会談
侵入者騒ぎから三日後、ニンジアを名乗る男が一人、帝国の軍務大臣の手紙を持参して、砦に現れました。
帝国式の貴族礼装でしたが、男は間違いなくあの時の侵入者の指揮官でした。彼は名をホンゾと名乗り、ニンジア赤の部隊長であるとしたそうです。
今は会議室で砦長に何故かわたくしも呼ばれてここにいます。砦長と向き合って座って話をしているのが、先程のホンゾ。ホンゾの後ろにはたぶん襲撃部隊にもいた二人が護衛として立っています。うち一人の魔法使いは間違いないそうです。彼と相対したアッケンベルデ様がそう確信しておられました。会議室には捕えたニンジア三人を連行してプラウドアルターのヴァルター様とレレットステウさん、ヘルムの兵士コルノーさんと他二人の兵士が控えていました。なんと暗殺対象だったはずのヴァルター様までご出席されています。レレットステウさんとアッケンベルテさんが、この場で万が一もないようにヴァルター様を守っているらしいです。
わたくしは実際に襲われたものとして、そしてスピリットドラゴン、クァルの主としてここに参加することになったようです。
「場を設けてくださり、誠に感謝いたします」
ホンゾがまず慇懃無礼でもない、まっとうな感謝の意を表しました。……本当に話し合いにきたみたいですね。砦長もプラウドアルターの皆様もそう判断しているようです。ニンジアとは変わった組織なのですね。何よりも恐れられていそうなのにすごく信用もされているように見えます。
「まずはこちらをどうぞ。ブロテア帝国軍務大臣コルネリアス様からの私書です。宛名はここの砦長スヴェン様になっているはずです」
砦長がマリーさんにあごで指示して私書を受け取ります。けど、軍務大臣がコルネリアスってどういうこと? コルネリアスはわたくしのお父様の名前でお父様は宰相だったはずですわ。
私書をさっと一読して砦長スヴェンさんは私書をふところに入れました。
「こちらは確かに受け取った。受け取った証拠はなにかいるかね?」
「いえ、私は何も指示されていませんので、いりません。そしてこちらが軍務大臣の正式な発令書となります」
「発令書? なぜ貴殿が?」
スヴェンさんが訝しんだものの、ニンジアのホンゾさんは肩をすくめて先程差し出した書を指し示しただけでした。
スヴェンさんは発令書を受け取って、読み進めていました。みるみるうちに顔が真っ赤になっていっているのが分かりました。お怒りになられたのでしょうか?
「これは……本当に……封蝋……軍務……ニンジア……」
皆スヴェンさんを見守っています。読み終えたと思えたときにはすでに普段のスヴェンさんに戻っており、むしろ清々しさを感じるようになっています。……なんと書かれていたのでしょうか?
「これはホンゾ殿も承知しておられるのですよね?」
「ええ、はい。私は部隊長ですので参加はできませんが、できる限り協力しろと上からも言われております」
上? ホンゾさんの上ということはニンジアそのものの意思ととらえてもいいのかな? ホンゾさんのいう部隊長がどれほどの地位なのか分からないから確定はできないけど。
「分かりました。この発令書、お受けいたします。返事はホンゾ殿が?」
「ええ、少し動いてもよろしいかな?」
「もちろん構いません。コルノー、気を抜いてよし」
明らかに張り詰めていたヘルムの兵士の緊張がやや緩んだようで、それだけで部屋の雰囲気ががらっと変わりました。和気藹々とまではいきませんが、みんな仲良くゆるくなった感じがします。
ごく自然にホンゾさんが立ち上がり窓を開けました。そしてどこからともなくなにか黒いものを取り出して窓から放りました。するとその黒いものは羽ばたき、飛んでいってしまいました。
「あやつは速いので数時間後には話が通っているはずです」
あやつってさっきの黒いもののことでしょうか? 軍で使っているという伝書鳩とも違うようですが。
「さて、ホンゾ殿やニンジアとのやり取りは終わった。ので引き続いて皆様にご説明したいと思いますが、よろしいですか?」
スヴェンさんが主にわたくしの方を見て、そうおっしゃいました。今何が起こったのか知っているのはスヴェンさんとホンゾさんだけですので、もちろん説明は聞きたいですわ。クァルが飽きたようにあくびをしたので頭をなでてあげます。
「はい、もちろんです。一体何が起こったのでしょうか?」
「ありがとうございます。おっと、少し人を呼んだほうがいいかと思いますので、呼ばせますね。コルノー、ミルト様を呼んできなさい。もちろん護衛としてついているイプゾーシンさんやクレイタさん、それにアクレシア様の子たちもだ」
え? フリーダやエルノもですか?
待っている間に一度捕えたニンジアの三人は開放されホンゾさんの方に移動しました。最低でもニンジアと何らかの密約が結ばれたようですね。




