三人
今日は結局夜になるまで、皆さんいろいろ忙しくしていらしたようで、わたくしたちもうっかり夕方まで寝てしまいましたわ。そこからしばらくして夕食をいただいて、相変わらず部屋で待機していたら、アッケンベルテさんとイプゾーシンさん、それに今では元ニンジアの三人が入ってきました。
「アクレシア殿、あなたは軍務大臣の娘。そして追放刑から帰還し、オークたちを連れてきた者です。たいへん重要な位置に滑り込むことになりました。望む望まないに限らず、ね。ですので、相変わらず護衛は必要ですが、今後我々は忙しくなりそうなので、しばらくはイプゾーシンも付きますが、基本はこの三名に任せることになりました。忠誠に関してはニンジアとの重大な契約と、私の誓いの魔法で、縛ってありますので心配はないはずです」
三人を見て、クァルが威嚇の唸り声を上げたので三人はすくみ上がっています。
「大丈夫みたいよ、もう。クァル、許してあげて」
うなるクァルの頭を撫でてあげて落ち着いてもらいました。
「ほら、あんたたち、一人ずつ前に出てアクレシア殿に挨拶しな。護衛対象で実質お前たちの上司になる方だ。せいぜいアピールしておきな」
イプゾーシンさんが一人の肩を軽くはたく。
最初に短髪の青年が名乗りました。
「俺はトゥーモといいます。火遁の術と近接戦闘術、つぶて術が得意です」
「待って、近接戦闘はまだ分かるけど、火遁って何かしら? それにつぶてって、石投げのこと?」
「あ、すいません。東方の言葉でした。火遁は要すれば火の魔法を使って逃げる術のことです。つぶては大きくまとめればおっしゃるとおり石投げです。俺は指で弾くんですが」
「そ、そう。よくわからないけど、分かったことにするわ」
次は青年よりやや上、回復術師のクレイタさんぐらいの方が名乗りました。少し古風で訛りのあるしゃべりです。
「拙者はティユと申す。侵入術、特に城攻めにおけるものが得意です」
「偵察兵みたいなものなのかしら?」
「えー、はい。そういったものかと」
「今度は分かったわ、私の部屋に入ってくる手際などもあなたの力なのね」
「あ、いえ、確かに拙者の力もあったかと思いますが……」
最後に残った方は独特です。頭は丸めているようですが、やたら美少年です。本当に少年なのかしら? 体つきも華奢ですし、指も長く、比較的きれいな肌をされています。
「私はヤザヒェ。本名よ。いくつも偽名を持ってるけど、魔法使いの婆さんには見抜かれたわ。私の得意なのは変装ね。今は全て解除しているからこんなだけど、だいたい女に化けてるわ」
声も男性とは思えないほど高いですわね。
「ああ、やっぱり男性でしたか。少し見ただけでは分からなかったですわ」
「……たぶん私がお世話役になると思うから言うけど、私は確かに男だけど、男としての機能はないわ。物心付く前に事故で失ったみたい。だからお嬢様を襲うことはできないから安心して。見た目も変装して立派な侍女になってみせるわ」
「え、あ、はい。よろしくです」
突然のカミングアウトでびっくりしましたが、仲良くできそうなら助かります。お三方とも。
「トゥーモにヒェッツ、ではないのだったな、ヤザヒェ?だったか。拙者はアクレシア様がご夕食中、少しこの部屋を見聞し、改装しておきたいので、任せてよいか?」
「おめぇー何勝手なこと言ってんだ?」
「待ちな、イプ。自発的に役立とうとしているのはいいことじゃないか。一人見張りは残るが、それでもいいか?」
イプゾーシンさんを止めて、アッケンベルテさんがそうまとめてくれました。確かにいろいろと縛っていてもすぐに信用するということは難しいかもしれません。けどわたくしも信じたいと思います。
「おいらも残るよ。夜は食べないから」
まだぎこちないもののエルノが皆にも分かる言葉で言いました。
「ではイプ、任せていいか?」
「ああ、分かった。私らが食いっぱぐれないようにしておいてくれよ」
イプゾーシンさんは少しがっかりしたようにお腹を手のひらでさすりました。
「年寄りは食えるときに食っておかないと食えなくなってしまうんでね。まあ仲良くしておきな、たぶんこのティユってのがお互い一番理解しやすそうな相手だと思うしな」
私とフリーダ、クァルとアッケンベルテさんが連れ立って、トゥーモにヤザヒェもついてきて、一階の食堂へ向かいました。
普段どおりの夕食でしたが、なんだかいつもより量が多い気がします。わたくしなどはちょうどでしたが、兵士の皆様には足りないのでは?といった量でしたのに、今日はわたくしには食べきないほどの量があります。
周囲で食事をしておられる兵士たちの話を聞かせてもらっていると、どうも数日中に酒保商人がやってくるらしいので量だけは増えたのだろう、とのことでした。酒保商人とはオーク族のワナッフィさんがそうであった従軍商人みたいなものですね。意味合い的には同じだと思うのですが、酒保商人には軍に様々な物資を売ってくれる軍出入りの商人であって軍と一緒に移動するという意味合いは少ない気がします。
従軍商人ではなく酒保商人ということは、保存していた食料を使い切って新しいものに変える、ということでしょうね。
おそらく方面軍へ格上げになったここへの補充なのでしょうけど、そんな予算があったのですね。あと情報も収集できるかもしれません。
食事を終えて部屋に帰ってくると、主に家具の配置が変わっていました。その変更にどんな意味があるのかは私には分かりませんが、潜入が得意とおっしゃるティユが変えたのですから、きっと潜入しづらく潜入者が活動しづらい配置なのでしょうね。ぱっと見では不便になりそうなところはないので、良いと思います。
帰ってきた時にはエルノと談笑していましたし、もう完全にクァルがティユさんを警戒していない様子なので、大丈夫なのでしょう。異種族に偏見のない方のようで良かったですわ。
「お待たせしました。食堂にはまだたっぷりと残っているようでしたから急ぐ必要ななさそうでしたよ」
入り口近くの壁にもたれて立ってたイプゾーシンさんが反応しました。
「お、そうか。もう腹が減って仕方がねぇ。おい、ティユ、行くぜー」
「はい、ちょっと食事をとってくる、また話をしよう、エルノ君」
「おー、ティユ、話しやすい、またなー」
イプゾーシンさんがティユさんと肩を組んで、部屋を出ていきます。
「おめー、ニンジアではどういう扱いだったが知らねぇが、ここでは私らの後輩扱いだからな。覚悟しとけよー」
そんな声が部屋まで届いてきます。残念ながらティユさんの返事らしき声は、よく聞き取れませんでした。
「アッケンベルテ様、私物をとってきて、着替えていいですか?」
ヤザヒェがアッケンベルテさんに許可を求めています。
「ん、ああ、そうだね。いつまでもその見た目じゃ目立って仕方ないしね。悪いけど私物はすでに全てチェックさせてもらってるからね。そうそう、荷物のところにいるレレットステウも変装の名手だ。やつにはすでに言い含めてあるから、ステウに従って動きな」
ヤザヒェさんも一時退室しました。確かに顔が良いのに頭を丸めているヤザヒェさんは食堂でも目立っていました。ちゃんとした髪型にしていれば、線は細いですが、大層な美形ですのに、なぜ頭をまるめてらっしゃるのでしょうか。
しばらくしたら食事に行っていたイプゾーシンさんとティユさんとヤザヒェさん、らしい方が一緒に帰ってきました。
帰ってきたら分かりましたわ。かつらを被ってらしたもの。元々を知っていないとかつらだなんて分からない美しい髪です。それに化粧されてきたのですかね? 顔の印象がまったく異なっています。目は大きく、鼻筋は通っていて、小さくきれいな唇に見えます。とても男性だなんて思えません。服もすごく一般的なメイド服ですし、しっかりと着こなされています。それになんだか一回り小柄になったように思えます。いくらなんでも体を小さくなんて出来ないと思うのですが。
「ヤザヒェです。手持ちがこれしかなかったので、しばらくはこれで行きます。この姿での名前をつけていただけませんか? アクレシア様」




