信頼
目覚めると寝床には誰もいませんでした。……昨日の夜のことは夢だったのかしら?
「シア、さま、おはよう、ございます」
焚き火に火が入っていて、その向こうからフリーダに挨拶されました。
「あ、おはよう、早いのね」
「シア、さま、先日、怪我した、疲れた、せい」
フリーダはすでに朝食の準備をしてくれていたようです、良い香りがしています。
「エルノとクァル、どこにいったか知ってる?」
フリーダによると、エルノはフリーダより早くに目覚めたらしく、フリーダが起きた際、槍と弓矢を持って集落から出たのを見たらしいです。
クァルはそれについていったようですわ。
たぶん狩りに行ってくれたのですね。
本当に真面目でいい子ですね、フリーダも。
一番わたくしが年上のはずなのに一番何も出来ていませんわ。
貴族とは考えることが仕事で実働は付き人か下働きにさせるもの、という教えでしたしね、学園でも。
わたくしもそれ自体は間違ってはいないと思いますが、自分ひとりになる可能性もあるのですからなにか出来た方がいいですよね。
サバイバル訓練を受けていなかったら本当にどうなっていたのか分かりませんでしたし。
でも今のわたくしを過去のわたくしが想像できるか? といえば不可能でしょう。
今のわたくしですらまだ何故こんなことになってしまったのか分からないのですから。
『ほんと、よく考えるよな、シアは』
「いたのですがルファ。わたくしが考えるのをやめたらそれこそ存在価値がないのではなくて?」
『そうか? もうあの二人にとってはシアはもうかけがえのないものになっているように見えるぜ?』
「そんなことはないでしょう。会ってまだ二日ですよ、わたくしが彼らに何が出来たっていうのですか?」
『ふっ、まあそんなところがシアらしいところなんだろうな。傍から見てると面白いし、優良なエネルギーが俺に流れてくるから今後ともよろしく頼むぜ』
なんだかルファが一人で納得してる感がウザいですわ。
けどルファはわたくしがピンチか自分の都合のいいときしか出てきてくれませんからね。
まあちょくちょく誤訳しますが、自動翻訳は役立ってくれていますけどね。
会話できなければフリーダやエルノとも仲良くなれなかったかもですし。
会話できても会話できないという相手もいましたけどね。
ですから会話できることが仲良く出来る前提ではないはずです。
クァルともうまくいけている気がしますしね。
クァルは狩りが下手だとルファが言っていましたが、エルノについていって狩りの仕方を覚えるつもりなのかしら?
そうだったら良いですわね。
クァル自身は強いのですからやり方さえ学べばきっと野生に帰れると思いますわ。
さて、わたくしはどうしましょう?
わたくしができることといえば洗浄ときのこや果実集めかしら。
今急ぎでやったほうが良いのは洗浄かしら。
集会場を寝室にしないと、いつまでも野外で寝る必要はないはずです。
雨が降ったら大変ですしね。
朝食が出来たようなのでいただきます。
何度食べても感心しますわ。
調理器具も素材もそんなにないのにどうしてこんなに美味しく作れるのかしら。
うちにいた料理長もそんな事できたんでしょうか。
……出来たんでしょうね。
今なら尊敬の程度が違いますわ。
以前のわたくしは……。
フリーダと一緒に食べ終えたあとの片付けをしてから、フリーダと集会場に向かって、整理や洗浄をします。
フリーダに意見を聞きながら整えていきます。
集会場、外から見たらただ木で組んだだけのように見えましたが、中にはいると土の壁で補強されています。
集会場の中で焚き火できるように煙突までありますし、水庫や食料庫、武器庫まで据えてありましたわ。
何かあったらここに立てこもるように出来ているのですね。
一通り集会場を片付けてから他の小屋を回ってなにか使えるものがないか探しました。
少し回収しましたがたくさんの布と釣り竿、針と糸を見つけました。
布はあればあるだけいいと思いますし、全て回収して洗浄して集会場においておきます。
釣り竿や針や糸は釣りに使えますね。けどわたくしは釣りなんてしたことがありませんし、近くの泉には魚なんていそうにありませんでした。
……ということはあの泉以外に魚がいるような水源がある、ということですね。
「シア、さま、少し、座って」
「ん? どうしたの?」
フリーダが願い出るなんて今まであったかしら?
何なのかわからないけど大人しく座ります。
「しばらく、動かない」
動くな、ってことね。何をするのかしら?
すると釣り針に糸をつけて、わたくしの昨日槍に突かれて破れていた服の肩を縫い始めてくれました。
「上等、服に、合わない、けど、破れる、そのまま、良い」
確かに針も太くて糸も太いので縫い目がちゃんと見えてしまいます。
けど破れたままよりずっといいですわ。
言われたとおりじっとしているとしばらくで終わりました。
しっかりと肩が元の形に戻りました。
素晴らしい腕ですわ。
あんな曲がった針でここまで縫えるのですね。
コボルドの年齢は分かりませんが、フリーダが人間と同じ感じなのだとしたら十歳にもなってないはずですのに。
「終わり、ました」
「ありがとー!」
思わずフリーダに抱きついてしまいます。
わたくしがフリーダぐらいの頃はわがままいっぱいの何も出来ない子どもだったはずです。
環境が違うと言えばそれまでですが、フリーダは尊敬に値します。
「破れたままでちょっと寒いなって思ってたのです。本当にありがたいですわ。わたくしだけだと釣り針と糸を見つけてもこうしようとは思いもしませんでしたわ」
「あたし、シア、さま、力、なりたい。ヒール、知らない、あたし、優しい」
んー? ちょっとたどたどしすぎてよくわからないけど、フリーダがヒールを使えることを知らなかったわたくしがフリーダに優しくしたから、わたくしの力になりたい、でいいのかしら?
もしそうだとしたら悲しすぎるわ。
今までフリーダはヒールだけを求められてきたってことなんですもの。
これだけいろいろ出来るのに。
……もしかすると逆で、だからいろいろ出来るのかしら。
「よくわからないけど、フリーダがフリーダである限り、わたくしはそのままよ」
少なくとも今のわたくしは、一緒に歩いてくれるなら、フリーダもエルノも、裏切ることはないと思うわ。
そしてきっちり話し合うわ。
根拠のない信頼は危ないですものね。
考え方が違う、変わってしまったと分かっていたのにハインツ殿下を根拠のない信頼をしたせいでこうなっているんですものね。
昼は軽く葉の炒め物を食べたあと、自分たちが使いやすいように色々と配置変更したりして過ごしていました。
夕方になってエルノが獲物をもって帰ってきました。
「シア! 話がある! 獲物を片付けたら話いいか?!」
なんだか様子がおかしいですわね。
「ええ、わたくしはいつでもいいですわ。フリーダには夕食を頼んでいますし」
今日の夕食から集会場で食べることにしました。
獲物の処理を終わってやってきたエルノに洗浄の魔法をかけてから集会場に入ってもらいました。
「おー、すごくきれいになったな。おいらもここで寝ていいのか?」
などときょろきょろしています。
「もちろんですわ。それでお話っていったい?」




