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解放の火 後編⑧

 全力で叫ぶ人々の声にエリックは聞き入る。希望の歌のように晴れ晴れとした響きだった。

「エリックー、置いてくよー」

持ち帰らなければいけない物を整理し終えたチャックがそう声を掛ける。

「うん。待って」

さっさと螺旋階段を降りて行ってしまうロシュの後を追いながらエリックとチャックが続いた。

三人が外に出ると叫んでいた人々が一瞬静かになる。だが次の瞬間、歓喜に満ちたような叫びに包まれた。

顔を涙で濡らしながら感謝の言葉を伝えにやって来る島の女たちにエリックは律儀に言葉を返す。

四方をぐるりと取り囲まれかけた時、馬に乗りながら器用に馬を引くラミアがやって来た。

「うるさ。何これぇ」

ぼやくラミアの隣には、ティハと二人で馬に乗るサトシ。

「早く出るよ。今にも兵士が来る」

いつものように淡々と言うサトシの目はわずかに赤かった。男たちはラミアが引いて来た馬に飛び乗る。

「え、あ、ちょ、俺、馬乗れないんだけど…」

チャックが体高の大きな生き物に怯えたような表情でそう言った。

「アンタが練習サボるからでしょ〜」

ラミアが言う。

「俺が乗せてやる」

ロシュはそう言うとチャックを引き上げた。その隣で優雅に馬に乗ったエリックが民衆に手を振りながら軽く周りを見回す。

「あれ、レイくんは?」

「さぁね」

ラミアが肩をすくめた。

「仲間より革命が大事な奴だからさっさと次の作戦にでも行ったんじゃない?」

その声には少し怒りが滲んでいる。

「あの人なら放っといても大丈夫でしょ。ほら、さっさと行く」

サトシはそう言うと群がる人を避けるように馬を進め始めた。

「早くリリィに会いたいなー。新しい拠点も楽しみだし〜」

ラミアは後に続きながら言う。

「リリスとイーサンは予定通り先に向かってる筈だよ」

チャックがロシュにしがみつきながらそう言った。ゆっくりと速度を上げて行く彼らを人々は歓喜の声で見送る。

四頭の馬が焼け落ちた三門を駆け抜けて行った。

密度を増す雪がふわりと舞う。わずかに積もり始めた白が橋を薄っすらと覆っていた。





 ピーストップ家の屋敷の広大な庭に軍人たちが集められる。軍服を着た男たちが整然と並ぶ光景は壮観としか言いようが無かった。

だが男たちが待てど暮らせど主人は姿を現さない。

それもその筈だ。エリックの父であるリンブル・ピーストップは混乱を極めていたからだった。

「リンブル様、まずは本当にご子息かどうかの確認を、」

「制圧は初動が大事です。確認の前にまずはカガイの制圧です!」

「新聞によって地区中にこの事が広がるのは時間の問題です。言論の統制も進めねば」

「地区内の貴族から早馬が次々と来ています!」

「どこに軍を派遣しましょうか?」

「王家や他地区へ援軍を要請した方が宜しいかと、」

次々と上がる声。リンブルは処理しなくてはならないモノの多さに眉を顰めた。

「まず、」

主人の声に部屋はピタリと静かになる。

「援軍の要請はしない。もし仮に、本当に、エリックだった場合、ピーストップ家の存続に関わる。それはピーストップ家に関わる全ての人間にとっての痛手だ。我が家が没落すれば、全員が路頭に迷う事になる」

誰かの喉がゴクリと鳴った。

「次にカガイ制圧についてだが、あそこは治外法権の地。王の許しが無ければ軍を派遣出来ない。だがこの非常時にそうも言ってはいられない。

門が燃えていたらしいな。それを理由に介入しろ。王には復興目的だと説明すればご納得される筈だ」

それを聞いた何人かが走り出す。

「それから、いくつかの貴族の家に騎士たちを送れ。こちらが気にかけている事の証明になる。勢力の大きい家を優先しろ。万が一にも寝返って貰っては困るからな」

「割り振りは私がしても宜しいですか?」

壮年の男が声を上げる。

「ああ任せた。適切な采配を頼む」

リンブルがそう言うと壮年の男は敬礼して出て行った。

「あと、小隊三つほどでいいエリックを探せ。カガイで息子を名乗った男が本当にエリックなのかも調べるんだ」

その言葉にさらに何人か出て行く。

「リンブル様、言論の統制はいかがなさいましょう、」

その言葉にリンブルは沈黙した。そしてギリリと歯を噛み締める。

「それに割く人員はあるのか⁉︎無いだろう!さっさと鎮圧しに行かないか!」

主人の怒鳴り声に臣下は慌てて部屋を後にした。高い天井から吊るされたシャンデリア状のラピスがリンブルを照らす。

だだっ広い部屋に一人きりになった男は苦々しい表情を浮かべると頭を抱えた。

「なぜだエリック…」

さらりとした雪が大きな窓に張り付いて消える。窓から見える庭はほとんど白くなってしまっていた。

「なぜ…今朝お前の悩みは解決した筈だろう、」

そう言ってギリギリと歯を鳴らす。失意を表すかのようにリンブルは机を打った。ちょうどその時、部屋の扉が勢いよく開く。

「貴方!エリックは⁉︎」

「バネッサ」

「あの子はどこに居るんです!」

部屋に入って来るなり叫んだのはエリックによく似た顔の女だった。

「まだ分からない。皆が探してくれている所だ」

「そんな…あの子、今朝も普通に療養所へ行くと…」

バネッサは眉を下げながらそう言うと、男の胸にしがみつく。

「何も、変わり無かった筈なのに…」

「まだエリックと決まった訳じゃない」

リンブルは固い声で言った。

「でも、もし本当にエリックだったら?」

女は視線を左右に揺らす。

「あの子、突然療養しだして、でも、元気そうに見えていたのに…一体どうして?」

「エリックが母である君を裏切ったりしない、そうだろう?」

リンブルは落ち着かせるようにそう言った。

「私は一人しか産めなかった、あの子だけなんです!あの子が、跡取りなのに、それなのに、突然療養して…それどころか、今度はなんです⁉︎」

「バネッサ、落ち着きなさい」

「うっ、うう……」

さめざめと涙を流す妻をリンブルは抱きしめた。父の頬にもまた息子への思いが伝う。女のすすり泣きに合わせて暖炉で熱ラピスが弾けた。

段々と勢いを増す雪が窓を覆い始めていた。静かな部屋に二人。町の喧騒は届かない。

世界が音を立てて動き出した事を彼らはまだ理解出来ていなかった。


6章後編終了です!!長い事読んで下さりありがとうございます!嬉しい!!

次回以降はキャラが増えます。

主要キャラじゃないレベルのキャラたちがめちゃくちゃ出てきます。革命の話なんで!

ぼんやりとでも覚えててくれると読みやすいかなと。


話は変わるんですが、最近しみじみ思う事がありまして。文字って本当に魔法だよなーって。読むだけで世界が広がる魔法。

ここに居ながらどこにでも行けるし誰にでもなれる。

私の人生はひとつだけど、本を読めば何百という人生を歩めるし、気持ちを共有出来る。

何百年、何千年前の作品も感じられる。翻訳されれば国も超えられる。

それって魔法以外の何物でも無いなー、と。

現代は楽しい事が沢山あるけど、やっぱり文字を追って世界を感じる興奮は何物にも変えられない。

私は小説を楽しめる人間で本当に良かった。


さぁ次回は土曜日の21:00です。また読みに来てくれると嬉しいです。

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