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別視点 プラウトアルター02

帝都にある老舗飲み屋、踊るワーウルフ亭にある個室で五人の年がばらばらの男女が再び飲んでいた。


「ありゃあ、ダメだ。聖約がなければすぐにでも蹴落としてやりてぇ」


「残念じゃがヴァルターに同意じゃ。謁見中に魔法は使えんから見ただけじゃが、特に魔法にかかっているわけでも魅了を受けているわけでもないように見えたの」

「アッケンベルテ、あんたの年の功は信用できる。あれは素の親父だと思うぜ。……まったく自分が予備だったからとコンプレックスをこじらせているように見えた」


「どういうことだ?」

今まで一切発言してこなかった三十代の男性魔法使いクレイタが低い声でヴァルターに尋ねる。

「別に隠してることじゃないはずだけどな。現皇帝ギュンター二世は次男ってことさ。そんときの第一皇子は試練中に死んだんだとさ」


「ずいぶんと厳しい伝統なのじゃな。大国としては珍しい」

「俺みたいに、冒険者なんかやったら矯正されるしな。最近出来た聖約らしいんだがな。けどおかげで最近の帝国では暴君や愚帝の割合は他国に比べても極端に少なかったはずだ。しかし親父は予備だったからな、ずっと皇族としてぬくぬくとしてて、世間が見えてないんだろうよ。まあ俺もこうやって試練に出るまではそうだった気がするし、ハインツのやつもそんな感じみたいだしな」


「親を、そこまでいうことはないんじゃないか」

クレイタは厳しい表情でヴァルターをたしなめた。

「俺だって言いたかないさ。それに親父がただの一平民なら俺もここまで言わねぇ。しかし親父は皇帝だからな。言動一つで何人もの帝国民が苦しむことだってあるんだ。その自覚があるように見えねぇ」


「皇族なんてそんなもんじゃないのか?」

飲み屋の中でも大きな斧をかついでいる大柄な女戦士イプゾーシンがへらっという。

「ヴァルターだってそうだったじゃん」


「そうだったから、わかっちまうんだよ。最初の頃の俺がそのまま皇帝なんかになっちまったらどうなると思う?」

「あー、そりゃー、その帝国は終わりだな」

「だろ、……なんかむかつくけどまあいいや。だから試練を受けていない親父はその割には今まではよくやってたと思うんだ。けどここ最近はどうだ?」

「そう言われてみりゃ、あからさまにおかしいな」


マグカップに入った酒を一気にあおったあとヴァルターは静かにつぶやいた。

「だからなんか良からぬやつに魔法をかけられたなり魅了なりされてしまったのかと思ったんだが、アッケンベルテの言う通り、そんな感じじゃなかった。あれは功名心に煽られているというか、ただ人に褒めてもらいたいだけの駄々っ子だ」


部屋が静まり返っている時、不意にノックが響いて、プラウトアルターの面々全員がビビったところに、帝都の冒険者ギルド、ギルドマスターの男が入ってきた。


「なんてぇ顔してやがる。指名の依頼だぜ。話を聞いちゃくれないか?」

「儂らは冒険者じゃからな、頼まれたなら話ぐらいは聞くさ、しかしそんな使いっぱしりをあんた自らするってどういうことだい?」

「ほんと、いつまでたってもあんたらは普通の冒険者のつもりなんだな。もうあんたら高名すぎて普段はちょっとした依頼なんか頼めねぇっての。今回のはそういうことだ。察してくれ。依頼者入れていいか?」


「ん、こちらまで来ているのか?」

「出向いてもらうのも不都合なんだと。ここはあんたらの隠れ家的なところだが、いいだろ?」


「それが分かっていながら、あんた自らが連れてきたんだ。わかった、話を聞こうじゃないか」

プラウトアルターのリーダーであり老魔法使いであるアッケンベルテが代表して決めた。もちろん誰からも反対意見は出ない。皆彼女がこのような判断を間違うはずがないと思っているからだ。


ギルドマスターが連れてきた者はローブと仮面であからさまに姿を隠していた。

「あなた方がご高名なプラウトアルターですか」

その声から考えると三十から四十代の男性といったところか。


「そうだ、で、何を頼みたいんだい、見ての通り今は宴会中なんだがな」

「これは失礼しました、が急ぎお願いしたいのです」

そういって男はフードと仮面を取った。


「あんた、宰相のコルネリアス・ノイラートじゃないか?」

まさか顔を出しただけで素性を知られるとは思っていなかったのか、男はうろたえて、自分の名前を呼んだ戦士を見た。


「え? 貴方は……、まさかヴァルター殿下?!」

「なんだ、コルネリアス、お前プラウトアルターに俺が参加してるって知らずに来たのかよ」


「え、ええ、知りませんでした。ただたいへん有能な冒険者パーティーだとしか。あとヴァルター殿下、私は今は宰相ではありません」

「俺も今は殿下じゃねぇぜ、コルネリアス」


「そ、そうですね、ヴァルター、様」

「おだまり、ヴァルター。依頼者に失礼だよ。話を聞けないじゃないか」

アッケンベルテに叱られてヴァルターがおとなしくなる。


「で、依頼はなんだい?」

「正直に申しまして、このパーティーにヴァルター様がおられるとなると、大変言いにくいことでして」

「舐めるなよコルネリアス、俺は今は一介の冒険者に過ぎない。堂々としてりゃーいいじゃねぇか」

「そういう問題じゃないんですが……」


「コルネリアスさん、あんたギルドマスターまで使ってここに来たんだ。頼んでおかないと後悔することになるよ。私らになぜ頼まなかったのかってね、脅しでもなんでもなくね」


しばらく黙って考えた後、覚悟を決めた顔つきでコルネリアスは話しだした。

「そうですね。分かりました。皆様にお願いしたいことは、南へ行ってほしいのです。南の国境砦で反乱が予想されております」


「ん? それって普通、軍の仕事じゃないのか? 俺達でいいのか?」

裏の世界を知るレレットステウが聞いた。もっともな話だ。


「はい、下手に軍を動かすと呼応されそうですし、正直軍を動かす予算も人員もありません。今回の依頼も私個人の依頼ですので私の財布から皆様への報酬をお支払いします」

「嘘だろ……、たった数年でそんなに弱体化してんのか……」


「はい、残念ながら。しかもアウムレッチやケトロイダが不穏な動きをしておりますので、とても手が回っておりません……」

「あんたは把握してたのか。あんたが把握しててもこの体たらく、なのは……」

「今は陛下ご自身が軍縮に努めていらっしゃいますので。諌めた私も軍務大臣という今となっては閑職に追いやられました。まあこれは別の理由もあるのでしょうが」

「軍務が閑職って……、親父の奴、まじで何考えてやがんだ」


「まあ待てヴァルター、言いたいことがあるのはわかるが、まずは依頼だ。南の国境砦の調査、でいいのかな?」

「表向きは高名な皆様による南の魔物の地の調査でお願いします。その際に国境砦の様子を伺い、もし予兆あり、でしたら……」

「でしたら……?」


「短慮を起こさぬよう、説得してくれませんか。南の国境砦を預けてある、スヴェンは有能の士のはずです。あなた方が説得なされるなら話も聞き入れましょう」

「それはいいが、一時的なものじゃぞ? 抑えられるのは」

「分かっております。今は時間が惜しいのです。あと一年、一年持ちこたえれば……。私も粉骨砕身で事に当たるつもりです」


アッケンベルテの目にもコルネリアスの覚悟は本物に見えたので、依頼を受けることにした。

「ありがとうございます。あの、もし、万一、南の……、いえ、なんでもありません。報酬の半額は今お持ちしてきております。残りの半額は戻られた際に情報と交換でお願いします」


「ひゅー、前金で半額は助かるねぇ」

レレットステウが笑顔で前金を受け取る。前金だけで普段彼らが受け取る全額はありそうだ。


「急いだほうが良いのだよな?」

「はい、それほど猶予はないかもしれません」

「そうか、ならば早馬でも借りるとするか」


「ありがとうございます。すでに手配はしておりますので、こちらを渡すだけで良い馬を回してもらえるかと思います」

「さすがコルネリアス、準備がいいな、使わせてもらうよ」

ヴァルターがコルネリアスから割符を受け取った。


「しっかり南の様子もちゃんと見てくるぜ、間に合えば悪いようにはしないさ。そのための準備は進めておいてくれよ」

ヴァルターは受け取る際にこそっと小さな声でコルネリアスにささやく。コルネリアスは再び仮面を付けたため表情は見えない。


「ではプラウトアルターの皆様、どうかよろしくお願いしました」

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