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美醜

その日の早朝は、まだわたくしたちは寝ていました。

寝ていると突然全方位で警戒の魔法が発動しました。これまでも発動したことはありますが、全方位というのは、魔法構築を失敗したのかしら、と思うほどでした。


しかし警戒の魔法は残念ながら二重目の、集落の中に何者かが入ったという警告を発しました。全周囲でないのは入り口がその侵入者の方位にしかないからでしょう。逆に言えば柵を乗り越えてくるものはいないということと、これらの警告が魔法構築のミスでなく、実際に何かが近づいているのだ、ということです。


今回のはただ偶然何かが近づいてきただけではないのだと、この段階でようやくわたくしは体を起こし、皆を起こしました。

「みんな、起きて。とりあえずエルノは武器を持って。フリーダは奥に隠れられる? クァルはフリーダを守って」」

わたくしはいつもの制服に着替えて伸縮自在槍と魔法発動体の短剣を持ちます。この間に最後の、三重目の警戒の魔法が発動しています。確実に近づいています。


扉がノックされました。

ノック? ということは動物ではないということかしら。しかし警戒の魔法の感触ではこちらを包囲している感じなんですけど、ノックですか? 敵意はあまりないのかしら?

などと考えましたが、ノックを無視して突入されるのもいやですので、扉を開けます。


そこにいたのはすでに兜の面頬を上げたオーク、テグモスさんでした。

「申し訳ありません。驚かせてしまったようで……」

帯刀はしていますが、敵意はないと見せるために両手を上げて見せていました。こちらも見知った相手ですし、短剣の柄にかけていた手を外し、対応します。


「どうされたのですか? こんなに朝早くに」

大勢で、と言いかけて、あえて言わないことにしました。


「はい、申し訳ないかと思いましたが、保護を優先させていただきました」

「保護?」

「はい、端的に申しますと、今貴女は我らオークの王に狙われております。私は名誉のため、それにお世話になった貴女のためと思い、保護したいと思った次第です。ですが、彼女はいったい?」


テグモスさんの視線はフリーダにいっています。そういえば前回はフリーダの存在は見せていなかったっけ。

「彼女はフリーダ。人間に似たコボルドですわ」


テグモスさんは驚きのあまり目を見開いている。

「人間に似た、コボルド、ですか。ぱっと見は確かにシア様と同じ種族に見えますが、耳が違いますね、おっしゃるとおりコボルドによくある耳です」

「そうですわね、先祖返りというかそういう特殊な生まれのようです」

「特殊な生まれ……、危ういですね。もしかするとシア様以上に危険かも……」


「え? わたくしだけでなくフリーダも危険?! しかも貴方がたオークの王に?! なぜ?」

「それは、私にも分かりません。しかし王は貴女を確保するため、自ら出陣したとの情報もありましてこちらに迫っているようです。それはシア様に似た、フリーダさんにも及ぶかもしれません」

「それって、どういうことですの?! テグモスさんはなにかご存知なので……」

テグモスさんにわけを聞こうとしたらロットさん、でしたっけ? そのオークの方が扉を開けて報告してきました。


「テグモス様、王の前衛がこちらに到着してしまったようです」

「く、遅かったか。ここで防衛するしかないか。ロットは前衛と交渉を。シア様方はどうかこのままこちらで。我らがなんとかいたしますので」

「え? よろしいのでしょうか」

頭をフル回転させているつもりなのですが、状況が飲み込めません。せめて朝食後であればもっと頭は回ったかしら?とか余計なことを考えてしまいます。


遠くで何やら言い合いをしている音は聞こえてきます。幸い争いにはならなかったようで、しばらくするとロットさんも戻ってきました。


「とりあえず追い返しました。しかし王自らが来られたらとても追い返すことはできませんし、戦うのも……」

「わかっている。まさか王自らがここまで早く動くとは予想外であった」

なんかテグモスさんたちだけで盛り上がっているみたいで、わたくしたちはないがしろにされている感じがしますわ。なんなのでしょう、この違和感は。最近感じた違和感のような気も。エルノも心配そうにわたくしを見ていますわ。


「あの……、その王様がわたくしに会いたいというのでしたら、わたくし会いますわよ」

「え? いや、それは……。王がなぜ貴女を狙っているのか分かりませんし、危険です。ここはどうか、我らにお任せを……」

などと言ってくれますが、わたくしとしては訳のわからないまま、オーク同士を争わせるのは嫌ですわ。


「まあとりあえず今すぐ危機、というわけではないのですね? では食事にしましょう。テグモスさんはもう朝食はお食べになったのですか? 肉で良ければお出ししますが」

実際にオークが何が食べれるのか知っているのは亀肉だけだし、亀肉を出しておけば問題はないはずです。


「強行軍できましたので何も食べておりませんから、食べたいのですが、あの、その……」

なにか歯切れが悪い。?! もしかしてわたくしまたやってしまいましたか?! 言葉が通じるからついオークがわたくし人間ともエルノたちコボルドとも違う異種族である、ということを失念しておりましたわ。明らかにオークにも文化があるようですから、もしかするとそれにひっかかったのかも……。


「あの……、朝食にお誘いするのはオーク的にダメなことでしたか? わたくし人間ですのでオークの文化までは……」

オークの顔でも悩みから開放された!と分かるほどテグモスさんの表情が変化しましたわ。やっぱり知らずに傷つけていたのかしら。


「合点しました。人間の常識では女性が男性を食事に誘うのに、なんの問題もないことなのですね。我らオークでは宴会など多数での食事でもないのに誘うのはプロポーズとほぼ同義でして……。シア様が私にプロポーズしてるのかと……ははは!」


ああ……そういうことでしたの。けど、テグモスさんの様子は赤くなってるというより青くなっていますわ。まだ、なにかすれ違っている気がしますわね。

「まだなにか違和感がありますわ。これから王とお会いするかもしれませんので、オークの常識ももっと知っておきたいですわ。わたくし、何を言われてもいいように覚悟しますので、どうか教えていただけませんか?」


「そう、ですね。我らオークにとって、強さは何にも変えられぬ資質であり、無条件で尊敬されます。それは肉体的な強さに限らず、知略や統率力も含まれます。ですのでシア様は尊敬に値する女性です、……が」

ここで、が、ですか。悪い要素がわたくしにはあるようですね、予想していましたが。


「シア様、コボルド殿と話がしたいのですが、通訳お願いできますか?

え? エルノと? 

「ええ、構いませんことよ」


「ありがとうございます。その、コボルドのエルノ、殿でしたか? エルノ殿から見て、シア様はどう見えますか? 美しいですか?」

わたくしにとって通訳は簡単ですわ。なにせ言われたことをオウム返しで言うだけでいいのですからね。


「ん、頭の体毛は綺麗だと思うぞ」

「全体的には?」

「んー? 言わないといけないか?」


エルノの様子を見ると、尻尾が垂れ下がってまたに丸め込めそうな感じですし、マイナスなことのようだわ。

「エルノ、怒ったり悲しんだりしないから、言って頂戴」


「シアがそう言うなら……。おいらたちはフリーダで慣れてたけど、おいらからは化け物に見える、あんたたちオークも、ゴブリンもね。あ、でもシアは、フリーダも優しいって知ってるから今は化け物には見えてなくて、こんなものか、って感じだけど、頭撫でられるのは気持ちいいしな。その……ごめん」


「謝ることないわ。よく考えてみれば人間みたいな生き物って魔物で多少いるだけだし、魔物は化け物、怪物であることも多いしね。それにわたくしから見たらエルノたちコボルドは犬という近い見た目の生き物と一緒に暮らしたりしているから違和感はないですが、オークやゴブリンはいませんから化け物、というか怪物に見えますわ。そういうことなのですね、テグモスさん?」


「はい、シア様の強さは分かっておりますが、その、我らの感覚で言えば、へたに我らに似ている分、大変醜い、強さも相まって怪物に見えます。シア様に比べるとフリーダ殿はまだコボルドの耳のおかげか、まだ受け入れられるようなのです」


「オークやコボルドの基準ではわたくしはたいへん醜いのですね?」

正直ショックではあります。わたくしは人間の中では上位だったようで、よく外見を褒められることが多かったですから、目以外。むしろ外見を褒めてくる人は中身には興味ないのですね、と思っていましたけど、やはり全く異なる基準とはいえ醜いと言われてるのはこたえますわね。


「正直おいらには人間もオークも化け物だよ。特にオークは体も大きいし力もすごいしさ。おいらたちコボルドでそんな力持ちはいなかったもの。だから殴られたら怖いな、と思う。そういう意味ではまだゴブリンのほうがましだね、見た目は。あいつらの力はおいらたちとそう変わらなかったし、大きさはおいらたちのほうが大きかったりしたしね」


「我らの基準で詳しく言いますと、目はまだいいのです。大きく丸い目は嫌われます。少々まつげが長過ぎるぐらいですか。しかし鼻が、高すぎて小さい。口も小さすぎて牙すら見えない。あまり牙が長いものアレですが、ないのはちょっと」

おお、やはりだいぶと違うのですね。特に鼻がだめというか真逆のようですね、価値観が。口にいたっては牙がチャームポイントになっているのは人間にはどうしようもないところですし。


この間にもフリーダはせっせとお料理をしてくれていました。簡単な亀肉の串焼きです。わたくしやフリーダの分には野菜も刺さっていますわ。エルノとクァルには生肉なのですぐに食べ終えそうです。オークの方はどうなのか聞いてみたところ、生も好きだけど焼くのも好きだとのことでしたので、焼いてから渡しました。テグモスさんのものには万が一野菜がオークにとっては毒だと危ないので肉だけの串を二本です。

「うむむ、やはり亀の肉はいつ食べてもうまい!」


わたくしたちも朝食を食べます。正直朝からお肉は少々重いですが、時間がないかもですから。そしてその判断は間違っていませんでしたわ。

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