別視点 プラウトアルター01
固有名詞が多く出てきますが、あまり覚える必要はありません。見流してください。
「どうじゃった?」
「わけわかんねぇな、こりゃ直接親父にあって話聞かないと駄目かもしれん」
帝都にある老舗飲み屋、踊るワーウルフ亭にある個室で五人の年がばらばらの男女が飲んでいた。
「帰っていいのかい? まだ一年はあるんじゃなかったか?」
「ああ、あと一年は自由にできると思っていたんだがな。
それに俺だって自分の親父が愚者だって知りたくはないさ。
けどこのままじゃ……」
「ケトロイダで流れてきたブロテア帝国の評判は散々だったものな。
元々評価は低いがここ数年、特に今年になってから悪い話しか流れてこなかったものな」
「いい話って聖女が出現したって話ぐらいか?」
「ああ、それも今回現れた聖女おかしくね?って評判だったな。
今までの聖女ならブロテア帝国にとどまらずケトロイダやアウムレッチ、各国にまで威光があふれるぐらいだったからな」
「アウムレッチが軍を動かすって噂が広まっていたものな、ケトロイダでは」
「ケトロイダも動きたいんじゃないの? 実際ヴァルターには悪いが今のブロテアにアウムレッチを抑えられるのかね?」
皆の視線がヴァルターと呼ばれた青年に注がれた。
「あんたら、もう少し手加減してくれよ……。
明日親父にあってくる。
だからもしかするとプラウトアルターを一年早く抜けることになるかもしれん」
「ああ、それがええ。
抜けてもお前はずっと儂らの仲間だし、こっちのことは心配せんでいい。
むしろヴァルター、お前のほうが心配じゃ。
儂らはしばらくここにおるから、困ったら頼るといいぞ。
これでもどいつもこいつも国にすら顔が聞くからの」
「わかった、本当にあんたらには世話になりっぱなしで申し訳なく思う。
絶対に借りは返すから、もうしばらく世話になる」
ヴァルターは周りの年上たちに頭を下げた。
「で、なんで今もあんたらが俺に皇城前までついてきてるんだ?」
「ちょいと事情が変わってな。儂らプラウトアルターがお前の近くにいた方がいいという判断になった」
「そりゃあんたらから見たら俺なんか子どもだろうけど、実の親に会いに行くのに付添が必要なんて歳じゃないぜ?」
「儂らが間違っている、と? 世話になると言った若造が儂らの行動が不満だと?」
一番年上でプラウトアルターのリーダーをしている魔法使いの声は女性だったが非常にきつい調子だった。
「アッケンベルテ、あんたの判断が間違ったことはない、それは俺も知ってる。
ただ、恥ずかしいだけだよ。この国の皇子が冒険者に守られて城に戻るってことがさ」
「恥ずかしいというのには同情するさ。
だからそれよりも儂らがついてくるという判断を儂らがした、ということにもっと注力すべきじゃな」
「おい、お前たち、皇城に何用だ」
「お前、見覚えのない顔だな。なら許してやるからとっとと偉いさんに取り次ぎな?」
ヴァルターが門から駆けてきた兵士の顔を覗き込んだ後、払うような仕草をして言い放つ。
それに激高した兵士が槍をヴァルターに向けたところで、もう一人いた兵士が、構えた兵士をたしなめた。
「おい、待て、他の者も見てみろよ。どう見てもただの冒険者じゃないぞ。隊長を呼んでこいって」
そうやって槍を構えた兵士の肩を後ろに押した。押された兵士はそのまま城へ駆けていった。
「申し訳ありませんでした。取り次ぎますので少々ここでお待ち下さい」
「役目に熱心なのはいいが、もう少し相手が何者か察するようにしないとな。あ、あんたはできてるがさっきのやつな」
「そうですね、申し訳ないです。年々質が下がってきてしまいまして……」
「どういうことだ?」
「いや、余人に言うことではないのですが、お詫びを兼ねて。訓練期間も費用もがくんと減ってしまいましてね」
「ふぅん、そりゃ大変だな。けど門番なんざ顔みたいなものなんだから、もう少し気を使ったほうがいいんじゃないのか?」
「私もそう思うんですがねぇ。聖女様が現れてから兵士に報いはないんですよ」
「そうか、あとで詳しく話を聞かせてくれ。おい、ヴェルン、貴様が今ここの隊長なのか? 通してくれよ」
後ろから駆けてきた少し質の良さそうな鎧をきた兵士にヴァルターは唐突に大声で話しかけた。
目の前で対処していた兵士は目を丸くした。なぜ隊長の名前を知っているのだ? それに隊長に対する態度……。
謁見待合室でヴァルターとプラウトアルターの面々は待機させられていた。
「俺が皇城に戻っただけで蜂の巣をつついたみたいになってやがる。確かに皆の言う通りなのかもしれないな」
「俺の情報網は随一だと自信を持って言えるぜ」
「レレットステウ、ならなんでもっと早く教えてくれなかったんだよ」
「俺もつい昨日の夜に知ったのさ。まさかぼっちゃんのご帰還だけで情報がいるとも思ってなかったしな。優秀な仲間が気を利かせて教えてくれたんだよ」
レレットステウは軽戦士ということになっている。
しかし彼は裏の世界でかなり高い地位を持っているということはプラウトアルターの面々には周知の事実だった。
「そうなのか……。俺が思ってた以上にひどいことになってそうだな」
「いったいどうしたというのだヴァルター。たしかまだ一年は戻ってこないのでは?」
ブロテア帝国皇帝ギュンター二世がヴァルターとプラウトアルターの一行と謁見の場で会った。
「ああ、なんで謁見の間なんだ。親父の部屋でいいんじゃないのか?」
「さすがにワシの部屋にプラウトアルターの皆様を招くわけにはいかんだろう?」
「いや、俺だけでいいんだが」
「しかし皆で来たということはプラウトアルターの皆様にも私に用があるのではないか?」
内心、してやられたな、と思いつつ、アッケンベルテは立ち上がり、大仰に頭を下げた。
「発言をお許しください」
「許す」
「陛下は周辺諸国の動きを察知されておられますか?」
ヴァルターが思わず振り返る。
「我が帝国は過去周辺諸国に攻め入ったことがある。
その歴史から恨まれておることは把握しておるよ。
だから周辺諸国から流れてくる難民も受け入れておるのだ」
「それはようございます。周辺諸国、特にアウムレッチが軍を動かそうとしているという話は?」
「アウムレッチが軍を? はっはっは。むしろこちらは軍を削って圧力を減らしているのだ。そんなわけがなかろう。もう誰も戦争などしたいはずがないわ」
「さようでございますか。ではケトロイダでの竜害については?」
「ケトロイダのことは知らんな。そもそもケトロイダ国内でのことであろ? 我が帝国に関係あるのか?」
「竜害が起こったのは帝国に隣接する地方でありましたので」
「ほう、しかしケトロイダ周辺から被害を受けたとの報告はなかったぞ」
「さようでございますか」
「そもそも竜害ならお主ら冒険者の領分ではないのか? だからお主らが収めてくれたのであろう?」
「はい、ただ起こってから我らに知らされましたので、ケトロイダでは相応の被害が出ておりました」
「そうなのか、また難民が増えそうじゃのう。わかった、よく知らせてくれた。準備しておこう」
「は、はあ」
顔を真っ赤にしたヴァルターが立ち上がって叫ぶ。
「親父! 本当にそれだけなのか?!」
「ここは謁見の間だ。確かにワシはお前の父親だが、ここでは皇帝と呼べ」
ヴァルターは明らかに肩を落とした。しかしこれが明らかにと思ったのはプラウトアルターの面々だけだった。
「皇帝、陛下。ハインツは良くしておりますか?」
話題が家族のことに変わったせいか、ギュンター二世の表情が緩んだ。
「ハインツか、よくやってくれておるよ。今はまだ学園で聖女様をお守りしているがな。
あーしかし最近婚約破棄してな、沈んでおったよ」
「隣国ケトロイダでもその話は届いておりました。
ハインツの婚約相手は確かアクレシア・ノイラート嬢でしたな。
あのような出来た子とどうして婚約破棄など」
「侮辱罪だ。ワシも出来た子だと思っておったのだがな。
誰かにはめられたのかと思ったがハインツ自身が聞いたらしくてな」
「ハインツが、ですか。それで今アクレシア・ノイラート嬢はいかように?」
「国外追放だ。南にな」
「南?! それは死罪と同義なのでは?」
「北に国外追放にしてしまうと、ノイラート家がまずいことになるのでな。仕方なかったんじゃよ」
「しかし、それはあまりにも……」
「もう終わったことじゃ、元にはもう戻せんよ。すでに執行されておる」
「そう、ですか。ハインツがついている聖女様は、本当に聖女様なのですか?」
「何を異な事を。今も平和を目指して活動してくれておる。
聖女様の元、我が帝国はワシの代で生まれ変わるのだよ。
周辺に疎まれる国ではなく、尊敬される国にな」
「わかりました」
「ヴァルター、お前はどうするんじゃ? 皇太子として帝国に戻るにはまだ一年あるが。お前さえ良ければもう修行の旅を終えて、城に残ってもいいんじゃぞ。
もちろん聖約により、皇太子としての地位にはまだ戻れんが、それなりの対処はするぞ」
「いえ、陛下。聖約どおりもう一年私は修行をしようと思います」
「そうか、ヴァルター、お前は優れた我が子だ。お前に平和で尊敬される国を受け継がせられるようワシも努力を重ねよう」
「……もったいなきお言葉……」




