母
オークの進軍は非常に早く、わたくしとアッケンベルテさんは王のみこしに乗らせてもらうことになりました。クァルは自力で飛んでいますし、さすがにエルノとフリーダは連れてこず、テグモスさんにお任せしました。ニンジアの三人はオークに混じって走っています。
通常であれば馬で二日のところ、同じ二日でウァーリス領に入りました。入ったところで迎えが来ていました。あの三人でもホンゾさんでもないニンジアがウァーリス家に知らせてくれたようです。
「私はウォーリス家護衛団長のハイテであります。ウァーリス家当主フェルデナンド・ウォーリス様の命により、お迎えに上がりました。屋敷へご案内いたしますので、付いてきてください」
多少オークの軍勢にたじろいた気がするけど、威勢を維持されていました。
「わしはこのオークたちを指揮する魔術師ミルトと申します。ラメルキ砦から貴家を支援するためにきました」
「はい、ラメルキ砦の砦長スヴェン殿から伺っております。お側にいるお二方も魔法使いの方のようですね。当方に魔法使いは少ないため、大変助かります」
わたくしとアッケンベルテさんのことです。ちなみにわたくしは今は砦にいた女性兵士の制服を借りていますのでただの女性兵士に見えるはずです。戦闘訓練時に着ていたものですわ。サイズ合わせは行っているので問題はありません。
アッケンベルテさんはいわくありげなローブとつば広とんがり帽子ですけどね。持っている杖もとても特殊な見た目をしています。わたくしは杖すらなく魔法の短剣ですけどね。けど魔法使いの女性兵士ではけっこうよくあるスタイルらしいです。
あとミルトさんはオークたちの王であることはふせるようですね。確かにそのほうがいい気もします。
騎乗しているハイテさんともう一人についていくと、しばらくして屋敷へ着きました。わたくしが子供の頃ここへ着た時と外見は殆ど変わっていませんわ。記憶より若干古くなった感じですね、当然ですが。
開門すると、女性が二人待ち受けていました。周りには当然、護衛らしき人物が何人かいますけど。
「ようこそお越しくださいました。現在当主は出撃しておりますので、当主の妻、それに姉が迎えさせていただきました」
一人は普段着のドレス、一人は戦闘用の鎧とまではいかない、軍の制服みたいな衣装をまとっていて、帯剣もしていました。
って当主の姉?
「お母様?!」
思わず大声で叫んで、みこしを降りてしまいました。
『感情が溢れすぎている。食わせてもらうぞ』
ルファがわたくしの中で巻き起こった感情の波を抑えてくださいました。
私の大声で、奥様は怯えてしまいましたし、護衛の方々やハイテさんもお二人を守る体勢となっています。当然ですよね。予定にない動きですし、わたくしが本当に娘だという証拠は今はないんですから。
帯剣をしている方がお母様のオリビアですわ。ここが母の実家ですからいてもおかしくはないとは言え、何故今ここにいらっしゃったのでしょうか? お父様も宰相から降ろされて軍務大臣をやっている、ということに関連するのでしょうか?
久々にお会いできたお母様は少しやつれているようにも見えますが、帯剣もされていますし、元気なようです。若い頃はかなり腕が立つ女性剣士だったとは聞いていましたが、帯剣している母は初めて見た気がします。
「アクレシア? シアなの?!」
お母様は結構疑っておられますね。まあそれも仕方ありません。学校でいきなり大罪の嫌疑がかけられ実質処刑された娘ですものね。その大罪が濡れ衣であるということすらご存じない可能性も高いですし、普通になりすましかもしれませんしね。ですから剣の柄に手をかけておられます。けどその表情は間違いなくわたくしを愛してくださっている母のものでした。
ルファに感情を食べてもらっていてよかったです。でないと、ここまで冷静に今の事態に考えて対処できなかったかもしれません。
「はい、お母様。少し髪型が変わって、ワイルドになっているかもしれませんが、間違いなくアクレシア・ノイラートですわ」
証拠、というわけでもないですが、遠視の魔法を解除します。屋敷では眼鏡でしたし、その眼鏡も本を読む時などでしたので、屋敷内では普段はこの顔、だったはずですから。
けど、そういった後、貴族の資格を失っているので、ノイラートではないかもしれないことに気づきましたが、元ノイラートだったのは間違いありませんから、大丈夫でしょう。ルファのおかげで変に冷静です。
母がすぐ近くまで護衛を振り切って来られました。こんなに近くで母を見た記憶が、学校にいたときからありません。わたくしの身長はすでに母に追いついてしまっていたのですね。
「ああ、間違いないわ、シア、よく無事で……」
母はわたくしの頭を両手で抱え込んで胸にいだきました。ルファが感情を抑えてくれているはずですのに、涙が出てきました。
「あなたが大罪を犯して南へ追放された、と聞いていました。それは本当だったのですか?」
「いえ、誓って言いますが、わたくしは何もしておりません。が、南へ追放されたのは事実ですわ。ここにおられる方々のおかげで無事に帰ってこられましたが……」
このまま母の元で、身の上話をしたいところですが、ここに来た理由を思い出すと、そんな悠長な事は言っておられませんね。
「ですが、今はわたくしの話をするタイミングではないようです。お母様の弟、ここの当主、フェルデナンド叔父様が出撃されていると聞きました」
「そうでしたね、シア、強くなったわね」
わたくしたちのやり取り中にミルト様やアッケンベルテさんもみこしから降りていたようで、奥様に屋敷に招かれましたが、すぐに増援として向かいたい、と言って断りました。
「では私がシアを、いえ彼らを前線まで送りますわ。マリレーナは家を」
叔父の奥様であるマリレーナ様はいまいち事態を飲み込めていない様子でしたが、お母様に促されて、護衛とともに屋敷へ戻っていきました。
ハイテさんは付いてくるようで、もう一人も母の分の馬を連れて戻ってきました。……わたくしは母が馬に乗れることを知りませんでした。わたしくもまだ乗れませんし。授業で軽く乗っただけですわ。
「フェルデナンドがいるところへ案内します。付いてきていただけますか?」
母がミルト様やアッケンベルテさんに声をかけます。そして。
「シアも私の馬に乗りますか?」
「え? わたくしまだ馬に乗れませんが大丈夫なのですか?」
「ええ、娘の一人程度抱えて走ることぐらい出来ますよ」
そういってわたくしを先に馬に乗せてくれた後、母は颯爽と馬に飛び乗りました。
「ハイテ、先導を頼みます」
護衛が一人と一頭増えました。ハイテさんが前を走り、二人が左右について走ってくれるようです。そのあとにミルト王のみこしがアッケンベルテさんは再びみこしに乗り、そのあとにオークの軍団がついてきます。さすがにそれほど速度は出していませんが、それでも走って付いてきます。ミルト様の魔法がかかっているとは言え、すごい体力とスピードでいつも驚きます。そしてそれについていっているニンジアの三人もすごいですね。彼らには魔法もかかっていないはずですのに。母も驚いていましたので、軽く説明をしておきました。
走っていく先に砂埃が見えました。すでに戦闘が起こっているようです。




