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恐怖

「お久しぶりですね、アクレシア嬢」

ホンゾさんから慇懃無礼とも取れる丁寧な挨拶を受けました。


「ええ、本当に。どこに参られていたのですか? ここしばらくは砦にも立ち寄らなかったようですが」

席を勧められたので座ってからホンゾさんと話をします。


「はい、本部へ帰っておりました。久方ぶりにこちらへ戻ってきたら報告がありましてね。先程スヴェン殿にもお伝えしたんですが、是非アクレシア嬢には直接私からお伝えしたくて、こうしているわけです」


「なんでしょう? 怖いですわね。そういえばトゥーモにティユ、それにメアリ、では通じませんね、元ヤザヒェは元気にしておりますし、とても活躍していただいています。ありがとうございます」


「それはよかった。実はですね、プロテア帝国帝都で動きがありました。どうやらハインツ皇太子がこちらラメルキ砦へ視察に来るようです。……どういったつもりなのかどうかまではニンジアでも把握できておりませんが、一刻も早くお伝えしたほうが良いと考えました」


「はぁー?! 北でまだ彼の兄上が戦っていますのに、この砦に視察ですか? 何を考えていらっしゃるのでしょう!」

わたくしは思わず立ち上がり、下品にも大声を上げてしまいます。


「今の皇室にとって北の戦争は見えていないかのようですよ。それよりも急に資金繰りが良くなった砦を気にしているのでしょう。方面軍として認可した直後でしたからね」


急に頭が冷えました。

「わたくしのせいでもあるのですね。申し訳ありません、声を荒げてしまいましたわ」


「いえいえ、お気になさらず。むしろあなたにもそういった面があると知れて嬉しいぐらいですよ」


ホンゾさんにそんなこと言われて、恥ずかしくて今度は顔が熱くなりましたわ。


「反乱の可能性を疑われている? それともオークが気に食わない? まさかわたくしが戻ってきているのを知ったとか?」


「ニンジア的にはそのどれでもありませんでしたね。だから分からないのですよ。あの能天気な殿下のすることですから読めないのです」


「そう……、ですね。あの方の考えは結局わたくしにはつかめませんでしたわ。あまりにも非論理的すぎて……」


「兵士と将軍では見えているものも考え方も違うものですから。しかしながら将軍は兵士の視点も持っているものですが、ね」

そうホンゾさんはにやりと笑いましたが、目が全然笑っていませんでしたわ。目の悪いわたくしでも分かるレベルです。


「ええ、本当に。ありがとうございます。あの方と会う覚悟をする時間をいただけましたわ。対処はスヴェンさんに任せればいいでしょうし」


「それはよかった。私も同席させていただくつもりでしたが避けたほうが良さそうですね。端とはいえ大帝国の皇太子とお会いできる機会はなかなか恵まれるものでもなかったですが」


「あまり会わない方が良いかもしれません。変わった方ですから」

あえて変わった方、と表現しました。ホンゾさんなら理解されるでしょう。



「大丈夫か? シア。少し顔色が悪く見えるぞ?」

護衛として一緒の部屋にいたエルノが、ホンゾさんが退席してから話しかけてきました。


「ええ、ありがとう、エルノ。わたくしは大丈夫ですわ。少しいやけがさしただけですから」


「そっか、ならいいんだけど。シアがあんな大声出すなんて、おいらもびっくりしたぞ」


ハインツ殿下はすごく顔のいい皇族ですので、皆憧れていた方です。そしてわたくしが許嫁となってしばらくは、本当にお慕いしていました。しかし何度も会ううちに違和感を感じ、けど許嫁、しかも皇族相手に疑問に思うことは不敬だと考えて、深く考えはしませんでした。人間としては誰にでも優しい、良い方なのは間違いありませんでしたから。けどそれではだめだったとあとでいやというほど思い知らされましたね。


アッケンベルテさんによると、わたくしの刑罰は執行された時点で消失しているので問題ないということでした。それに冤罪ですしね。わたくしは皇室を侮辱したことはありませんし、心のなかでもありませんでした。ハインツ皇子がもしかするとバカなのではないか、という疑念は持ったことがありますが、それをもって侮辱罪とされたらたまったものではありません。態度に出した覚えも、もちろん言ったこともありませんし。


「シア、また顔怖いよ。その……、しんどいのはまだ先だろ? 少し休んで、それまで忘れた方がいいよ。コンフェイトス食べる? 持ってきてもらうよ?」

資金繰りが良くなったので砦で採用された保存が効く甘いお菓子がコンフェイトスです。エルノが持ってきてくれました。小さな瓶に入ったそれを一粒食べます。保存性とコストの問題で硬いものを採用したので、歯で割らない限り、ゆっくりとその甘さが口に広がります。その甘さは森に入ってすぐに食べた水いちごとはまったく違う、がつんとくるというか、甘い!というものです。その強烈な甘さのおかげで緊張が和らぎます。


ハインツ殿下の到着は早ければ明日にでも、ということでしたので、今日中に準備はしておいた方がいいでしょう。エルノとコンフェイトスのおかげで幾分落ち着いたので、スヴェンさんやマリーさんたちと打ち合わせをし、メアリとフリーダとで衣装の打ち合わせなどを行っておきました。衣装は研究所で商談をする際に使っていた、もともとオークのドレスだったものを帝国流にアレンジしたものです。わたくしとフリーダの力作ですが、エクセンドーラさんにも手伝ってもらったものです。


普段は別で寝ているのですが、今日はフリーダと一緒に寝ました。エルノの勧めでもあります。正直緊張感は最後まで抜けなかったので、フリーダが近くにいてくれるのはありがたかったです。わたくし、自覚ありませんでしたが、とてもハインツ殿下を怖がっているようです。そんなことをルファに話したら、ルファには当然であり、仕方ない、もしものときは俺が恐怖などの強い感情は食ってやるから安心しろ、と言われました。正直助かりますわ。

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