解体
本日は釣りと水浴びにいくつもりでしたが、こんな大きな亀の死体を集落の真ん中に放置しておくわけにはいかないので、中止して処理に当たります。
肉が焼けた匂いにひきつけられたのか、集会場からクァルがふらふらと飛んできます。
「クァル、少し待ってね、まだクァルが食べれそうにないわ」
さすがにクァルのツメでもヘイドディタスの鱗のような皮膚は切り裂けなさそうですし。もちろん甲羅には歯が立たないでしょう。
解体はエルノに任せました。以前にこれよりはだいぶ小さいものですがしたことがあるそうですので。巨大な相手にも関わらずエルノはすいすいと見事に解体していきます。
「熱が入ったせいか簡単に切れるよ。けどそのせいで味は落ちてそうだ……」
とても残念そうにエルノはいいます。けどわたくしやフリーダ、クァルはもともと熱を加えないと食べれないので代わりはないでしょう。昔食べた亀料理はおいしかった記憶があるので、これもおいしいかしら?
臭いか、まずいかでエルノでも食べられない内臓の部位はフリーダが受け取って、ゴブリンを焼いた場所へ置いていきます。エルノはさっき食べられたサソリが入っているであろう消化器官も食べる気のようです。
「シア、本当だったらこいつら川へ洗いに行くんだけど、洗浄でなんとかならないか?」
すごい量の内蔵が空の樽に入れられていきます。胃袋とか腸とかかしら。入っているであろう中身を出さないようにしていますね。
「ええ、それだけの量あれば当分は行けそうね。洗浄して干しておけばある程度持つのかしら?」
「ああ、たぶんだけど倉庫に入れておけばそれなりに長持ちすると思う」
ゴブリンによる保存の魔法がかかっている倉庫でしたっけ。便利すぎてこの集落から離れられそうもありませんね。まあ、今は離れるつもりもありませんが。
「それじゃあとでお願いしたい。あとで中身を捨てるから、そのあとに」
「ええ、いいわよ」
「ありがとう、それじゃ手足を切り出すよ」
「あ、エルノ、ちょっと待って、フリーダもこちらにきて。汚れたでしょ?」
エルノもフリーダも血まみれです。エルノは内臓と格闘したせいか、フリーダは臭い内臓を捨てに行ったせいか、ふたりとも臭うようになってしまっています。わたくしだけこの亀の処理に何も出来ていないのだからせめてそれぐらいはしたいわ。
「洗浄をかけるから息を止めて、目を瞑ってね」
「でも、おいらはまた汚れるぜ?」
「いいのよ、また汚れたら、また洗浄してあげるから」
けっこう有無を言わさず洗浄しました。
「ね、どうせならきれいになったほうがいいでしょ?」
「そうだね。ありがとう」
熱が通ってしまった肉と通っていない肉をわけて保存していきます。熱が通ってしまった肉はわたくしとフリーダ、クァルが食べる用で、食べきれない分は干し肉や燻製にするのだそうです。エルノたちコボルドはどっちも味が落ちるから好きではないらしいけど、保存するために仕方なくやることなのだそうです。なので生肉はなるべく生のまま倉庫で保存になります。内臓も加えたらエルノの何日分になるのかしら。
火が通ってしまった肉のほうが多いのですが、想像以上にお肉が取れました。主に背中の肉と手足の肉です。生肉もそれなりに取れました。当分食料には困らなそうです。もちろん亀の肉だけ食べ続けるわけにもいかないので、まったく食料探しをしなくていい、というわけではありませんが、飢える心配はない、というのは心強いことですね。
夕方までには大亀ヘイドディタスはすっかり甲羅と切り取られた頭だけになりました。頭は甲羅から離されたあとそのまま放置していました。エルノいわく、頭は死んでも動くことがあるらしいのでしばらく置いておいたほうが良いとのことでしたので。
ある程度作業が終わったので、二人に休憩をとってもらい、その間に頭を葬炎で焼き消してしまいます。残った甲羅はどうしましょう? 大きすぎて葬炎でも焼ききれないですね。実際倒した時も体に穴が空く程度の範囲でしたし。
『範囲を思いっきり絞った爆発で一度吹き飛ばしてばらばらにしてから、それを集めて葬炎、でどうだ?』
そうねルファ、いいアイディアだわ。外からだと全然だめでしたけど、今は穴が空いているし中からならいけそうですね。このままこんな大きなナマモノをこんなところに置きっぱなしには出来ませんから、試してみましょう。
フリーダは料理で集会場に入っているし、エルノは内臓の中身の処理を焼き広場でやっているから、タイミングは今ね。
念の為建物の影にはいって爆発を使います。爆発範囲を甲羅と同じぐらいになるように絞って、甲羅の中で爆発を発動させます。
無事、大きな甲羅を砕くことができました。破片は飛んでこず、すべて範囲内にとどまっていました。うまく結界が動作したようです。
あとは瓦礫のような甲羅の破片を集めます。これに思ったより時間がかかってしまいました。途中でエルノが帰ってきたので先に処理した中身などを焼いて、エルノにも手伝ってもらい、それでも終わらないので食事の支度を終えたフリーダやクァルにすら手伝ってもらいました。
先に食事をとってあとにようやくヘイドディタスの処理は終わりました。しかし向こうから来たもののこちらの得るものは大きかったです。
エルノに手伝ってもらった時、エルノが魔石を見つけました。解体した時にどこにも見つからなかったので甲羅に埋まっていたのだろうという予想です。これだけ大きな魔石はかなり高価なもののはずですが、わたくしは利用法を知りません。ですが貴重なもののはずですのでとりあえず集会場に隠しておきます。
そういえば先程とった食事、亀でしたが、たいへん美味しゅうございました。記憶にあった亀の味とは違ってましたが、料理法も調味料も全然違いますしね。でもこれが毎日食べれるというのは帝国で貴族令嬢をやっていたときでも無理なんじゃないでしょうか。わたくしも当時数えるほどしか食べたことありませんでしたし、帝国で食べた亀もこんな感じでしたらなかなか手に入らないのも仕方ありませんよね。
さらに思い出しました。初めて亀を食べた晩餐会で初めてハインツ殿下とお会いしたのでしたね。
あの時は初めて食べる美味しいお肉に夢中になっていたときに殿下がいらっしゃったから、さっさとご挨拶してまた食べに戻ろうと、今にして思えば浅ましい態度でしたわ。でもそこが気に入ったとハインツ殿下からも、殿下のお兄様であらせられる第一王子様もわたくしを認めてくださったのでしたね。淡い思い出ですが、よく考えればこれが今の状況に陥ったきっかけのひとつなのでは? 殿下の許嫁になる前の子どもの頃は比較的自由だった覚えがありますし。
考え出すともう分かりませんね。ルファの言う通り、わたくしは考えすぎなのかもしれませんね。わたくしが今やるべきことは生き残ること。そして生き残って余裕が出てきたら帝国への帰還を考えましょう。子どもの頃の淡い思い出を思い出してしまって余計に殿下への怒りが思い起こされましたわ。必ず生き残って、殿下にビンタしなくては。
「シア、顔、怖い」
「どうかしたのか? シア。大丈夫か?」
おっと、今は殿下のことなどどうでもいいですわ。まず生き残る。そしてこの子たちとともに生きる、が今のわたくしの目標ですわ。ルファとクァルを含めて今は五人とも一人で生き抜くのは難しい者たちばかりです、協力して生き抜かなければ。




