#47 悲惨な真実
な、なんとかなった……か?
とりあえず、続けられてよかったです。
次々と彼女を襲う攻撃の数々、だが彼女はそれをいともたやすく弾く。いくら彼女が元高位な天使といえど、魔王相手にそこまで太刀打ちできるのはあまりにもおかしい。
まるでこの場にある闇の核が、彼女に力を与えているかのように思えた。
初めは探りを入れつつ、攻撃を仕掛けていた二人だったが、今は額に嫌な脂汗が滲んでいる。彼女の涼しげな表情とは対照的に。
「無駄ですよ、私に貴方がたは勝らない。ねぇ、アシュタロス様」
「――――くっ」
徐々にそして慎重に闇の核へと近づいていたアシュタロスの足元に、彼女は闇の塊を放った。アシュタロスの足元の地面がはじけた。
足元から視線を彼女の方に移したアシュタロスは、険しい目つきで彼女を睨みつける。その表情を見て、彼女は悲しげに眉根を下げた。
どうして、そのような顔をなさるのですか――――
「お前が、何を企んでいるかわからないが……あいつは関係ないだろう。湖に現れたあれが、お前の手先だと言うならば、あいつをこの世界に喚んだのは……お前だな?」
「えぇ、やっと見つけたんです。強い力を有した穢れ無き天使を、私の願いを叶えてくれる存在を」
「それがあいつの運命を狂わせても叶えたいことなのか?」
「はい、私の命をかけても叶えて差し上げられませんでした。ですが、今度は必ず――――」
「その願いに、俺が関わっているのか?」
その問いかけに、彼女はにこりと微笑んだ。その行動が先ほどの問いかけを肯定していると、判断させるには十分だった。そしてその瞬間アシュタロスには彼女の願い全てがわかった。
何時……俺がそれをお前に頼んだ――――
「気づかなかった、俺にも責任がある……」
だけど、だからといってそれを容認することは出来るはずなかった。アシュタロスは彼女の方へ手を向けた。だがそれは彼女に同情し、手を取るためではない。指先を上に向け、攻撃態勢に入っていた。
「アシュタロス様っ……」
「お前は見失った、この世界の在りし姿を。あの日……天使が消え、光が消えたあの日の原因……それはお前だったのだな」
淡々と自分の考えを一言一言噛み締めるように、アシュタロスは続けた。
「お前だけが原因というわけじゃない、お前はただ利用されただけに過ぎない。隙のできた心に入り込まれ、偽りの理由で動かされた――――それが正しい行いだと。あの頃天界は魔界との共存を続ける保守派と、魔界と対立し闇を根絶させようと企む派閥と分かれていた。まぁ後者の派閥は公にはいなかったが。その派閥にお前は利用された。結果は……言わずもがな……。あれで分かっただろう?光と闇、均等に存在してこそこの世界は初めて、正常でいられる」
「ならっ、どちらも消してしまえばいい、そうではないのですか?!全てなくなれば、バランスなど崩れるはずもない、あの時そう……」
「それが偽りの理由だとわからないか?天使も悪魔もその存在を構成しているのは、根本は光と闇分子だ。それらがなくては、俺らは存在していないし、存在できなくなる。だからあの時天使は悪魔へと変貌した。体を構成している分子が変換したからだ」
そしてその分子の変換に耐え切れなかった天使は、消失した。存在できなくなったためである。
「光と闇、そのどちらもない世界は【無】だ。天使や悪魔はおろか、人間、動物、植物、天空、大海、大地。全てが存在できなくなる。なぜならこの世界にある全てのものは、必ず光と闇の分子を持ち、構成されているからだ。つまり世界すべてがなくなる。お前がしようとしていることは、この世界そのものの破壊だ」
「――――」
アシュタロスの発した言葉に、彼女はただ言葉を失った。徐々に顔色は青くなり、目は見開かれ瞳が揺らぐ。
そんな彼女を、アシュタロスが作った檻が封じ込めた。




