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① オタクな転生王子だけど地味に努力してます!~今日も筋トレと魔法修行~  作者: あんてな
第四章

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第三十四話

 早朝、レオンは王城の一室で静かに目を覚ました。

 窓の外はまだ薄暗い。だが身体の芯には、いつになく張り詰めたものがある。


 「レオン、起きてますの?」 扉の向こうからフィリアの声がした。

 「うん、今起きたところだよ」

 「もう少ししたら朝食の準備ができるそうですの」

 「分かった。着替えるから少し待ってて」

 「了解ですの」着替えた後二人で食堂へと向かった。


 豪華な食堂には、既にリュカ達が席についていた。

 「…レオン調子はどう?」リュカがスプーンを止めて言う。

 「バッチリですよ」

 「皆さん調子はどうですか?」

 「俺は無論万全だ」

 「あたくしもよ」

 「私もだ」

 「…私も」王子達は頷いた。

 

 皆で談笑をしながら食事を終えると会議室へと移動した。

 部屋には既に国王達が待っていた。


 「恐らくだが連中が動き出すなら次の予選からだろう…」国王が言った。

 「あの気配、忘れられるものじゃありませんしね」


 「私は今日は応援に回るけど」フィリアが小さく笑う。

 「その分、しっかり見ておきますの」


 「頼りにしてる」


 朝靄が晴れる頃、レオンたちは本戦会場の前に立っていた。


 昨日までの予選会場とは、規模がまるで違う。  

 石造りの闘技場は円形にそびえ、観客席は幾重にも積み重なっている。

 まだ空席だらけだというのに、それでも威圧感があった。

 中央の闘技台は磨き上げられた白石で、朝日を受けて淡く光っている。


 「これが……本戦会場」 レオンは思わず声を漏らす。


 「…圧巻でしょう」隣でリュカが微笑んだ。

 「アニマディア建国以来、一度も欠かさず戦い行われてきた会場よ。

 ここに立てるだけで名誉なの」


 闘技台を囲むように、六十四人の予選突破者が集められていた。

 喧騒はない。誰もが自分の実力を、あるいは隣に立つ者の力量を測るように、

 静かに視線だけを交わしている。中には、初日の"あの事件"を耳にしたのか、

 落ち着かない様子で周囲を窺う者もいた。

 ひそひそと交わされる噂の断片が、レオンの耳にも届く。


 「――なあ、聞いたか。第一予選で、参加者が襲われたって話」

  「ああ。参加者の一人が、人じゃないものに変わったとか

 ……運営が必死に揉み消してるらしいぜ」

 「揉み消してるってことは、本当ってことだろ。

 おれ、今日でここを降りようか本気で迷ってる」


 近くにいた男二人の会話が、風に乗って途切れ途切れに届く。

 誰も名指しでは語らない。だが視線だけは、時折レオンたちの方へ流れてくる。

 あの日、あの場に居合わせたのが誰だったか――噂は正確な形を保ったまま、

 確実に広がっているらしかった。


 別の一角では、

 若い女の参加者が青ざめた顔で連れの背に隠れるようにしていた。

 

 「本戦会場まで来て、今更帰れないでしょ」

 「でも……もし、また同じことが起きたら」

 「起きたらの話でしょ。考えすぎ」


 気休めにもならない言葉が、

 力なく交わされる。誰もが表面上は平静を装いながら、

 その実、腹の底に薄い恐怖を沈めているのが分かった。

 実力に自信のある者ほど、逆にその恐怖を隠しきれず、

 無意味に得物の柄を握り直したり、周囲を何度も見渡したりしている。


 レオンは小さく息を吐いた。噂というものは、悪い方にしか転がらない。

 だが今回ばかりは、その悪い方が正しいことを、彼自身が一番よく知っていた。


 「…気にすることないわ」隣でリュカが囁くように言う。

 「…噂は噂。でも、確かなことは一つ。奴らは確実に動く」

 「……そうだね」


 そう答えながらも、レオンの脳裏には、

 あの日の迷宮で見た光景がこびりついたまま離れなかった。


 「――全員、揃ったようだな」


 声の主は、国王バルグリオス。

 腰には大剣を下げ、ただ立っているだけで場の空気が引き締まる。


 「これより、第二予選の組分け抽選を行う」


 バルグリオスが手を掲げると、闘技台の中央に巨大な水晶球が浮かび上がった。

 中には無数の光の粒が渦を巻いている。


 「この水晶に触れた瞬間、お前たちの名は四つの色

 ――紅、蒼、翠、金のいずれかに輝く。

 同じ色を引いた者同士が、同じグループとなる。

 この方式は建国の頃より変わらぬ、

 女神イグナリア様より授かりし儀式だ。不服があろうと、覆ることはない」


 説明を終えると、バルグリオスは名を呼び始めた。


 「アレク・アニマディア」


 第一王子アレクが前に出て、迷いなく水晶に触れる。

 光が瞬く間に金色に染まった。


 「金か」アレクは自分の掌を見つめ、ふっと笑う。

 「まぁいい。誰にも遠慮せず、暴れられる」


 周囲の参加者が、その言葉に僅かに気圧されたように後ずさる。


 次々と名が呼ばれ、光の色が決まっていく。


 「シエン」 静かに歩み出た侍が、水晶に指先だけを触れさせる。

 蒼。表情を変えることなく、シエンは一礼して列に戻った。


 「ミラ・アニマディア」 第一王女ミラが続く。水晶に手を添えると、

 蒼の光が広がった。 ミラはシエンへ視線をやり、

 小さく頷く。シエンも同じように頷き返した。

  「よろしくお願いいたします」ミラが穏やかに言う。

 「こちらこそ」短くシエンが応じた。

 それだけで、二人の間に何か通じるものがあるようだった。


 「ルーク・アニマディア」第二王子ルークが姿を現す。

 いつものように気配を消して立っていたはずなのに、

 名を呼ばれるまで誰もその存在に気づいていなかった。

 水晶に触れると、光は翠に染まった。


 「ガルン」 デモディア連合国出身の青年が続いた。水晶が翠に輝く。

 ルークはガルンへ視線を向け、口の端を少しだけ上げた。


 「――同じ組みか。面白い」

 「……何がだ?」

 ガルンが訝しげに問うが、ルークは答えず、ただ笑みを深めるだけだった。


 「リュカ・アニマディア」  リュカが水晶に触れる。光は紅に染まった。


 その後も選手が次々と呼ばれていった。

 「レオン・グラディア」

 最後に呼ばれたのはレオンだった。 水晶に手を伸ばす。指先が触れた瞬間、

 光の粒が渦を巻き、紅色に染まっていく。


 「――また一緒だね」 リュカが小さく笑いかけてくる。

 「みたいだね」レオンも苦笑した。


 軽口を叩き合う二人だったが、その声にはわずかに緊張が滲んでいた。

 第一予選で味わった、あの尋常ではない気配。

 同じことが今日も起こらないとは、誰にも言い切れない。

 観客席のフィリアが、心配そうにレオンを見つめていた。

 目が合うと、彼女は小さく手を振る。レオンも小さく手を上げて応えた。


 全員の組分けが終わると、バルグリオスが再び口を開いた。


 「紅、蒼、翠、金。四つの組で、

 上位四名が本戦への出場権を得る。ルールは変わらん、殺生は禁ず。    

 それ以外は――好きにするといい!」


 乾いた笑いが、闘技場に短く響く。


 「開始は本日、正午。

 会場は各組ごとに割り振られた特設闘技場だ。健闘を祈る」


 それだけ言い残し、バルグリオスは踵を返した。


 解散の空気が広がる中、レオンはふと視線を感じて顔を上げた。


 「……レオン?」リュカが不思議そうに顔を覗き込む。

 「あ、いや……何でもない」


 レオンは首を振り、それ以上は口にしなかった。気のせいかもしれない。


 水晶に刻まれた名簿の中、六十四の名前が淡く光っている。


 控室へ戻る道すがら、リュカが静かに口を開いた。

 「正午まで、少し時間があるわ。身体を休めておきましょう」

 「そうだね」レオンは頷きながらも、先ほどの人影のことが頭から離れなかった。


 闘技場を吹き抜ける風が、開幕の刻を告げるように、鐘の音を運んでいった。


 第二予選――開幕まで、あと数刻。

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