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帰還

あら、早速来ましたわね。ミルト王はどう切り返してくれるのでしょうか?


「我らにご協力していただいておる方だ。なぜそんなことを気にする? 汝らが不要と言ったのではないのか?」

あら、ミルト王、怒ってらっしゃる? 確か王もわたくしと同じ国外追放を受けた身でしたものねぇ。


「総意ではない! 我らの目的の一つに一人の女性を探すというものがあった。ぜひ彼女の名前を教えていただきたく!」

若い戦士が前に進み出て、必死な感じで言ってくれました。

ミルト王が振り向いて、わたくしの意見を聞いてくれました。わたくしは左にフリーダの背に掌を乗せ、右手でこちらを見つめるエルノの頭を撫でながら、王に対してうなずきました。


「彼女はアクレシア・ノイラート様。国外追放を受けたと聞いておる」

「おお、やはり。我が弟が愚かな真似をしてしまったことを謝罪したい」

え? わたくしに愚かな真似をした弟ってハインツ殿下のことですよね。という事はこの人は第一皇子のヴァルター殿下? ハインツ殿下と初めてお会いした時以来かしら。そう言われてみると記憶の中のヴァルター殿下の面影が見える気もするわね。


「驚かれるのも無理はない。道中説明しますので、我らとともに国へ戻りましょう」

ヴァルター殿下がこちらに手を差し出してくれます。


「え? あ、はい、けどわたくしは国外追放の刑罰を受けた身。戻ってよろしいのでしょうか?」

「その点は抜かりなく。アクレシア・ノイラート様の国外追放には期間が書かれておりませんでした。すなわち国外で出た時点でその刑罰は執行完了されたこととなり、刑罰を繰り返す法的根拠はありません」

返答してくれたのはリーダーらしいお婆さん。


「勝手に盛り上がっているようじゃが、彼女は我らが送り届けると決めた方じゃ、それをあとから現れてそんなことを言われても困るな」

ミルト王が厳しい口調で冒険者にそう言います。そうですわね、わざわざ第一皇子様がお迎えに来てくださったのは嬉しいですが、ここまでミルト王のご助力があってこそですしね。それにわたくしだけというのもそれはミルト王への裏切りに等しいですわ。


「はい、ミルト王のおっしゃるとおりでございます。ヴァルター殿下のお言葉は嬉しい限りですが、今ミルト王をおいてそちらに行くことはできません」

フリーダは心配そうな顔をしてわたくしを見つめています。

「なにを話してるんだ? シア。帰れるチャンスなんじゃないのか? あの人間たちはシアを迎えにきたんじゃないのか?」

人間の言葉が分からないのに雰囲気で察してくれているエルノは本当に賢いですね。


「確かに、王のおっしゃるとおりですね。失礼をしました。しかしオークの王はどうやって彼女を帝国へ届けられるつもりですか?」


「お前たちは信じぬかもしれんが、ワシも元帝国民じゃ、国民だったものが戻ってはいかんのか?」

「オークの軍勢を引き連れられては、認められるものも認められぬでしょうな」

ミルト王とお婆さんの舌戦になってしまいました。ちょっと険悪な雰囲気です。どうすればいいのでしょう?


「あ、あの、とりあえずわたくしとミルト王だけでも国境を超えることはできないでしょうか? 王からは帝国に提案されたいこともあるようですので」

「ふむ、そういうことでしたら、可能ですな。アクレシア・ノイラート様と王のおニ方だけでしたら、我らが超えさせることが出来ます」

「ほう、ならば壁までは我らがアクレシア・ノイラート様を送り届ける。それ以降はあなた方についていく、でよろしいかな?」


「王よ、それはあまりに危険では?!」

テグモスさんが抗議の声をあげました。

「危険は承知よ。しかし先程のやり取りを聞く限り、そちらには皇族がいる様子。アクレシア・ノイラート様はもちろんワシも滅多な扱いはせぬだろう。わざわざこんな危険な地まで探しに来る善良な者たちだしのう」


「ならば軍勢のまま、国境門付近まで参りましょう。我らがいたら射かけられることはないでしょうし、門付近は比較的安全ですのでそこで軍は駐屯し、待つということで。その後は交渉次第ですかな」

「分かった。この軍勢は荒野を渡るためのもので他意はないしな。それでいこう」


クァー!


空で待機していたスピリットドラゴンのクァルが南を向いて大きく鳴きました。


「あ、あれはスピリットドラゴン?! なぜこんなところに?!」

冒険者の方々は驚いています。

「あー、あの子はわたくしのお友達ですのでお気になさらず、敵のやってくる方向を教えてくれているのです」


「スピリットドラゴンがお友達ですと! それはいったいどういった経緯で? いえ、今は聞く暇がありませんな。もしよければお時間できた時にお話が聞きたいです」


妙にクァルにこだわる冒険者は壮年の魔法使いのおじさんでした。

「クレイタがこんなに興味を持つなんて珍しい。あ、そういえば、竜オタクだったか?」


南から長く鋭いツメをもった二足歩行のとかげテリジノンたちが走ってきます。今こちらは止まっていますので追いつかれるのは確実ですね、返り討ちにしないといけません。オークの軍勢がテリジノンを迎え撃つ陣形に変わっていきます。王やわたくしの周りは重装オークで取り囲まれて冒険者たちは弾かれます。


「人間の冒険者よ、お主らの力はたいしたもののようだ。私とともに切り込まないか?」

オークヒーローゾーグさんが冒険者を誘いながら最前線に移動していきます。


わたくしたちはじりじりと北に進んでいきます。その間にゾーグさんたちがテリジノンに接敵しました。ゾーグさんと冒険者の大きな斧を持った女性の戦士が一撃でテリジノンを倒しているのが見えました。三種類の中では一番防御力がないとはいえ、あの大きな敵を一撃ですか。ゾーグさんはわかってましたが、あの女性戦士もすごいですね。


とか思っていると魔法使いの支援を受けながらも第一皇子のヴァルター様もテリジノンを倒しました。ヴァルター様も強いのですね。

後ろに続いていたテリジノンたちはたじろいだようでその場で止まったようです。まあ当然ですわよね。一瞬で仲間が三体もやられたら、知能があるものなら止まりますわよね。


三体の死骸が南へ飛んでいきます。先程竜巻を作った魔法使いの魔法のようですわね。風圧であれほど移動させるとかすごい魔力ですね。

ゾーグさんと冒険者たちが戻ってきます。死骸を吹き飛ばした後、その場に地中を移動する貝エアロムが現れたようで、テリジノンの動きが止まりましたしね。あの調子ですとすぐにでも前に歩ける大きな陸生のかにであるバージャストラもやってきそうですし、離れるにこしたことありませんわ。


ゾーグさんと冒険者達が追いついたのでわたくしたちを含むオークの軍勢も北に向かって進軍します。


物見櫓に掲げられている旗が見えてきました。どうやら壁にたどり着いたようです。そういえば地面が変わってますね。土砂が露出してる荒地ではなく、芝生のように草が生えている土地になってきています。


「草木が生えているところからはエアロムは現れないらしいからの。駐屯するならここらへんじゃな。しかし冒険者というのはすごいのじゃな。加速した我らについてきおったぞ」

さすがに魔法使い陣は息切れしているようですが、女性戦士とヴァルター様はぴんぴんしておりますわ。すごい体力です。


オークたちがテントを設置したり、焚き火を作ったりと野営の準備を始めています。わたくしたちも王の神輿からおります。


「フリーダ、エルノ、少しの間ここで待っててね」

クァルも降りてきました。

「クァルも二人をよろしくね。絶対に戻ってくるから!」


「わかってるって。通れないんだから仕方ないよ。おいらがフリーダを守るから安心してシアは故郷に帰ってくれ。けど本当に待ってるからな! おいらも連れて行ってくれよ」

「あたしも、待ってる。シア、戻れる、それでいい、けど、あたしも、シア、故郷、見てみたい」

「ええ、約束したものね。ちゃんと準備して迎えに来るからね」


「シア様、彼らはわたくし、テグモスが貴女にかけた名誉にかけてお守りさせていただきますゆえ、ご安心して祖国へお戻りください」

「ワシへの気遣いはないのか? テグモスよ?」

ミルト王がにやにやしながらテグモスさんにいじわるをしています。


「ミルト王よ。軍勢はテグモスとこのゾーグにお任せあれ。朗報をお待ちしております」

先程まで冒険者の方と話をされていたゾーグさんがいつの間にかこちらに来ていました。

「おう、お主らがいるからワシも安心して任せられるわ。吉報を待っておれい」

ゾーグさんが冒険者たちの方へわたくしたちを誘導しています。


いろいろとありましたが、無事戻ってくることが出来たようですわ。元通りということはないでしょうし、なりたくもありませんが、今後どうなってしまうのでしょうか。想像もつきませんからなるようにしかなりませんね。ともかくフリーダとエルノ、クァルと一緒に暮らせるよう頑張りましょう。……もし帝国内でそれが許されないなら、あの森へ戻る覚悟で。

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