4話
走れ、もっと早く、走れ、誰もかれも追い抜いて
教室まで後20m、先程まで同じ時を過ごしていた友人はとっくにとうに置いていった。ざまあない。
まだ依然として授業の始まりを告げるベルは鳴っていない、全力疾走すれば間に合わんこともないだろう!!
シンプルに全力疾走している事での生理的反応か、それとも焦りから来る心理なのかどうか分からないが、
もう中秋だと言うのに俺の額には汗が滴っていた。
急停止し、勢い良く教室の扉を開ける、開かれる扉の推進力に耐えきれなかった蝶番が盛大な振動を奏でる。当然のようにその音に反応した生徒とアルゴ先生がたまげた様子で注目してくるが、今はそんな注目による羞恥など気にしていられない。
奥の自分の席まで勢いよく飛び込んだ、黒装束を纏ったアルゴ先生がなんともゴミクズを見るような目つきで睨んでくるが、しかしベルが鳴っていない以上は文句を言えるはずも無いだろう。
勝った、完膚なきまでに―――!!
少ししてベルの甲高い音が鳴り響く、自分の一個後ろの席を念のため確認する。フィリッツはまだ教室には辿り着いていないようだ。
俺は思わず心の中でガッツポーズした。ざまあないぜ、と。
「生徒の皆様、おはようございます。」
アルゴ先生がダンディー且つ凛とした声で授業の始まりを告げる挨拶をする。
今日も相変わらずアルゴ先生はビシッと決まっている、精悍な浅黒い肌にぴっしりと整えられた絹のような白長髯、赤いネクタイが実に荘厳な雰囲気を纏っていた。
研究室ではアルゴ先生の長年蓄えられてきた知恵を借りることが度々ある、神学や言語学、数学に魔法学までありとあらゆる学問に精通している正にこのアカデミー一番の賢人と言えるだろう。
それと同時に舐めた質問や態度をとった瞬間、アルゴ先生はその偏屈な老人ぶりを発揮し、手に持っている杖を何度も床に叩きつけながら有難い説教に何時間も突き合わさせてくる。
有難い、というのは皮肉でもなんでもなく至ってストレートな事実だ。確かに関係のない小言やぼやきを説教中に挟んでくるのは鬱陶しいものの、その説教を終えた後はどんな生徒でも少しだけ前向きになり、そしてほんの少しだけ知りたかった分野について賢くなれる。
俺は研究で手詰まりになった時はあえてアルゴ先生に舐めた口を聞いたりしているわけだが、最近は説教好きのアルゴ先生も流石にそのことに気付いてきているようで、『もう少し自分で考えなさい』といった様子で突き放してくるようになったのが悲しい。
そんなこんなで俺はアルゴ先生の事をかなり慕っている。今日もアルゴ先生の授業を聞いて、その碩学ぶりを崇拝しようと思ったのだが・・・
「たっ大変申し訳ありません!!遅れてしまいました!とは言っても僕に非は無いのですよ!!通りかかったミレイ先生に資料運びを頼まれてしまいまして―――!!HAHAHA、やっぱ優等生は困っちゃうな―――!」
誰がどう見ても独りよがりの虚言だと分かるセリフと共に教室のドアを勢いよく開いたのは、顔面蒼白になりながら汗をダラダラ垂れ流しているフィリッツだった。
アルゴ先生はそんなフィリッツを冷たい目線で見つめたかと思うと、急に朗らかな笑みを浮かべた。
その朗らかな笑みと相反して、ただでさえ青白かったフィリッツの顔色はとうとう緑色にまでなっていく。
嗚呼、一度アルゴ先生に怒られた者なら誰もが恐れるであろうその笑顔。あれはガチギレしたときの表情に他ならない。アルゴ先生の魔晶顕微鏡を勝手に持ち出した挙句、勢いあまって壊してしまった一年前の事を思い出しただけでちびりそうになる。
杖を叩きつけた音が何度も反芻し、丁寧な口調でその魔晶顕微鏡がどれだけ値段で、どれだけ魔道具職人のこだわりと努力が詰め込まれているか、自分がどれだけ苦労すればその道具が手に入れられるか・・・といった嘘偽りない事実をあの恐怖の笑顔で淡々と説明された。
事後の現場の第一発見者であるミレイ先生によれば、そこにはズボンを濡らして目元が真っ赤に晴れているズタボロの俺の姿があったらしい。ショックのあまり記憶が飛んでいたのが不幸中の幸いだった。
回想はここまでで良いとして、今の状況を見てみよう。
もう既に涙目になっているフィリッツと、笑顔を維持したままキスしてしまうんじゃないかという程フィリッツの顔を覗き込んでいるアルゴ先生。
ああ、あいつはしばらくトラウマでアルゴ先生の顔を見たら濡れてしまうんだろうなぁと。俺でさえ先程までざまあないと思っていたフィリッツに同情してしまった。
「フィリッツ・エイル・カーター君。貴方は確かに優秀な魔術師です、非凡なワタクシと違いその年で自分の固有魔法を完璧に使いこなしている。ええ、すばらしい。大変素晴らしいですね。しかしされど、貴方にはその素晴らしさと相当するように目に余る悪癖がいくつもある。まるで釣り合った天秤のように。その一つが時間を守らないという事です。貴方がワタクシの授業を欠席、または遅刻した回数はこれで記念すべき15回目だ。大変キリが良くて結構ですがその回数の多さにはいくら生徒思いなワタクシであっても苦言を呈さない訳にはいかないのです。」
追い詰められているというのに、フィリッツはアルゴ先生から目を離そうとしない。というよりむしろ逆なのか、あれはアルゴ先生がフィリッツの視線を掴み切っている。ああ怖い、あの笑顔が俺に向けられているものだと考えたらゾッとする。
杖のカツンという甲高い音が教室中に響く。2個隣の女性徒が怯み声をあげ、両手で耳を閉じたかと思ったら今度は顔を伏せた。
アルゴ先生の話は続く。
「それに今回、貴方は自分が正当であるためのでっち上げににミレイ先生を使いましたね。これは大変よろしくない。ミレイ先生は若輩が故にまだ未熟なところも多いお方ですが、かといって生徒の授業準備時間を食いつぶしてまで自分の仕事を生徒に手伝わせるような不届きものではありませんよ。」
「フィリッツくん、お昼休みになったら第六神学準備室に来なさい。たっぷりその舐め腐った口を縫ってあげますからね」
そう言い切るとアルゴ先生は授業の参加を許可する合図として、その干からびた腕をフィリッツの席へと向けた。
そう遠くないうちに絶望が押し寄せてくることが確定したフィリッツも、それに応じるように俯きながらトボトボと老爺のように自分の席に向かう。
俺の隣に来た瞬間、アルゴ先生にバレない程度に思いっきり鼻を鳴らしてフィリッツを馬鹿にしてやった。するとフィリッツにしては珍しく敏感に俺の方に振り向いたが、かといって今は授業中だ。俺に手出しすることは出来ないだろう。安全圏からの攻撃ほど気持ちのいい物は無いなと、今更ながら実感した。
「それでは、授業を始めます。教科書の132頁を開いてください」
生意気なフィリッツを負かしていい気分のまま、机の中を探る。探る、探る。
そこで気づいた、教科書が無いという事に。
急いで席に座るという目的にばかり執着していたがために、肝心の授業を受けるための教科書を取ってくるという事を完璧に思考の中から排除していた。
隣に借りる選択も普段ならあっただろうに、こんな日に限って今日は隣が空席である。
・・・くそ、仕方がない。最終手段だ。
俺はひっそりと、眠れる竜を目覚めさせぬように出来るだけ穏やかにフィリッツの方へと向いた。
フィリッツはどうやらさっきの騒動の後にちゃんと教科書を持ってきていたらしい。なんて卑しい奴だ。
だが今は怒っていてもどうしようもない、プライドを捨てろ日暮守。さっきまで煽り散らかしていた相手に全力で媚びて、何とか教科書を拝見させてもらうのだ。
出来るだけ笑顔で相手の気を損なわせる事無く・・・!
「な、なあフィリッツ。教科・・・
「絶対に断る」
・・・
―――――
3限目の授業の終わりのチャイムが鳴る。
「わ、いつの間にかもうこんな時間ですねぇ・・・!それでは午前中の授業はこれにて終わりとします。皆さんお疲れさまでした」
3限目の数学科の授業を担っているミレイ先生が授業の終わりを告げた。昼の強烈な日光をミレイ先生の眼鏡が真っ白に反射していてなんとも滑稽だった。
周りの生徒もミレイ先生の前だと緩みがちになるのか、授業終わりの合図を聞いた瞬間身体を伸ばして欠伸をしたり、終わったことへの歓喜を告げる声が聞こえてくる。
結局、フィリッツに断られた後の俺は打つ手なしとなり仕方なくアルゴ先生の授業を止めてまで手を挙げて教科書を取りに行くハメになってしまった。
無論取りに行く最中から席に座った後も、授業中が終わるまでお小言と嫌味は続いた。その度に俺は後ろからの嘲笑を受けなればならなかった。まあ、今回は痛み分けと言ったところだろう。
授業も終わり、今日の昼はどうしようかと物思いに耽っているところでフィリッツに肩を叩かれた。
「それじゃ、僕は今からアルゴ先生の所に行ってくるよ。お弁当を持ってくるように言われたから多分昼休み中はずっと説教だろうねぇ。また今度飯でも食おう」
俺の無様を後ろから観測していたフィリッツもすっかり機嫌が良くなったのか、さほど俺の悪意に満ちた挑発には苛立っていない様子だった。
ホッとしたのも束の間、去り際のフィリッツに脛の部分を蹴られる。
「ギャ―ーーー!!何するんだフィリッツーーー!」
いくら貧弱なフィリッツの筋力だと言えど、流石に人間の身体を支える最大の筋肉を思いっきりぶつけられたらひとたまりもない。
俺は蹴られた部位の痛みを和らげるように優しく手で撫でまわす。
「気持ちのいい悲鳴を上げてくれてありがとう!これで煽り散らかされた過去の僕も報われるってものさ!!!それじゃあまた地獄で会おう!!HAHAHAHAHAHA・・・はぁ・・・」
そう言って、ぶつけようのない不安を一部だけ関係のある俺にぶつけたフィリッツは、浮かない顔で教室を後にした。その後ろ姿を見ると不思議なことに蹴られた分の怒りが自然消滅していくのが分かった。
不憫な奴だ・・・3割くらいは俺のせいだけど。
さて、普段ならフィリッツと適当な暇つぶしをしながら飯を食うのだが、生憎今日はフィリッツはいない訳で・・・どうしようかと頭を悩ませる。雑に扱っているものの、なんだかんだ一番気の合う友人はフィリッツ位なものなので、そんな彼が不在な今俺は話し相手を失ったのである。
普通に話す友達は何人かいるもののそいつらも別の友人と飯を食っているようだし、そこに混ざれる程俺はコミュニケーション強者ではない。一体どうしたものか・・・
何かやるべきことは無いのかと少しだけ頭を巡らせ、そして今朝の事を思い出す。
アカデミー内で事件を調査できることは無いと思っていたが、よくよく考えればアカデミー内には図書館が存在する。そこには魔法学の参考書や、恐らく犯罪心理学に関する本だって何冊でもあるだろう。
調べてみれば犯人の動機や特徴、もしかしたら魔法での殺害方法について知ることができるかも知れない。
カバンの中から軽食用の乾パンを取り出す。そうと決まれば食事をする時間も今は惜しい、行儀は悪いが食べ歩きながら移動することにしよう。
椅子を音が立たないようにゆっくり引いて立ち上がり、教室の扉を開いて廊下に出る。
ふと乾パンの減りを確認すると、もう既に半分まで体積が減っていた。
もう立ち上がってしまった以上、どうしようかと扉の前で頭の中でシュミレーションをする、この減りの速度じゃ図書館棟に移動する頃にはとっくのとうに無くなっているだろう。
今朝しっかり摂ったはずの栄養はアクシデントによって全て体内から全て失ってしまった。授業に集中していたから気づいていなかったが、どうやら胃が食料を求めているらしい。
仕方がないのでまた教室に戻って乾パンの袋丸ごと持っていこう。袋に入った乾パンを食べ歩きながらどこかへ向かう様はいかにも変に思われるだろうが、腹が減ってしまっては仕方がない。糖分を取らないと頭も働かないのだ。
教室に戻りカバンから胸一杯に収まる乾パンの袋を取り出した。その中にはまだ15本以上の乾パンが残っている、これだけあれば十分すぎるだろう。
そうして無味無臭、正確には少しだけカラメルの香りがする乾パンをハムスターのようにちまちま齧りながら
廊下を渡っていた所で、視界にとある女性がいることに気づく。
そこにいたのはあの完璧な新代表生として名高い、涼風蘭さんその人であった。
しまった、これは俺のミスだ。つい追加の乾パンを教室から取り出してしまったせいで彼女と遭遇してしまうとは。
今日は彼女の顔を見る機会が不条理にも多いなと少しだけ世の中の確率とやら疑心暗鬼になる。
意外と今までの俺が気づいていなかっただけで彼女と遭遇する機会はそこそこ多かったりするのだろうか、フィリッツもアカデミー内では有名人だと口にしていたし。
幸いなことにどうやら彼女はまだ俺の存在には気づいていない。
そして俺は彼女の視界に入らないという制約が課されている以上、この廊下の階を迂回するかどうにかして顔を隠すしかない訳だ。
あいにく今は顔を隠せるものが乾パンの袋くらいしかない、だが生憎俺にも羞恥心というものが存在する。袋で顔を隠しながら無様に腰を曲げて廊下を通るなんて無様なマネをするのはかなり憚られる。
非効率的な事は大嫌いだが、約束を捻じ曲げることはそれ以上に苦手だ。ここは大人しく引き返して別のフロアに降りるとしよう。
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ちょっとしたハプニングを乗り越えて、とうとう俺は図書館棟にまで辿り着いた。
正面から見た大きさは直径約30m、高さは20mと言ったところか、他のアカデミーよりも幾分か生徒数が多いのが理由なんだろう。同じアルカディア街にそびえたっている聖立図書館に比べたらやや劣るものの、十分に立派な大きさと蔵書数を誇っているのだ。
規模だけでなく多様な分野の優秀な本が出揃っているため生徒からも大人気であり、午前中の授業が終わったらこの図書館は急激に人口密度が増加する。まあ今は皆昼食を楽しんでいるため、人が来ていた所で2,3人程度が妥当だろうが・・・
乾パンを頬張りながら、図書館棟の重く固い扉をこじ開けた。
外の気温が寒かったからか、こもった空気が少しだけ温かかくて安心できる。まるで自分を快く歓迎してくれているみたいだ。
一歩踏み出して入り口の絨毯を踏みしめる。図書館棟の照明は未だ点いておらず、カーテンから漏れ出るかすかな光を部屋の混凝土が反射しているのみ
珍しく誰にも気を取られる事無く本が読めるかもしれないと、内向的な興奮を帯びながらもう片方の足を前に突き動かし、とうとう俺は完全に図書館へ入室した。
並行して女性の声が俺を呼び止めた。
「ねえ、貴方って入口の看板の文字読めない訳?館内は飲食禁止なんだけど。まさか入館すると同時にルールを破る愚か者なんて初めて見たわ」
いくら人嫌いの俺だからって、誰もいないと思っていた図書館に実は人がいたなんて事態が発生してもびっくらこいて泣き喚くなんてマネはしない。
まあ実際の所それが知らない人間であったならばそうなっていたかもしれないが、幸運な事にその明瞭かつ怒気の籠った声には聞き覚えがあった。まあ幸運と言ってもこの時間帯に図書館に来る人間なんか彼女位なもんだからある意味必然かもしれないが。
まあ何はともあれ俺はそいつの事が苦手ではない、むしろ俺にとっては扱いやすい性格をしている。
だから焦る事無く俺は余裕をもってゆっくり振り返る。
「よほ、あっいふひばばいかひはらひはん」
「飲み込んでから喋りなさいなんて野暮なツッコミしないっつーか、その細長の乾パンで口が詰まる訳ないでしょ。おちょくってんなら出菌にするわよ?」
おちょっくてるのがバレたので、大人しく乾パンを飲み込む。全く彼女の観察眼には敵わないなと心の中でため息をつきながら、乾パン袋をポケットの中にしまった。
「さっきぶりじゃないか如月さん。悪いね。別に看板が読めない訳じゃないんだ、ただこの時間帯なら誰もいないかと思ってさ。誰にも見られてないならいいかなーってな・・・まあ誰か居た訳だけど。」
すると彼女はムッとして読んでいた分厚い魔導書を勢いよく閉じた。恨めしくこちらを睨みつける彼女の顔は、いくら彼女の力が貧弱である事を知っていたとしてもそれなりに迫力がありつい彼女から一歩距離を取ってしまう。
そうだった。如月四季という少女は誰よりも、もしかしたら俺よりも本と知識に愛情を注いでいる。彼女がこんな昼間っから司書の役割をこなしているのもそれが起因してのものだ。
だからこそ今の図書館を軽視した発言は彼女にとっては何よりもタブーであり、俺が踏んではいけない特大地雷であった。自分の思いやりや共感力が欠如していることはそれなりに自覚はあったものの、まさかそんな彼女の基礎的情報とも言える事さえ忘れてしまうとは・・・我ながら人への関心の薄さには絶望する。
日頃フィリッツに最低限の思いやりを覚えろと言われているというのに不甲斐ない。
「最近やっと私の弛まぬの努力で飲食するバカを減らしてきたってのに・・・今度は貴方がワタシタチの敵になるってワケ??」
若干カタコトの発音になりながら、手をワシワシ機敏に動かして如月はそう言う。
そういや図書館の清掃は如月が買って出てるんだっけか。本来調べ物や勉強のためにある机が、菓子の食べカスやっとら汚れやらが付着しているのは俺も見たことがある。それを毎日綺麗にしてくれているのは如月だ。
「いやその、悪かった。冗談だよ。席に着く前には片付けるつもりだったんだ。さっき口に含んでたのは入館する前に食べた奴だから・・・それは勘弁してくれ」
「ふん、ならいいわ」
そういって如月はそっぽ向いてその煌びやかに光るツインテールを揺らしながら、再び読んでいた本の栞を取った。
相変わらずつっけんどんな奴だなと、呆れと同時に安心感を覚える。こうやって俺に全力で突っかかってくれる相手は如月くらいしかいないもんで俺もつい彼女にはちょっかいをかけてしまう。そりゃ確かに俺が全面的に悪いのは間違いないが、毎回俺の発言に全力で食いつく彼女も彼女だろう。
食いつかなければ厄介な冗談を聞くこともないと言うことは彼女だってわかっているだろうに、なぜか彼女はありがたいことに毎回欲しい反応をくれる。
子供の頃はあまり人に関われなかった弊害なのか、どうにも俺は彼女の前だと少し幼稚になってしまうらしい。
これも改善していかなくてはなと、そう思った。
さておき、せっかく司書の如月がいるのなら聞いてみるのもありだろう。彼女なら何か自分の欲しい情報を知っているかもしれない。知らないにしても本の居場所を教えてくれればそれでいい。
俺はカウンターテーブルに肘を乗っけながら如月に聞いた。
「ねえ如月さん。心理学か魔法を使った犯罪に関する本棚に案内してくれないか?」
すると如月はさっきよりも怪訝な表情を浮かべて言う。
「私はただの司書だから教えてあげることにはヤブサカでは無いけども・・・。何その怪しいラインナップ。あんた魔法使って何か悪事でも働く気なの?個人的になんだか気になるわね。」
成程。『魔法を用いた犯罪』はいうまでもない。心理学も言い換えれば人の心の内を暴く学問であり、詐欺なんかでよく応用される。
確かに側から聞いてみればなんともこれから犯罪を起こしそうなチョイスだ。
だが実際のところはそんなことは無く、むしろその逆だ。俺はこれから行われるかもしれない犯罪を阻止するために仕方なく勉強しているだけなのである。
「違うぞ如月さん、全く違う。俺は確かに悪徳な奴かもしれないが、かといって神が見ているというのに犯罪を起こすほど俺は愚者でもない。事情は言えないが・・・とにかくそういった犯罪関連の知識が今は欲しい。まず一番は犯罪心理学に関する本が欲しい。何処にあるか知らないか?」




