巨怪
「どのへんだ、おいらが先行して見てくる」
「南よ、気をつけて」
頼もしいわね、エルノ。クァルも心強かったけど、今回のクァルはまだ寝てるようね。フリーダの護衛をしてもらいましょう。
「サソリだ!」
「あれ? 小さくない? わたくしが見かけたやつよりずいぶん小さいけど。それに後ろ向いてるわね」
「ほんとだ、後ろに威嚇してる? なにもいな……?! うわぁ」
突然現れた、いえたぶんいたけどわたくし達には見えなくて気づけなかった、大きな動物がサソリの尻尾やはさみに構わず、サソリにかぶりつきました。サソリは抵抗していましたがバギバキッと噛み砕かれてしまいましたわ。なんなのこいつ?!
『亀、だな。しかしえらくでかいな』
「亀? あれ亀ですの? 食べたことはありますが、生きているのを見たのは初めてですわ」
「こいつ、ヘイドディタスだ。襲ってくるぞ!」
エルノが警告してくれます。どうも警戒の魔法にひっかかったのはサソリではなくこの大きな亀ヘイドディタスのようです。
サソリを貪ったあと、なんの予備動作もなく急にエルノに向けて上から噛み付いてきました。
「エルノ?!」
一瞬で食べられた? ヘイドディタスの頭がわたくしの目の前に来ます。感情が見えない目がわたくしを見ました。
「ひゃっ?!」
思わずあとずさります。ヘイドディタスの首の向こうにエルノが見えました。向こうに避けていたようです。良かったですわ。けど次はわたくしが狙われている気がします。
あとずさりはしましたが目はあわせたままです。すると、すぅっとヘイドディタスが白くなって消えていきます。
「シア、気をつけて。白い霞から現れるから」
白い霞に変化したヘイドディタスがわたくしの後ろの広場に移動します。その霞がヘイドディタスの形になったとき、急に色がついて長い首を伸ばして噛み付いてきました。
しかしわたくしは事前にエルノが教えてくれていたので、焦らず丁寧に逆の方向に下がっていたのでまたしても首は届きません。
「えい!」
槍で頭を突いてみます、けどものの見事に弾かれましたわ。まあ見た目からして硬そうでしたから予想は出来ていましたけど。槍を小さくして短剣を抜きます。
突かれて怒ったのか、猛然と噛み付いてきます。もちろん届かないのですが、さっきより近かった気がします。その巨体で引っかかった木を無理やり押し込んで近づいているようです。見た感じ、頭も首も鱗みたいなので覆われていて、足もそうです。前足には鋭いツメが生えていますね。あれで引っかかれたらすぐに死ねそうですから、近寄っては行けない相手ですね。体は硬そうな鎧で覆われています。確か甲羅というんでしたっけ? とにかくどこもかしこも硬そうです。唯一柔らかそうなのは首の下、喉あたりですね。大きく動かすことが出来るようになのか鱗みたいなのはないようです。槍で狙うとしたらそこですか? わたくしの技量ではとても無理そうですし、もう小さくしてしまいましたが。
「風刃!」
火球の魔法だと森に燃え移るのが怖いので風刃を使います。目や喉に当たれば効くかも!
魔法を使ってからヘイドディタスから離れます。後方にいたエルノがわたくしをかばうように前に出ます。
風刃が届く前にヘイドディタスはまた霞に変わって、わたくし達の後ろの広場に移動します。
未知の魔獣とはいえ、やはりただの獣ですね。動きが単調です。それに体が大きいから実体化地点が容易に想像がつくのは助かります。こいつがどこの木々の間でも通れるほど小さかったら、とても怖い存在だったかもしれません。小さければすぐに倒せたかもですが。
「エルノ、試したいことがあるの。だからあいつには手を出さないで」
「なにか考えがあるんだな、分かった」
「風刃!」
エルノごしに実体化した瞬間を狙って魔法を放ちます。しかしヘイドディタスはさっきは霞化して避けたのに今度は霞化せずに魔法を受けましたわ。けどやっぱり風刃程度では偶然いいところに当たらないとダメージらしいダメージは与えられないようですね。けどいいのです。今の魔法はダメージを期待して放ったものではないので。
「エルノ、後ろの広場を駆け抜けて、集落の前に移動するわよ。ついて来て!」
風刃を受けて怒っている感じのヘイドディタスに背中を向けて走り出します。その際広場を横切らずあえて木のある周囲を、ヘイドディタスの動きに気をつけながら。
ヘイドディタスはしばらくためらった感じでその場にとどまった後、霞化して予想通り広場に集まっていきます。こちらはもう後ろに集落の入り口が見えるところにまで移動できています。
「エルノ、こっちはもういいわ、戻ってフリーダとクァルに集会場の中で待つようにいって。あと槍を集会場や小屋の入り口の前に突き立てておいてほしいの。5歩ほど進んだところに」
「え、でも……?! わかった!」
一瞬エルノが躊躇する様が見えました。けどこちらはもう何も出来ません。ヘイドディタスの大きさと広場の大きさを考えればヘイドディタスがどこに出現するかは予想できます。予想位置から十分に離れていますし、出現直後に爆発の魔法を当てます! ルファ、手伝ってよ!
『分かってる。体内に魔法を発動させることは出来ないから重ならないようにな』
ええ、もちろんですわ、ルファ。さすがですわね、もう構築できましたわ。ちょうど出現直後に発動できそうです。
「爆発!」
実体化したばかりのヘイドディタスの背中の上で爆発の魔法が発動しました。凄まじい音と光が発生します。が衝撃波はわたくしまでは届きませんでした。攻撃範囲が結界をはる範囲なのでわたくしのところには衝撃波はおろかそよ風ほどの爆風も届きません。
「やりましたわ!」
『爆発のあとのやったはフラグだ! シア、下がれ!』
「フラグってなんですの……?!」
言われてとっさに下がると目の前の木が叩き折られました。あの魔法を受けて無事なの?! 爆発の中からヘイドディタスの首が伸びていて、その首で木を叩き折ったようです。ルファに言われていなければ木ごと吹き飛ばされていましたわ。
想像以上にすごい爆発でしたのでこれで決まったと思いましたが、そうはいきませんでした。けどもともとそれも想定済みですわ。けど本当にすごい防御力ですね。背中が焼け焦げただけのように見えます。上からの攻撃には見た目通り強いようですわね。けど……。
後ろを見ながら急いで集落に駆け込みます。またしてもヘイドディタスはこちらを見送ります。やっぱり霞化には時間がかかるのね、なら次で!
「エルノ、準備できた?!」
走りながら叫ぶように声を出します。戦いの恐怖は感じませんし、今まで通りルファがわたくしの感情を元に魔力を生み出し、それを使って身体強化してくれているようです。爆発で使った魔力も大きく戻ってきていますし。
エルノは集会場の隣にある小屋の前に槍を突き立てていました。集会場の前はフリーダがやってくれたようです。他の小屋の前にはすで槍が突き立てられています。
「急いで中に戻って! くるわ!」
万一わたくしでなく他を狙われたら困るので。わたくしは槍で狭くした移動予測地点から首をのばしても届かないであろう場所で止まって、呪文の詠唱を始めます。この魔法も重いはずなんですが、ルファが手伝ってくれたらすぐでした。
「葬炎!」
さあ、こっちの準備は整いました。あとはヘイドディタスが予想通りの場所に来たら終わりです。
しばらく実体化したままだった集落の外にいるヘイドディタスが白くなって、やがて見えなくなりました。そして白い煙のようなものが集落内の突き立てられた槍を避けるかのように広場の一点に集まってきます。白い煙がヘイドディタスの形になり、色がついて実体化します。
実体化したヘイドディタスはしっかりわたくしの方を向いていました。そして届かないと分かっているはずなのに頭を叩きつけてきます。
しかしその頭の動きは途中で動きがとまって、その場に垂れました。葬炎の魔法がヘイドディタスの腹の真ん中の真下で発動したからです。骨をも燃やし尽くす白い炎は一瞬でヘイドディタスを貫き、背中から白い炎を吹き上げます。同時に肉の焼ける匂いと煙が辺りに広がります。
すごい防御力を誇ったヘイドディタスでしたがさすがに下からの熱攻撃にはひとたまりもなかったようです。小さい相手に葬炎を当てることなんてそうそうできそうもありませんが、あれだけ大きくて誘導できて、避けれない巨体でしたら当てれます。攻撃魔法ではないですが、威力は甚大のはずでしたし。実際一撃で倒してしまったようです。




