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#48 闇の中へ



 私がいままで、願ってきたことは……全て――――



 がくりと彼女は膝から崩れるように、その場に座り込んだ。手で顔を覆い、肩が震えだす。

 それと同時に、あたり全体が地震のように揺れだした。


「なんだ?!」

「わかりません……、どうもこのあたりだけではないようですが……それに、ただの地震ではないですね。少し外を見てきます」

「あぁ」


 ものすごい揺れの中、アグレアスは外の様子を探りにその空間をあとにした。突然の揺れに驚いたものの、バエルはすぐに視線を彼女に戻した。そして少し前から思っていた考えを口にする。


「アシュタロス……彼女はおそらく」

「あぁ、コイツと同調してるな」


 アシュタロスの視線の先には、ノエルを取り込んだ闇の核があった。それはまるでこの空間の揺れと同調しているかのように、その全体を細やかに揺らしている。


「ノエルを取り出して、消すしかない」

「いいのか?」

「今更……過去を振り返ることはない」


 アシュタロスはわずかに檻の中の彼女を一瞥したあと、闇の核へと両腕を向けた。


「手伝うか?」

「来るな、お前が来るとただでさえ濃い闇の分子がさらに濃さを増す。お前はせいぜいその周りの闇分子でも抑えてろ」

「あとで覚えていろ」


 そんな言葉を交わした後、アシュタロスは闇の核へと姿を消した。


 闇の核の中はただただ、闇分子が漂い渦巻いている空間だった。外見よりも広い空間は、端が見えないほどの広さだ。そしてその広い空間、闇の分子が集いまとわりつきながら力なく漂うノエルの姿を見つけた。


 ノエルは未だ混濁した意識のままでいた。そんな意識の片隅で、かすかに聞こえる複数の声。


それはレーシェルの過去のなかの声。


そしてノエルの過去の中の声だった。


 レーシェルの過去は徐々に靄がかかるように小さくなり、それに比例してノエルの過去は徐々に近く、大きくなってきていた。


『お前はこの世界の核だ。何かあっては困る』


 それはノエルにとって、苦しく悲しい過去。元の世界を嫌う理由だった。


 忙しい両親、一人ぼっちの日々。部屋から出ることも許されず、話し相手もいない。部屋にある本は全て読み飽き、一人でできる暇つぶしなど、もう全てやり尽くしていた。


 毎日毎日、母から教わった歌を歌う。いつか行ってみたいと願っていた、周りの街を見つめながら。


 帰りたくない……戻りたくない。あんな辛いところ、もう居たくない……このまま、このまま――――



 徐々にノエルの意識は、闇の分子に飲み込まれ始めた。闇が徐々に支配する中、思い浮かんできたのは、思い出したくない記憶が、浮かんでは消え、浮かんでは消えを繰り返した。


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