別視点 マリー・フリッチェ
「冒険者の面会だと?」
南国境砦砦長スヴェン様がいらだたしげに答えました。
「……まったく冒険者が何用だというのだ。荒地の化け物共を倒してくれるとでもいうのか?」
私はなぜか最近スヴェン様に気に入れられてしまったみたいで秘書みたいなことをやらされています。私が女性だから、というわけでもなく正規の秘書である部下を信用していないのか逆に重用しているのか、彼はいつも遠くへ使いに出されています。
「もしかするとそうかもしれません。来た冒険者はあの高名なプラウトアルターの皆様ですので」
事実を伝えただけですが、気難しい上司に一杯食わせた感があってすごい満足感が得られました。この上司にやり返せる機会は少ないですもの。
「な、なに? プラウトアルター、だと?! それを先に言え! あの方々の中には……」
私に向けて首をくいっとして、自室からスヴェン様は出ていかれました。慌てて私も追いかけます。
プラウトアルターが待っている応接室の前でようやく追いついて、上司のために扉を開けます。
「お待たせしました。プラウトアルターの皆様。私がこの砦を預かるスヴェン・カークです」
先程の苛立ちはどこへやらといったにこやかな表情で冒険者達へ挨拶しています。常にこうであってくれたら私達もやりやすいのですが、と思いつつ、私も頭を下げます。
「砦長付二等魔法武官マリー・フリッチェです」
砦長付などという役職はなかったはずなのですが、いつの間にか私にはそんなものがついていました。給料が上がったわけでもないけど、砦での扱いが良くなったのと、砦長のおこぼれを優先していただけるようになったのは嬉しいことではあります。砦での日々も警戒や訓練ばかりでなくなったのも飽きなくていいですし。
私も初めて高名なプラウトアルターの方々を見ましたが、非常に変わった冒険者パーティーですね。構成メンバーの年代がばらばらです。普通の冒険者パーティーは同世代で編成されていることがとても多いのですが。そのほうが揉め事が起きにくいせいだと思います。
プラウトアルターの全員が座っていましたけど、皆立ち上がり、こちらに頭を下げました。冒険者としては非常に礼儀正しい行為です。
「わざわざどうも。儂がプラウトアルターをまとめているアッケンベルテです」
珍しいお婆さん魔法使いの方が彼らのリーダーのようです。お爺さん魔法使いの冒険者は結構見かけますが、お婆さん魔法使いの冒険者はあまり見かけません。実際実家の魔法店の店主は魔法使いである私のお婆さんですし、若い頃に引退して店を立ち上げるパターンが多いと聞きます。生き残れたのなら。
「本日はこんな辺境に何用で?」
「南の調査を頼まれましてね。こちらが許可証となります」
そういってくるまった羊皮紙を差し出してきたので私が受け取ります。ちらっとスヴェン様の顔を見ます。スヴェン様はこちらを見て顎をしゃくりました。私に読め、そしておかしいところがないか確かめろということですね。ちゃんと言葉で説明してくれたらましな上司に入るんですが、スヴェン様はしてくれませんね。まあここは人前ですから仕方ない面もありますが、普段からそうですからね。
羊皮紙を広げて書いてある内容を読んでみます。……確かに六名の南への外出許可が出ていますね。指定は人数だけで個別指定はないようですが、まあ問題はなさそうです。ここにいるのは五名ですのでちょっと数が気になりますが発行は軍務大臣ですか。六名外出許可、発行軍務大臣、とだけスヴェン様に小声で伝えます。
スヴェン様は何故か笑顔になりました。これに笑顔になるような情報があるのかしら?
「それと我らの、砦での自由行動をお許し願えないでしょうか?」
先程のリーダーが追加で言ってきました。
「分かりました。一部屋お貸しします、しかしさすがに完全自由には出来ません。一応ここは軍事基地でもありますからな。一人つけますのでその者と同行するなら自由にして良い、ということにしましょう」
スヴェン様がこちらをちらと向いて、小声で命令してきます。
「私の世話はしばらくよい。彼らについて便宜を図ってやってくれ」
「べ、便宜でありますか? 監視ではなく?」
「二度は言わん、いいな」
「はっ」
「報告はくれよ」
最後だけはプラウトアルターの面々にも聞こえるような声で言いました。我が上司ながら相変わらず何を考えているのか分かりませんが、私達にとって悪くなるようなことにはならないので信用はしています。
「いくつか貴官に聞きたいことがあるのだがいいかな? なお質問内容は先程の書類と同様の許可をいただいていて、帰還後報告する必要があります」
「はっ、なんなりと」
うわ、これってプラウトアルターさん達が視察隊みたいなものじゃないですか。いいんでしょうか? まあスヴェン様が納得しているのであれば……。
「まずここに来るまでに砦の様子を見させていただいたが、兵士の数が少なすぎやしないか?」
聞いてきたのはリーダーではなくまだ若い戦士の方でした。
「はい、いいえ、残念ながらこの人員数が今の正規の人員です、充足率は80%を切っていますので、確かに少なくはありますが」
「国境の守りのここが充足率80%切り? どうなってんだ?」
「ごもっともであります。私も再三本国に要求しているのですが、ないものはない、との返答ばかりでして」
「俺は今分かっている南の様子を聞きたいんだが」
結構お年を召してる感じの軽戦士の方が疲れたような声で聞いてきました。
「はい、現状腕利きのレンジャーが足りておりませんので頻繁な偵察はできていないのですが、南の荒地は今まで通り、最新の偵察では森の中でオークらしき影を見かけた、との報告がありました」
「オーク? 南にもオークがいるのか?」
こちらはまだ壮健な男性の魔法使い。
「はい、私も不思議に思い過去の文献などを調べさせたところ、この砦が建設された直後あたりの記録に、南の荒地の向こうの森の奥でオークの部族が互いに争い合っている、というものありました。その報告も伝え聞きみたいな感じでしたが」
「ほう、南のオークは部族を維持しているのか。北のオークも以前は部族を形成していたらしいが、だいたいが国に潰されたようだしな」
「過去の記録なので今もあるのかはわかりません。が今までになかった報告でしたので」
「そうかい、参考になったよ、ありがとさん」
砦長に対してすごく無礼な気がしますが、砦長自身がそれを許しているようなので私には何も言えません。そんなにこのプラウトアルターって方々はすごいのかしら。
「ではこの部屋を皆様にお貸ししますのでご自由にどうぞ」
「ここは応接室ではないのか? いいのかい?」
女性の戦士がもっともらしい質問を返してきました。これは私にでも答えられます。
「はい、応接室も一つではありませんし、そもそもここを訪ねてくる方は少ないので、まずかぶることはありませんので。何かありましたら呼び鈴をどうぞ。出入り口の前に対応のための兵士を配置することはお許しください」
「ああ、当然だな、よろしく頼む。我らはしばらくしたら南へ出発させていただくよ」
砦長と一緒に辞してから、見張りや私の代わりとなる兵士を手配して、応接室に戻りました。
「失礼します、あら、お一人?」
「ああ、嬢ちゃんか。お一人だよ、俺は基本シティアドベンチャー担当だからな。まあしばらく世話になる、レレットステウだ。よろしくな」
「他の皆さんは?」
「ん? もう出発したよ、南に」
「しかし許可されたのは六人でしたのでは?」
「六人まで、だろ。なら四人でも構わねぇんじゃないか? あんなところじゃ俺じゃ足手まといになりかねんしな」
割り切っていらっしゃるようです。
「なにか必要なものはあるでしょうか?」
「んー、よければお茶とか出してくれねぇかな? あとこれはまじで出来たらでいいんだがボードゲームとそれの相手してくれる人、用意してくれねぇか? 俺は留守番だからよ、自由に動けねぇし暇で仕方ないんだよ」
「分かりましたわ、さっそく手配させていただきますね」
「お、いいねぇ、融通の聞く人は好きだぜ」
今訓練に割り振られてる兵士を二人引き抜いてきましょう。二人には感謝されると思いますし。砦長も便宜を図れとおっしゃっていましたし、ボードゲームは娯楽室のものを持っていけばいいでしょう。




