表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

PR
5/21

5話 びっくりしいな先輩



 問、バンドを始めるに当たって、絶対に必要なものを答えよ。

 答、バンドメンバー。


 ということで、まずはメンバー集めから始めることにした。おりかが一人でギター持って歌っても、それはひきこもりの弾き語りでしかない。


 向かったのは軽音部。広い視聴覚室が部室代わりに使われていて、今日もいくつかのグループが練習していた。


 早速声をかけてみた。まったく新しいバンドやりませんかー?


「友達同士でやりたいから」

「バンドメンバーなのに会わないとかふざけてんの?」

「ボーカルは間に合ってる」


 至極真っ当な断られ方をしてしまった。反応が当然すぎて落ち込む気にもならない。


 そもそもの話、ボーカルって最初に決めると思うんだよな。つまりバンドが結成されている時点で、ボーカル不在ってことはまずないわけで。


「おじゃましましたー」


 既にあるバンドに入れてもらうんじゃなく、0から集めるべきか。そう思いながら視聴覚室を出ると、一人の女子生徒が目に入った。


「ひうぅ……どうしよぅ……」


 俺の出た側とは逆の扉から、何故かへっぴり腰で視聴覚室を覗き込んでいる。おどおどしきりのその仕草には見覚えがあった。昨日、怒り狂う水嶋を止めようとして逆襲されていた、気弱そうな娘だ。


 彼女は一度扉に手をかけたものの、尻込みして廊下の隅でうずくまる。何してるんだ?

 近づき、声をかける。


「どうしたんですか? 具合でも?」

「ひうぅっ!?」


 背中から声をかけられた彼女は驚いて肩を跳ねさせ、殺人鬼に追い詰められたような目で俺を見た。……そんな顔されるとちょっと傷つくな。


 が、彼女も俺の顔を忘れてはいなかったようで、すぐに安堵の息を吐く。


「き、君は昨日の…………あのっ、昨日はありがとうございました! 私一人じゃどうしようもなくて……!」

「そんな気にしないでください。あれは誰でもビビりますって」


 苦笑。


「というか、先輩だったんですね」


 彼女の胸元、リボンの色が示すのは二年生の証。昨日も今もやたら縮こまってるから、失礼ながら同学年だと思い込んでいた。


 丸っこい犬みたいな目は、いつも泣きそうにおどおどしている。声が小さいところはおりかと似ていたが、元から大人しい子だったおりかのそれとはまた違う。慣れた人とは普通に話してくれそうな雰囲気を感じる。


 年上ながら庇護欲をそそり、また同時に嗜虐心も刺激する人だ。ふわふわした髪はサイドテールに結わえられ、彼女が視線を彷徨わせるのに合わせて揺れていた。


「は、はい。私、茨木(いばらき) 夏々華(ななか)っていいます」

「俺は日向 駆です。というか、敬語はやめてください。俺の方が後輩なんですし」


 先輩は控えめに、しかし嬉しそうに微笑んだ。


「よろしくお願……じゃなかった。よろしくね、日向君。私のことも、夏々華でいいから」

「ええ、よろしくお願いします。ところで夏々華先輩? 部室の前で何を?」

「あ、うん。私もバンドに参加したいんだけど、勇気が出なくて……うぅ、今年こそは頑張ろうって決めたのに」

「ということは、バンドメンバー募集中?」

「そうなんだ。私、ドラムをやってるの」


 これだっ! メンバー探し初日で幸運に恵まれた俺は、興奮のあまり夏々華先輩の手を握り、驚いてさらに丸くなる彼女の目を熱く見つめた。


「ひぅっ!? ひ、日向君……?」

「夏々華先輩。俺、夏々華先輩が欲しいです」

「えっ? ……ええっ!? わ、私が、欲しい……!?」


 びっくりしいな夏々華先輩は顔まで赤くしている。が、俺に気遣う余裕はなかった。絶好のチャンスを逃すわけにはいかない!


「そうです。夏々華先輩、俺と一緒に……」

「ま、待って日向君っ! そんな、私達まだ出会ったばかりなんだよ……?」

「そんなの関係ありません! 夏々華先輩が必要なんです!」

「わ、私なんかで……いいの……?」

「もちろんです!」

「…………」


 夏々華先輩は真っ赤になって下を向き、指先を落ち着きなく合わせていた。そして下を向いたまま、蚊の鳴くような声で答えた。


「あのっ……私で、よければ……」


 幸先のいいスタートを切れたことに、俺は思わずガッツポーズで叫んだ。


「よっしゃ! 早速ドラマー確保っ!」

「………………え? ドラマー?」

「え? はい。ドラムやる人のことをドラマーって呼びますよね? 夏々華先輩はドラマーじゃないんですか?」

「そ、そうだけど……日向君はドラマーを探してたの?」


 問われて気がつく。そういえば、メンバーに入ってくれそうな人が見つかった嬉しさのあまり、ちゃんと説明してなかったな。


「ドラマーというか、バンドメンバーを探してました」

「そ、そうなんだ…………そうだよね……」


 何故か肩を落とす夏々華先輩。なんだ? 微妙な行き違いが起きてる気がする。


「すみません。俺、バンドメンバーを探してて、ちょうど夏々華先輩がバンドに入りたいって言っていたので、チャンスだと思ったんですが……もしかして、何か誤解させちゃってましたか?」

「……ううん、いいの。私が勝手に勘違いしただけだから……」


 そう言う割には、徒労感にまみれた顔してるんですが。

 しかしすぐに、夏々華先輩はそんな顔を振り払った。


「それより、私でよければ入ってもいいかな?」

「もちろんです! ……と言っても、普通のバンドじゃないんですが……」

「普通じゃない?」

「特殊と言うか、新しい形のバンドがやりたくて。一言では説明出来ないんですけど……」


 バンドだけど人前に直接出なくて、ボーカルはメンバーと顔を会わせなくて、Virtualで活動するけど演奏は実際に収録する。そんな謎の活動をスマートに伝える言葉が、この場では見つからなかった。なんてややこしい存在なんだVirtualバンド。


「日向君がバンドメンバーを探しているのは確かなんだよね?」

「そうなんです。今のままじゃボーカルとドラムしかいなくて」

「じゃあ、もう一人友達を誘ってみてもいいかな? ギターの子なんだけど」

「……! 本当ですか!?」


 なんてこった。メンバーが一気に二人も加入するかもしれないなんて。


 しかも夏々華先輩は穏やかな人だ。その友達も優しい可能性は高く、それならおりかも打ち解けやすいに違いない。これは本当に幸先がいい。


 夏々華先輩は天使の笑顔を見せてくれた。


「明日土曜日だけど空いてるかな? その友達も連れていくから、バンドのお話、聞かせてほしいな」

「ええ、喜んで! 夏々華先輩、ありがとうございます。本当に助かります」

「ううん。こちらこそよろしくね」


 夏々華先輩とはLINEを交換して、その日は別れた。帰り道はつい浮き足立って鼻歌まで出てしまい、通行人に奇異の目を向けられて恥ずかしい思いもした。


 でもそれが気にならないくらい嬉しかったし、楽しみだったんだ。計画が実現に向けてするすると転がっていく、その先を想像することが。『進捗は上々だぞ』っておりかに報告することが。


 上機嫌を維持したまま、俺は妹の待つ家へと帰宅するのだった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ