒なことになりそうです。わたくしはあの出来事では皇族の誰とも合わずに国外追放になりましたから、彼女がわたくしのことをどう捉えているかは分かりませんね。それ以前は確かに関係は良好だったと思います。でもああなってしまったので誤解されたままの可能性もあります。
「なるほど、と納得できる話でした」
「では……?」
「答えは否です」




