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反響⑦

 その日、広場で星骸の噂を聞いたのは全くの偶然だった。主人から『エリックを探し出し、星骸との関係を調べろ』という仕事を任されてからはや数日、これといった成果を得られていなかった。

というのも市民たちは互いの結びつきがとても強く、よそ者であるゾラやアレクサンドルにほとんど何も話してはくれなかったのだ。

特にスクラップタウンはその傾向が顕著で、星骸はもちろんの事、エリックの名前を聞くことすら出来なかった。

だが情報は突然舞い込んで来た。それもあちら側から。

 スクラップタウンでの情報収集は諦め、中流階級が住むツリータウンでの聞き込みを始めた矢先の出来事だった。

アレクサンドルが木のように背の高い建物の入り組んだ町を観察していると、奇妙にも多くの人々が同じ方向へと進んで行くのに気がついた。

「ゾラさん、市民が広場の方へと向かっているようです」

アレクサンドルは大きな身体を折り曲げて、禿げた男に耳打ちした。その動きに禿げ頭の男は嫌そうに眉をひそめる。

ゾラは階級制度を体現したような男だった。

年下で自分よりも階級の低いアレクサンドルの事を心底嫌っているのだ。

だが、アレクサンドルはそんな男の反応にも慣れたものといった感じで言葉を続けた。

「劇団の公演はまだ先だった筈です。広場に行く目的が無いのにこんなにも沢山の人が向かってる。妙ですね」

アレクサンドルは先程通りの角に貼ってあった劇団のポスターを思い出しながら言う。

その言葉にゾラは髭を擦りながら考えるような表情を浮かべた。

「……お前は以前星骸の噂があった教会の方へ向かってみてくれ、私は広場へ行ってみる」

「え…は、はい」

アレクサンドルは戸惑ったように頷く。教会には昨日既に行き、大した情報は得られていなかったのだ。そこにもう一度行けというこの男の意図がよく分からなかった。

アレクサンドルが戸惑っている内にゾラはさっさと歩き出す。 

ゾラがアレクサンドルに意味の無い仕事を押し付けた理由は単純だ、手柄を自分のモノにしたいから、ただそれだけだ。

市民の動きは明らかに不自然だ、この先に星骸がいる、ゾラは直感的にそう感じていた。

ゾラは市民の動きに最初に違和感を覚えたのがアレクサンドルだという事など都合良く忘れて意気揚々と広場へ向かった。

 

 広場は活気で満ちていた。集まった人々の顔には笑顔が浮かび、寒い冬の日とは思えない暖かさがそこにはあった。

「列を作っているのか?」

ゾラは目の前の光景に思わずそうこぼす。まさか教養の無い中流層が並ぶなどという文明的な事が出来るとは思っていなかったのだ。

まして腹を空かせて暴走寸前の人間だ、なぜこんな事が可能なのか。

禿げ頭の男がそんな事を思った時、広場の端の方から声が聞こえた。

揉め事のようだ。

ー当たり前か、動物に近い平民たちだ。争いが起きるのは必定ー

ゾラは嘲笑を浮かべると野次馬精神で声の方へと向かう。

その時、見覚えのある顔が目の前を通過する。

この町に相応しく無い優雅な所作と洗練された歩み。

「エ、リック、様…」

ゾラの口から言葉がまろび出る。揉め事の中心まで歩いて行く長身の男は、エリック・ピーストップその人だった。

ー見つけた、見つけた!見つけた!!ー

ゾラは尋ね人を発見した喜びに唇を震わせる。涙も流せそうな歓喜に男は正気を保とうと強く唇を噛んだ。わずかに感じる鉄の味に乾燥でカサついていた皮膚が破れたのが分かった。

今すぐにでも駆け出して主人に報告したい気持ちをなんとか押し込めて、禿げた男はエリックの言葉に耳を澄ませる。

「僕は星骸の、、、理念の元、、革命家として、」

群衆のざわめきの中でもゾラは重要な文言は決して聞き逃さなかった。

ーエリック様は星骸と繋がっている!!ー

本人の自白の言葉に全身に衝撃が走る。目の前が白く霞むほどだ。

それは自身の出世が約束された事による歓喜と、言い表せない強い失望によるものだった。

ーエリック様は本当に我々を裏切ったのか…ー

事実がゾラの背中に重くのしかかる。

ーなぜ?こんな汚らしい動物のような輩に味方すると言うのか、なぜ?エリック様ー

ゾラは糾弾したくなる気持ちをなんとか抑え、今自分は何をすべきかを考える。

ー星骸の誰かに近づかなくては。エリック様についても報告しなければならないが、反逆者たちの情報も引き出しておいた方が良いー

男は配給に並ぶ市民たちの立ち話に耳を傾ける。

ーまずは星骸の幹部連中を特定しなければー

ゾラは決意を新たに深く息を吐き出した。白い蒸気がモワッと広がり散り散りになって消えていった。





 金髪の男が双子を見つけたのは日が暮れる頃だった。西に大きく傾いた太陽は真っ赤に燃え上がり、チャックの白い肌をほんのり暖める。

双子が居たのは広場からは随分と離れた場所にあるこぢんまりとした空き地だった。

石の敷かれていない土の地面に二人してうずくまるように小さくなっている。

チャックはその姿を見て口をへの字に曲げた。

「ラミア!リリス!」

呼び掛けに二人はゆっくり振り返る。

「なぁ、その、気にすんなよ。お前らの事知らないような奴に何言われたって良いじゃんか」

チャックは二人に近づきながら言った。

「いやまぁ、俺だったら調理場追い出されたら傷つくし、嫌味な事言われたら気にしちゃうけどさ、でも、その…俺は二人が双子だからって気にしないしそんなの関係なく仲間だって思ってる、他の皆んなだって同じだ!神話なんてただの作り話だよ!だからさ、」

チャックは振り絞るように言葉を紡いだ。たどたどしい響きを双子はじっと聞いている。

「だから気にしなくて良い!酷い言葉が二人の価値を決める訳じゃ無い」

チャックは大きな声でそう言った。しかし返ってきたのはチャックの熱量からすると随分と拍子抜けするようなモノだった。

「チャック何言ってんのー?」

「熱い言葉ですね。感動しました」

ラミアは首を傾げ、リリスは小さく肩を震わせている。

「え、あれ?」

チャックはパチパチと瞬きした。見え隠れする青い瞳は困惑の色を滲ませている。

想像していた反応と違い過ぎて何がなんだか分からなかったのだ。

「私たちが悲しんでいると思って慰めに来て下さったの?」

「まあ、うん」

男は金髪を掻きながら頷いた。

「えー!そうなの?やっさしーじゃーん!」

ラミアは手を叩いて喜ぶ。表情は楽しげだ。

「でもアタシら全然気にしてないよ」

「ええ、あんなの日常ですからね」

双子は何でも無い事のように言った。

「そう、なの?でも意地悪なこと言われたら傷つくでしょ。言われたのは俺じゃないけど、嫌な気持ちになったよ」

チャックは思い出して眉を寄せる。

「チャックさんこっちへ来て、これが傷ついてる人間のやる事に見えますか?」

リリスは手招きしながら言った。金髪の男は怪訝な表情で二人の元へ行く。二人の間を覗き込んだ。そこに見えたのは幾何学模様といくつかの文字。

「なにこれ?」

見覚えの無いモノにチャックが聞いた。するとラミアが待ってましたと言わんばかりの笑顔で答える。

「呪い!」

「は?」

「リリィと子供の頃に考えたんだ〜。アタシらに意地悪言うムカつく奴らには呪いかけちゃおってね!」

「考えるのは楽しかったわねラミィ」

「ねー」

二人の楽しげな会話にチャックは圧倒されていた。

「じゃあ、本当に気にしてないの?」

「ええ。二人で生きて行くと決めた日から一度も気にしてませんよ」

「そーそ。アタシらって別々に生きれば差別されずに生きられるのよ。初めっから一人きりで生まれてきたみたいに皆んな普通に接してくれる。それって凄く気分が良い、普通の人間になれたみたいで。でもさ、それってせっかく一緒に生まれてきた意味無いじゃん?」

ラミアが言う。

「だからアタシもリリィも気にしないの」

「…そっ、か、なら、良いんだけどさ」

チャックは戸惑いながらそう言う。その背中をラミアがパチンと叩いた。

「ありがとねチャック、こんな風に言われるのって中々無いから嬉しかった!大好きだよ!」

ラミアの言葉にリリスも頷く。

「さあ、暗くなって来ましたしそろそろ帰りましょう」

リリスはそう言うと立ち上がった。赤く染まっていた空はほとんど暗闇になってしまっている。双子の考えた呪いは効かない。ただの慰めでしか無い。だがチャックの紡いだ言葉は二人に確かに届いたのだった。


読んで下さりありがとうございます。


唯一無二の誰かがいるって幸せな事ですよね。

ラミアとリリスは苦しみの中で生きてきましたが、互いだけは初めから持っていました。

どちらが良いんでしょうかね。

凡庸に幸せだけど唯一無二は手に入れられない人生と、過酷だけど唯一無二のモノは持てる人生。

二人は後者を取りました。

くっつき双子ですから。きっと切っても切れなかったんでしょう。


次回も土曜日21:00です。

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