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難しいお話

「お話とはなんでしょう?」


ヴァルター様に席を勧められたので座りながら聞きます。少し性急でしたでしょうか?


「そうだね。ごほん。うん、このお茶菓子も美味しいな。しばらくずっと戦場だったから甘さが身に染みていい感じのお菓子だ」


ヴァルター様がお菓子を頬張りながら、そんなことをおっしゃいます。……何かを誤魔化しておられますね。


「どうなされたのですか?」


明らかに様子がおかしく見えます。こんなヴァルター様は見たことがありません。


「いや、すまない、今日呼んだのは他でもない」



顔は真面目になってますが、フリーダにお菓子を取ってあげています。


「おいしー。甘くて、ぽろぽろして、それから、えーと」


フリーダは気に入ったようですね。わたくしも食べてみましょう。


「これは、様々な方面から見ても、非常に有効ではあると思う、んだ。俺にとっては」


ヴァルター様が俺とは珍しいですね。あら、ほんと、おいしいわ、これ。



「その、君が良ければ、なんだけど、俺の、妻になってくれないだろうか?」


あまりにおいしかったのでもう一つ、と手を伸ばしたところでした。え? なんですか、それ。



「えっと、ヴァルター様。今しがた妙なことをおっしゃいませんでしたか?」


「み、みょうとはなんだ。お、俺は真剣に言っている」



「わたくし、長い間弟のハインツ殿下の許嫁でしたし、国から罪を被せられて貴族籍を失った者なんですけど?」


「知っている。我が家が君を馬鹿にしているのか、と言われてもおかしくないもの言いだろう……」



「では何故わたくしなのですか?」


「理由はたくさんある。そこには政治的なものも含まれているのも確かだ。けど俺は君がいいんだ」


正直、嬉しくて笑みがこぼれてきそうですが、我慢します。わたくしは今はいろいろなものを抱えていて、いろいろなレッテルも貼られている身ですし、なによりヴァルター様が、というところがまだわたくしには見えません。


「答えになっていませんわ」


「そう、かもしれないな。理由はたくさんある。しかし決定的なのは、君と一緒にいたいと思ったからだ。いつしかそれが一生であってほしい、と願うようになった」



「わたくしには、申し訳ありませんが、そこまでヴァルター様のことを考えたことはありません」


「それは、そうだろうな。俺はしばらくずっと君にとって許嫁の兄であっただけだし、会うこともほとんどなかった。君が学園に来る頃には俺は聖約という試練中だったからね。その試練ももうすぐ終わる」


「わたくしが覚えているのは、ハインツ殿下と一緒に初めてお会いした時、そこからはほぼなく、次が死の荒野で冒険者としてのヴァルター様を見たものです」



「ああ、俺は君を避けていたからね。自分の判断に間違いはなかった、と思い込みたかったんだ」


「どういうことですか?」


「君は詳しいことは覚えてなさそうだが、最初のあの時、君は俺の許嫁となるはずだったんだ」


「え、なんですか、それ。初耳ですわ」



「当時俺は十五歳、まだ学園に入ったばかりで世間も何も見えていない碌でもない皇族に過ぎなかった。君やハインツは十歳だ。学園で生活し始めたばかりで背伸びがしたいだけの子供だった俺は、十歳の女の子と将来を約束するのは考えられなかった」


ヴァルター様は顔が真っ赤です。聞かなかったことにしてくれるでしょうけどアッケンベルテさんやメアリもいますからね。今ここで人払いはできませんし。フリーダはたぶん大丈夫でしょう。お菓子に夢中にも見えますしね。


「それに試練のこともあった。皇帝になるはずだった、父の兄は試練で死んでしまった。それで残された許嫁とかいろいろとあったらしい。繰り返したくはなかった。が絶対に死なないとも言えない。だから許嫁は作らないとしたんだ」


「まだ分かります」


「だから俺は直前になって駄々をこねたんだ。許嫁はいらないとね。そこで急遽ハインツの許嫁になることになってしまった。家の結びつきだし、どちらも初対面だから」


(えー)

心のなかで、えーですわ。あの皇族に入るための教育その他諸々の花嫁修業は、苦労したあれこれや、鬱屈したそれらは、ヴァルター様の気まぐれで起こったことだったのですか?


『いや、今記憶を精査してみたが、本当にそのようだ。君は受け取れていなかったが、確かにそういう会話を聞いていた。それに流れ的に、ヴァルターでもハインツでも君の花嫁修業その他の運命は変わっていないはずだ』

それもそうねルファ。けど、なんだかえーだわ。


そんなことを考えているわたくしには気づかず、ヴァルター様はさらに説明してくださいました。


「俺は初めて君にあった時、しまったと思ったことをはっきりと覚えている。つまらない駄々をこねた、と。正直恥ずかしい話だが、一目惚れに近いなにかだったのだろう、十五歳が、十歳にだよ。俺は必死に君を万一悲しませないため、厄介事に巻き込まれないため、仕方のない判断だったと思いこむことにした」


「そう、だったのですか。まったく気づいていませんでした」


「それはそうさ。俺自身が疑っていたし、ある意味君を避けていた。すでにハインツの許嫁となっていた君を見るのが怖かった。もしその感情があったなら、特に君に大きな迷惑をかける事になりかねない、と思ったからね」


確かに避けられているのでは? と思うほど、ヴァルター様とお会いすることはなかったですね。ハインツ様を訪ねて皇城に行っても偶然出会うことすらほぼありませんでした。


「そうこうしているうちに俺も試練へ行くことになった。その試練中に知り合った女性を皇太子妃として連れ帰ることもあったらしいのだが、俺は出会えなかった。君のことは忘れようとしていた、忘れかけていたんだ」


あー、そういうことですか。ってわたくしに冷静に分析されるのはヴァルター様も不本意でしょうから、出来るだけ考えずにおはなしを聞きましょう。ルファも忠告以外は黙っててくれるみたいだし。


「しかし、少し前だな。父に、皇帝陛下に君がハインツとの婚約が破棄となって国外追放を受けたと聞いたときは戦慄した。ハインツの許嫁なら安泰だと思っていたのに……」


本当に悲しそうなお顔をされています。悪い記憶だったのでしょう。


「そして別件として南の砦にいくことになり、そこでオークに連れられている君に会えた。あとは君も知ってのとおりだ。俺は運命を感じたよ」


「いえ、まだ分からないことがありますわ」


「な、なんだい?」

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