転移
私は無言でうなずきます。
「では次は竜、スピリットドラゴンのクァル、でしたか? クァルについてですが、竜に関することは軍ではなく冒険者ギルドですので、ごまかすのはあまり得策とは言えません。ですから、非常に友好的であるため、こちらで管理するとの申請を行おうと思います」
このへんで食事が運ばれてきました。朝食なので比較的簡素なものですが、全員に食事が配られました。クァルにも。クァルには大きな肉の塊でした。あれは鳥でしょうか。焼いてない姿を初めて見ました。エルノにはちゃんと生肉で、フリーダには私と同じものでしたわ。
「冒険者ギルドなら俺がコネあるから、いいように出来ると思うぜ」
軽戦士のレレットステウさんがだるそうに手を上げてスヴェンさんに言いました。
「そうですか、ではお任せしてよろしいですか?」
スヴェンさんがレレットステウさんとヴァルター様、それからアッケンベルテさんを見て、そう答えました。
「うぃーっす、おまかされたー」
レレットステウさんが気軽に請け負いました。
「では実際にはどう管理しましょうか?」
「あの……!」
わたくしもつられて手を上げて発言の許しをもらいます。
「はい、アクレシア様」
「あの、あちら側ではフリーダとエルノ、そしてクァルと皆で一緒に生活しておりました。ですからこちらでもそれをお許し願えませんか?」
スヴェンさんが鋭くこちらを睨みました。……いえ、確か目が悪いみたいでしたから距離があってわたくしの顔の表情が見えにくいから睨んでいるように見えるだけでしょう。
「そうですな、フリーダ、でしたか? 彼女は問題ないでしょう。しかしエルノ君とクァルには靴を履く習慣はあるのですか? 部屋に入れるとなると土を落としにくい素足では、少々困るのですが」
「は、はい。エルノには靴を履いてもらいます。クァルには無理ですが、汚して帰ってきたことはありません。万一汚してしまったらわたくしが掃除いたしますわ、ですから、なにとぞ……」
「そう泣きそうなお顔にならないでください、アクレシア様。分かりました。三名はアクレシア様とともに部屋に滞在するということで構いません。よろしいですよね?」
今度はプラウドアルターの皆様の方を向いて聞いた。
「私としてはともに護衛を……」
「あんたは黙っておきな、クレイタ。儂達は構わないよ、勝手に護衛するし。むしろそのドラゴンがいたら護衛すらいらないかもだけどね」
「わかりました。マリー、確かお前は洗浄の魔法が使えたな。建物内での魔法の使用を許可する」
え? そうなんですの?
「建物内で魔法の使用は駄目だったのですか? わたくし、結構使ってしまいましたが……」
「ああ、いえいえ。兵士だけの話であります。掃除などを魔法でやるのを許していては、魔法が使えぬものの不満が溜まりますし、攻撃魔法など使われたら後始末がたいへんですからね。今回は特例としてアクレシア様の身の回りのみという条件で許しました次第です」
マリーさんが起立して敬礼していました。彼女に掃除係になってもらってしまいました。今までもマリーさんにはいろいろとお世話になっていますのに。
「ところで、アクレシア様、本題なのですが、その、クァルがどうやってここにこれたのか、ご存知ありませんか? 防衛上由々しき問題であるかもしれませんので……」
「あ、あー、そのー、ちょっとクァルに聞いてみますね」
わたしくにもさっぱり分かりませんわ、ダメ元でクァルに聞いてみましょう。そう言って席を立ってクァルが丸まっているところへ近づきます。
『あーそのまま、ゆっくり動けー。優しいゲルンズファさんがシアに何故か、教えてやるぜー』
ルファ?! 知っているの?
『ああ、知っているというか予測なだけだけどな、たぶん当たっているはずだ。そのままクァルに聞いてみるふりをしておけー』
分かったわ、なんとかごまかしてみる。
視線がわたくしとクァルに集中していますから動きにくいですが、なんとかゆっくりクァルに近づいてから、頭やのどをなでてあげながら耳を澄ませたり、うなずいたり演技をしながら、ルファの言葉を聞きます。
『コボルドの集落でクァルから果物をもらっただろう? あれがクァルの転移を可能にしたもののはずだ。本来なら果物の持ち主のところへ転移するはずなんだが、ちょっとだけ座標がずれてあそこに転移したようだ』
なるほど、あの甘い香りのする果物ですね、いろいろありすぎて荷物の中に入れっぱなしでしたわ。それに確かにクァルたちが現れたというのも、わたくしがいた部屋のすぐ近くではありましたね。高さが違いますが、もしかするとクァルは空中に転移したのかもしれませんね。フリーダとエルノが無事で良かったですわ。
ありがとう、ルファ。なんとか説明してみるわ。




