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反響①

開いて下さりありがとうございます。7章、楽しんで頂けると幸いです!

 しんしんと降った雪がたった一晩でイチア地区の様子をガラリと変える。一面の銀世界は降り注ぐ朝陽を反射して目に染みる程だ。

風は夜と共に去ってしまったかのように静かだった。

薄青の空が高く、注ぐ陽光は白く弱い。まっさらな雪に一本の線。グラグラと揺れるそれは町中に走っていた。

チリンッ

小さく鈴の音をさせて止まった自転車から家に向かって新聞が投げられる。

新聞が玄関マットの上に着地したのを確認する前に自転車は一本線を残して次の家へと出発してしまう。

 高く昇り始めた太陽が積もった雪を溶かし出した頃、中流階級の住むツリータウンの家々の扉が開く。一人の少女が寝ぼけ眼を擦りながら新聞を拾い上げた。

「うー、寒っ」

少女は小さく呟くと新聞に目を落とす。少女は溢れんばかりに目を見開いた。そして次の瞬間叫び声を上げる。その大きな声は白銀の世界によく響いた。

「うるさい!何やってんのアルベロ!」

中から女の声がする。

「お母さん!!ちょっとモンドの所行って来る!」

少女は言うが早いが駆け出した。狭い階段を一気に上る。目指すは上階に住む幼馴染の家。

「はぁ!?急に何言って!」

母親は驚いたように玄関まで出て来て階段を見上げる。だがその時には既に少女の背中は小さくなっていた。

アルベロは木のように細長い建物の階段を一段飛ばしで駆け上がると、その勢いのまま目的の家の扉を叩いた。

「モンド!起きて!大変だよ!!」

少女が何度か呼び掛けると焦ったような足音が中から聞こえる。

「アルベロ!?どうした怪我か!?」

寝巻き姿のまま血相を変えて現れたのはヒョロリとした若い男。飛び起きたのか寝癖がついている。

「これ!これ見て!」

少女は新聞を差し出した。元気そうなアルベロの姿に目を白黒させたモンドは少女の勢いに押されて新聞に目を落とす。


星骸、革命を宣言!!

燃え盛る門とエリック様を名乗る男の出現。


 昨晩、我々の元にとんでもない情報が入って来た。

それは『革命の宣言』と『エリック様を名乗る人物の出現』だ。一つずつ整理して行こう。

まず昨日十一月二十一日は『星骸』が犯行を予告した日である。そして彼らはそれをカガイで起こした。

当社は星骸による犯行予告当日、地区中に散らばり情報を集める為に奔走していた。だが一番の情報を手に入れたのは祭りを楽しみに行っていた者だった。

当誌では実際その場にいた者の貴重な体験を次項に掲載している。


 モンドは勢い良く顔を上げる。目を見開いて少女を見つめた。

「レイさんたちがやったんだよ!」

少女は興奮したように言う。ぴょんと飛び跳ねた拍子に靴についた雪がわずかに舞い上がった。

「革命、宣言…それに、エリック様って、あのエリック様か?助けて貰った時はいらっしゃらなかったよな?」

「うん。私たちの前にお姿を見せなかっただけかもしれないけど、でも四年も経ってるし、色々あるかも?」

モンドの言葉にアルベロは首を捻った。思い出すかのように視線を上げる。

「まあそうだよな。あの時は革命なんて言葉が出て来るなんて想像もしてなかったし、単に義賊っていうか…新聞に星骸の名前が載るたびに見てたけど、まさか、革命、なんて…」

「ねぇモンド!」

アルベロの声に男は意識を現実へと引き戻すと下を見た。

「変わるのかな?」

「え?」

楽しそうな表情で言う少女に男は聞き返す。

「全部、変わるのかな?だって革命でしょ?ひっくり返るんでしょ?全部全部!」

「そう、だな。革命ってたぶん、そう言う意味だと思う」

モンドは噛み締めるように言った。言葉の意味を取りこぼさないように、それがどれほど大きな意味を、力を持っているのか刻み付けるかのように。

「じゃあもう、貴族に突然攫われたりしないって事だよね?」

アルベロの声は小さく、震えていた。さっきまでの明るい表情は消えている。眉を下げて唇をへの字に曲げていた。

「私、助けて貰った後もずっと怖くて…またいつ、死ぬかもしれない目に遭うんじゃないかって。でも、それも無くなるんだよね?」

少女は男を見上げて言った。大きな瞳は恐怖と期待の間で揺れている。

「…革命が成功したらそうなると思う」

モンドは言いながらアルベロの肩に手を置く。その言葉に少女は胸いっぱいに息を吸った。

「じゃあ私、成功させたい!変えたいよ!怯えないで暮らせる世界を私たちでつくりたい!」

アルベロの言葉にモンドは何度か頷いた。

「ああ、そうだな!この新聞、今までと違う事が起きてる事を示してる。星骸はあの時よりずっと大きくなってる。俺らがあの日レイさんたちに助けられて運命が変わったみたいに、今度はイチア地区を、いやネルティブ王国を変えようとしてるみたいだ。きっと変えられるよ」

男の言葉に少女は唇を舐める。遠くで鳥のさえずりが聞こえた。段々と騒がしくなり出した朝のツリータウンは目覚めを予感させた。





 太陽の暖かさに溶かされた雪が石畳の端に水っぽく溜まる。ツリータウンの縦に細長い建物の影になっている所以外の雪はほとんど溶けてしまっていた。

わずかに水溜りが出来ている道を脚の長い女が急ぎ足で歩く。

女は長いスカートの裾を濡れないように軽く持ち上げていた。その状態で何かをメモしながら器用に道行く人を避けて歩いている。

「エリック様は監視塔で演説されてた、一緒に降りて来たお付きは二人…あ、女も居たって、言ってたわね」

女はぶつぶつと独り言を呟きながらずんずん進む。

「あ、セレーノ!あの記事書いたのってアンタ?」

ざわざわしている道に高い声が響いた。だが、呼びかけられた女はその声に気づかずそのまま歩いて行ってしまう。

「ははぁ、あれは相当集中してるわね」

「追い掛けなくて良いのか?お前、今朝の新聞に随分感心してたじゃないか。コレで貴族の食料独占が無くなるかもって」

呼びかけた女の後ろから男が言った。

「良いのよ。どうせああなったセレーノとはマトモな話は出来ないし。それに、アンタが寝坊したせいで時間ギリギリなのよ?」

女は男を見上げて片眉を上げる。

「うっ、でもそれは昨日のお前が…いやッ、なんでも無い」

男は言いかけた言葉をすんでのところで引っ込めた。そしてそのまま、行き交う人々の波に夫婦が乗った時、ふいに誰かにぶつかる。

「おっと、すまない」

男は謝罪の言葉を吐く。だが振り返った時には既にぶつかった相手は居なかった。

「ちょっと貴方、置いてくわよ」

男は小さく首を傾げると妻を追う。


 男にぶつかった相手は歩く勢いを一切落とさないでそのまま人の波に紛れ込んだ。そそくさと縦長の建物の隙間へと入って行く。

そこには先客がいた。壁にもたれて建物の隙間から狭い空をぼんやりと見上げているのは猫背の男。男はこちらを向くとパッと表情を変えた。

「お、遅ぇぞフロイデ、仕事放っぽって女と遊んでやがったか〜?」

「黙れグランツ。俺はお前と違って丁寧な仕事をしてんだ」

フロイデと呼ばれた男は苛立ったようにそう言った。

「朝からご機嫌斜めさんかよ。まぁいいさ、どうせ俺が勝つしな」

「お前が俺に勝った事があったか?」

その言葉にグランツは肩をすくめる。その動きは男の猫背な姿勢が強調されるようだった。

「んじゃいつも通りせーので出すぞ。せーの!」

グランツの声に合わせて二人は仕事の成果を披露しあった。

「ぐあー!!負けたー!財布十個とか正気かよ!」

「お前はスリにしては雑過ぎんだよ」

フロイデは煙草に火を付けながら言う。

「はぁ、まあ良いさ。今日はコレが邪魔だったからあんま上手くいかなかっただけだしな」

グランツはそう言いながら懐から新聞を取り出した。それを見たフロイデはポカンとした表情を浮かべる。

「はっ、お前新聞なんか読むようになったのか?」

「今日はここにヤベェ事が書いてあるって町の奴らが噂してたんだよ。気になるか?読ませてやろうか?」

グランツはニヤニヤしながら言う。

「要らん。もう読んだしな」

「え!マジか!」

「大マジだ。星骸が革命宣言だとよ」

「は!?」

フロイデの言葉にグランツは新聞を破りそうな勢いで広げた。

「その宣言、貴族のボンボンがしたらしいぜ?信じるかグランツ?」

問い掛けられたグランツはいつに無く真剣な表情を浮かべて新聞を読んでいる。

「俺は信じないね。ま、そのエリックって名乗った奴が本物だったとしても何が出来るってんだ?革命とか大それた事言ってやがるが、所詮貴族のお遊びだろ。

安全な所から俺たち市民を掻き回して遊んでやがるんだ。

仮に遊びじゃなかったとして星骸に何が出来る?どうせ王家が出て来たら終わりだ。奴らが黙ってる筈ない」

フロイデは厚い唇からふーっと煙を吐いた。紫煙は男の苛立ちを現すかのように不安定に揺れる。

「イチア地区は戦場になるだけなって何も変わらず全部終わる。いや、王家とか貴族からの締め付けは今よりキツくなるのがオチだ。自分たちがオチだなんて酷いジョークだな」

フロイデがそこまで言った時、グランツがようやく新聞から顔を上げる。

「フロイデ、」

猫背な男は真に迫った表情を浮かべていた。フロイデは相棒の常に無い表情を少しだけ意外に思う。こういう小難しい話は嫌いな男だと思っていたのだ。

「で?お前は信じんのか?」

フロイデは再度問い掛ける。

「……何言ってんのかぜんっぜん分からん」

グランツのその言葉にフロイデは再度煙を吐いた。さっきと比べて随分深い。

「…お前に意見を聞いたのが間違いだった」

そう言うとさっさと歩き出す。

「おい、待てよ。この新聞、どういう意味か教えろよ!」

グランツは急いでその後を追った。建物の陰で中々溶けない雪の上に新聞が落ちる。じわりじわりと水分を吸ったそれは風に吹かれてペラペラとめくれた。





 イチア地区とアビック地区の境の程近くに堅牢な建物がひっそりと建っていた。屋根は雪で覆われており深い森の中に白く浮き上がっているように見える。

建物周りには足跡一つ無い、ただ白い世界が広がるだけだ。木々の間からわずかに差し込む陽の光だけでは雪を溶かし切るまでに至らないようだった。

ここは星骸の新しい拠点。以前の拠点はエリックが革命宣言した時点で使えなくなってしまったので場所を移したのだ。

レイがいつの間にか用意していた新しい拠点はアビック地区の貴族、スミックの隠れ家的な別荘だった。

貴族の別荘にしては武骨で華美な装飾はほとんど無い。スミックは鹿狩りが好きな男で、ここはその趣味の為に使用している簡易的な小屋といった所だったからだ。

だが小屋と言ってもそれは貴族基準の小屋なだけであって、市民目線で言えば十分豪華なものだった。

 そんな建物の前に大量の荷物を乗せた馬が何頭も立っている。馬の吐き出す白い息がもうもうと立ち、朝の霧と混ざり合った。馬を引いて長いこと山を歩いて来たであろう男の一人が、小屋の扉を叩く。

静かな森にノック音が大きく響いた。軒先に吹き溜まった雪を押しのけるようにして扉が開く。

「予定通り来て頂きありがとうございます」

出て来たのは鋭い瞳の男、レイだった。

「スミック様より星骸へ食料と防寒具のお恵みです」

使いの男は振り返りながら馬たちの背中を示す。他の男たちが馬から荷物を下ろしている最中だった。

「お恵み感謝致します。スミック様はこの拠点に加え、お願いしていた食料と防寒具の支援の約束を果たして下さいました。今度はこちらの番、スミック様にお伝え下さい。『必ずや約束を果たします』と」

レイは真剣な表情で言う。積み上がる食料と防寒具の数にレイは静かに呼吸した。

吐き出された白い息が朝の森に消える。

「これだけ有れば市民を味方に出来ます」

レイはそう言うとわずかに口角を上げた。


読んで下さりありがとうございます!


この話『エリック革命記』は年単位の長すぎるスランプも含めると書き始めてもう6年ほど経ちます。

段々、私の頭の中にある構想でまだ書き出してないシーンやキャラなのか既出なのか訳が分からなくなってます、、、笑

致命的な矛盾にならないよう努力!!

長く書いて矛盾が無い人は本当に天才だと思います。どんな頭の構造してるんだろう、、羨ましい。


次回も土曜日の21:00になります。またお会い出来ますように。

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