死の荒野
外から大声が聞こえてきて目が覚めました。警戒の魔法は発動しませんでしたし、暖かくて柔らかいベットで三人でぬくぬくと寝ましたのでぐっすりでしたわ。
外の声をよく聞くともう出発の準備をしているようですね。ベットに座って大あくびをしたときにちょうど警戒の魔法が発動しました。
そしてノックがありました。
「はーい、今開けますー」
そのわたくしの声でフリーダとエルノも目を覚ましてしまったようです。
「おはようございます、遅くなりましたが朝食でございます」
また昨日と同じだと思われるオーク数人がご飯を運んできてくれました。その後ろにはとても大きくて奇抜な髪型をしたオークがいます。
「昨日はよく眠れたかな? もうすぐ出発するので食事を取ったら出てきて欲しい」
あー、この方オークヒーローのゾーグさんですか。鎧をつけていなかったので分かりませんでしたけど、声が同じですわ。
「はい、お部屋ありがとうございました。おかげさまで久々にゆっくり眠れました」
「そうか、それはよかった」
この方オークの中ではすごくお偉いさんのはずですのに、とてもまめに接してくれますわ。さすがヒーローですわね。
食べ物が並べられてオークたちが帰っていくと、クァルも目が覚めたみたいです。
では皆でありがたくお食事をいただきましょう。
昨日の夕食とあまり変わりがないぐらい豪勢に見えますわ。実家での朝食より豪華かも。このお肉にかかった甘酸っぱいソースなんか格別ですわね。これ帝国のパーティーで出しても喜ばれるのでは? と思えるほどです。先日同様フリーダもにこにこして食べていますわ。わたくしはまだ比べるものがありましたけどフリーダにとっては初めてレベルの贅沢でおいしい食事ですものね。
オークと食べ物の感性は同じで本当に良かったですわ。生肉も食べられるとか言ってましたから、コボルドと人間の双方の感性を持ってる感じでしょうか。一緒にいたらそのうち生肉が出てきてしまうのかもしれませんね。
皆で余すことなく食べてから、出発の準備をして外に出ます。外ではテグモスさんが待っていました。
テグモスさんにまず王へご挨拶を、と促されましたのでミルト王にお会いして初手謝罪ですわ。
「せ、先日は、失礼いたしました……、申し訳ありません」
「ん? なんのことやら?」
顎に手をやってミルト王が首を傾げます。
「え? えと、先日お会いした際……」
「よいよい。気にしないでおくれ。それよりも本日の道案内お願いしますよ?」
え? 道案内? 聞いていませんわ。
「道案内、ですか?」
「ええ、壁の門がどのへんにあるのかご存知なのでしょう?」
ああ、それなら案内できそうですわ。地点把握の魔法で森に入った地点が分かりますし、そこをまっすぐ北に進んでいけばいいはずです。
「分かりましたわ。まず森の中で進んだほうがよろしいですよね。こっちの方向ですわ」
今の地点はかなり東によってしまっているようです。西に進んでいきましょう。
ミルト王の神輿を中心としてわたくし達はその前を、テグモスさんと一緒に歩きます。エルノも歩きですが、フリーダにはクァルの背にのって移動してもらいます。万一なにかに襲われた際はわたくしがフリーダを拾ってクァルを自由にするつもりです。ミルト王の前には鎧を着たゾーグさんが、重そうな鎧をつけたオークたちとともに歩いています。両翼には前衛と同じレベルの鎧を着て短めの槍をもったオーク、後方には軽装で森では不自由そうな長い槍をもったオークと、弓を持ったオーク、それとローブを羽織ったオークたちがついてきます。
すごく、軍隊っぽい集団ですが、案内してもいきなり襲わない、ですよね。そんな気はないとミルト王はおっしゃっていましたので信用しますよ。
森の中をしばらく歩いて、地点把握で記録した場所へつきました。
「ここから荒野をまっすぐ北ですわ」
「そうか、では少し早いが昼の休憩としよう、昼は荒野を突っ切るぞ」
開けた場所のないところですので、各々で休憩に入りました。
わたくしたちはミルト王やゾーグさんと一緒の食事を摂ることになりました。エルノとクァルは昼は食べないとのことで離れた場所にいますが。
木々をはさんでの狭い場所での休憩ですのに、またまた豪華な食事が運ばれてきましたわ。オークの軍はどうなっているのでしょうか? 学園で学んだ際は、戦場では貴族も粗食に耐えねばならないと聞いておりましたのに。もし人間に真似のできることで実現しているのならぜひとも真似させていただきたいですわね。
食事を終えていよいよ荒野へ進みます。以前通ったときは何も分からず装甲馬車で通っただけですので、なんの感慨もありませんが、この向こうに我が祖国があり、もしかすると帰れるかもしれないと考えると胸が踊りますわ。
……そんな甘い考えはすぐに打ち砕かれましたわ。進み始めてすぐに報告が入りました。
「前方よりテリジノン接近、迎撃します」
すぐにミルト王やわたくしたちの周りを重い鎧を着込んだオークたちが円状に囲みます。その外側にそれ以外のオークたちが前に殺到します。わたくしも念の為、クァルからフリーダを下ろします。自由になったクァルはわたくし達の頭上を飛んで回ります。
テリジノンのおたけびがここまで聞こえてきます。同時にオークの苦しみの声も。前の方ではとんでもない戦闘が行われているようです。
「北東に新手、バージャストラです」
うわわ、大丈夫なんですの、これ?
テグモスさんがわたくしに声をかけました。
「シア様、フリーダ殿とともに王の神輿へ。エルノ殿は私にお任せください」
そういってわたくしを担ぎ上げてミルト王の神輿にのせられます。玉座に余白部分があるのでミルト王とくっつかなければ乗れないということはないのでいいのですが、担いでいる方々大丈夫でしょうか? 続いてフリーダも神輿に乗ってきました。
「不安定じゃろうからワシの後ろで椅子に捕まるといい」
ミルト王も玉座から手を伸ばしてくれました。小さな皺くちゃなお爺さんの手を借りて大丈夫かしら、と一瞬思いましたが、手を掴んで玉座の後ろに回ります。意外と力強かったですわ。さすがは王、なのでしょうか。フリーダも無事わたくしと一緒に後ろに来ました。
視点が高くなったので戦況が見えますわ。
テノジリンの攻撃に耐えている重装オークの壁の後ろから弓で攻撃しているようです。そんな中斜め後ろから大きなカニみたいなバージャストラが見た目に似合わない速い速度でこちらに迫ってきています。重装オークもバージャストラの突撃に耐えるため、その方向の層を厚くしています。
しかしバージャストラはオークに襲いかからず、オークと戦っているテリジノンに後ろから襲いかかりました。あれ? 味方なの? と思ったらその攻撃で倒したテリジノンにのしかかって、今度はオークに襲いかかってきました。なんなの? これ。めちゃくちゃじゃない!
バージャストラには長槍が牽制している間に魔法でバージャストラの体力を削っていっているみたいね。人間の使う派手な魔法は使ってないみたい。
「南西、エアロムに襲撃されています!」
え? 後ろ? 振り返ってみると、すぐ後ろのローブを来たオークが地面から出てきつつある大きな貝殻の中から生えてきている管から槍みたいな針?で足を刺されていました。そのオークが倒れ、貝殻から出てくるスライムみたいなのに覆い被さられようとしています。
「火槍!」
とっさに魔法を使って、そのスライムみたいなのに攻撃します。貝殻、エアロムですか、やつはどこから攻撃されたのか理解できていないようで、オークに襲いかかるのをやめて、貝殻にひっこんでいきました。
前に加勢に行こうとしていたオークヒーローのゾーグさんが素早く戻ってきて、貝殻に前に持っていた大剣を叩きつけて割りました。その一撃でも死ななかったようで、さらに貝殻が地面に潜り始めました。
「火槍!」
もう一度魔法をゾーグさんが割った貝殻の穴に打ち込みます。それで貝殻、エアロムの動きは止まりました。
「ふー、話は聞いていましたが、とんでもないところですわね。まだ入ってしばらくも経っておりませんのに」




