雨の日
川に行った日はきのこや山菜、川魚などをたくさん持ち帰ることが出来ました。帰りには何も出会いませんでしたし、聖域もちゃんと働いていたのか集落に何の変化もありませんでした。
一時はどうなるかと思いましたが、わたくし、順調に生き延びていますわ! ざまぁみろですわ。
ですけど会えずに別れてきた家族が恋しいです。友人……は聖女に全部取られてしまいましたね。まあ最初はわたくしもコロリといってしまっていたので仕方ありませんわ。
あと恋しいのは柔らかいベッドですわ。大量の布がありましたのでそれを敷いて今は寝ていますが、ふわふわとまではいきませんわ。最初のごつごつとした地面に寝るよりは随分マシになりましたけど。
食事に関してはフリーダとエルノのおかげで不満はありません。わたくしが飢えていないのは二人がいたからこそですわ。感謝してもしきれませんわね。
それにしても、一日ってこんなに短かったのですね。やることやらなければいけないことがたくさんあって困りますわ。
子どもの頃にも短いなと思った気がするのですが、ハインツ殿下の許嫁になるまでは。なってからはずっと長く感じていましたわ。ほんと、よく考えればハインツ殿下に関わってからろくな目にあっていませんわ。何故あのような方をお慕いしていたのでしょうか。今となってはもうその頃の自分自身の心を思い出せません。今はもう殿下の端正な顔をビンタ、いえ往復ビンタしなければ気が済みませんわ。そのためにはなんとかしてあの南の国境の壁を乗り越えなくては、そのためにまず生き延びなくては。
「シア様、お顔、怖い」
肉の下ごしらえをしてくれていたフリーダに指摘されました。また仕返しのことを考えてそれが顔に出ていたようです。わたくし目が悪いせいか、少し考え事するとすぐに怒った顔のように見えてしまうようです。このくせが学園でも悪いように働いてしまった気がしますわ。
「そ、そおかしら? あ、お肉これで焼けたかしら?」
今、わたくしはフリーダの指導の元、料理を教えてもらっています。……まだ料理ってレベルじゃなくて焼き加減を見る練習ですけど。
「まだ、です。もう少し、火、近くてもいい」
フリーダは川に行ってから少しだけ言葉遣いが分かってきたようで、考えなくてもわかるようにしゃべってくれるようになりました。もう少しよくなったら、わたくし達の言葉そのものを教えることにしましょう。たぶんそっちのほうがフリーダには話しやすいはずですから。
エルノは狩りに行ってくれています。大量にあった亀肉ですが、まだ長持ちしていますが、そろそろ悪くなってきてもおかしくはないので。エルノ的にはこれからもっとおいしくなっていくらしいですが。
そういえばクァルは川に行ったあと脱皮をして、すごく大きくなりました。もうわたくしの肩には乗れない程度には。その分たくさん食べるようになりましたが、エルノ同様生のお肉でも喜んで食べれるようになったようです。きっと内臓がエルノもクァルも丈夫なのですね。
クァルは大きくなって狩りもうまくなりました。今では立派にエルノの相棒として一緒に狩りに行ってくれています。
目下の悩みは服ですわ。さすがにずっと着っぱなしですのでよれてきましたわ。かと言って代わりの服なんて用意できませんし。下着ぐらいなら今ある布で作れないこともないですが、服となるとお手上げですわ。
「そういえばフリーダ。以前は道具とかどうやって手に入れてたの? みんなエルノとかが作ってたの?」
「一部は、作ってた。けど、作れないもの、布とか、交換してた、と思う」
「交換?! 誰と?」
「シアさまより、大きな、ゴブリンじゃない」
わたくしより大きくてゴブリンじゃない、そして道具や布を供給できるものがいるのね。
「たまに、見かけた。エルノなら、もっと、よく知っている、かも」
「そうなのね、帰ってきたら聞いてみるわ。もうそろそろこれはどうかしら?」
「焼けてる、こちらも、いけてる」
「出来たようですわね、それじゃいったん休憩ということでお食事にしましょう」
二人で亀肉と山菜きのこの串焼きをいただきます。
「雨、やみませんわね」
今日は強くなったり弱くなったりはするものの、ずっと雨が降っています。エルノには雨が降っている日ぐらい休んでは、と提案したのですが雨が降っている日の方が狩りはうまくいきやすいと言われましたわ。
「フリーダとかフリーダに似ているシアは寒さに弱いみたいだけど、おいらには毛皮があるからな。大丈夫だよ」
だそうです、ぐうの音も出ませんでしたわ。けど帰ってきたらすぐに洗浄をかけてあげて乾燥させてあげましょう。
今日は半日ずっと集会場の中にいましたわ。フリーダに料理のことを教わっていたらあっという間に時間が過ぎていったようです。今日は太陽が出ていないので時間がわかりにくかったというのも理由の一つかしら。子どもの頃の家庭教師による勉強と習い事の連続の日々で外に出ることも出来なかったことを思い出してしまいました。
「ただいま! 今日は大きないのししが捕れたぞ! 今まではおいらだけじゃ運べなかった相手だけどクァルのおかげで持って帰れる相手になったからな」
小雨になった夕方にエルノたちが帰ってきました。ひとまず獲物は外に置きっぱなしにしてもらってエルノたちに体を温めてもらいます。エルノとクァルに洗浄をかけ、エルノには焚き火の近くにしばらく座ってもらいます。がクァルには必要ないみたいです。
クァルの羽根は脱皮してからだいぶと変わりました。見た目はまだ蝶のような感じですが、皮膜みたいになってます。皮膜なのに鱗粉みたいなのもついています。クァルはフェアリードラゴンではないのかしら? さすがに竜に詳しいわけでないので分かりませんわ。クァル自身にも分かってないみたいですし。
今のクァルはすごい力持ちです。わたくしを持ち上げて飛ぶことが出来るぐらいには。ですから荷物持ちとしてもすごく有能になってくれました。その分食べるようにはなったのですが、わたくし達が食べない部分を喜んで食べてくれるからあまり問題になっていませんし、活躍が大きいのですから当然でもありますわ。外に放置されているイノシシなんかわたくしとエルノとフリーダが協力しても運べなさそうな大きさですし。
「雨の中放置してもいいのかしら?」
「ああ、冷やしたほうがいいしな、けど出来たらあとで洗浄してほしい」
「わかったわ、ああそういえばエルノ」
先程フリーダに聞いたことをエルノにも聞いてみます。
「ああ、そいつらはオークだな。森のずっと南、森から出た先に住んでいるらしいぞ」
なんとなく森はずっと続いていると思っていましたが、森の向こうがあるらしいですね。帝国にいるとここは魔物の地ですから地理も全然分かっていませんでしたし。
オークは聞いたことあります。北の国からたまにやってくる魔物の蛮族だった覚えがありますわ。どこから現れるかわからないので軍では対処できないから冒険者に頼んでいるというやつですわね。子どもの頃に冒険に憧れていましたからそれぐらいは知っていますわ。その蛮族が南にもいるのですね。北からやってくるオークは蛮族で凶暴だと聞いていましたが、南のオークは物資を交換してくれる程度には文明的なのかしら?
「問答無用に襲ってきたゴブリンよりはずいぶんましな奴らだぜ。欲の皮は突っ張ってたけどさ」
「そうなんですね。わたくしの知ってるオークとはずいぶん印象が違うようですわ」
「そうなんだ? 鉄で武装してたし、綺麗な布もたくさん持ってたぜ。あ、残しておいたヘイドディタスのツメなら高く交換してくれると思うぜ、魔石とかも」
「服とかは持ってないでしょうか。なさそうですわね。せめて着心地が良い布と細くて丈夫な糸、まっすぐな針が欲しいですわ。それらがあればいつかは服作れるかもですし」
そんなに簡単じゃないとは思いますが、材料も道具もなければ何も出来ません。
「次はいつぐらいにくるのかしら?」
「わからないね、いつも急に来るからさ。よしそれじゃ処理してくるよ。クァルも手伝ってくれ」
「クァ」
クァルってぜったいわたくし達の言葉理解しているわよね、頭良すぎるもの、脱皮してからは特に。
「お願いするわね、二人とも」




