#39 心の奥の秘め事
アモンさんと別れ、再び屋敷の中を歩く。重厚感あふれる内装は、どこか威圧的で心が落ち着かない気もする。
まぁ、ベリアルさんの屋敷だから仕方がないのかな。
僕に用意された部屋がある屋敷とは別の、渡り廊下でつながったもう一方の屋敷は、とても静かで落ち着いた雰囲気すらある。僕がいる方は、なぜかあちこちから獣の鳴き声が聞こえていた。アモンさんが言うには、ペットらしいけど可愛いものではなさそうだった。
ふとある一室のドアが半開きになってるのが目に入った。何かに惹きつけられるように、僕はその部屋に近づき、その隙間から中を覗いた。どうやら書庫らしく、壁一面本棚で埋め尽くされていた。
人気が感じられなかったせいか、僕はいつの間にか中に入り込んでいた。最初は棚に収められている本の背表紙をただ眺めるだけだったのに、ふとある一冊の本を手にとった。
その本を開き、流し読むように目を通していくとひとつの章で目が止まった。
「転生……ここにも、この概念はあるんですね」
その章に目を通していくにつれ、先ほどのアモンさんの言葉が、脳裏に蘇ってきた。
『力の弱かった天使が、悪魔に変わってしまう時の衝撃に耐えられなくて死んだ』
『もう元には戻らない』
あの消えてしまった……死んでしまった天使は、もう転生しないのだろうか。魂すら残っていれば、転生はなりえる。だけどもし何も残らずに、本当に消えてしまっていたら。彼らはもう二度と戻らないのだろうか。
「何が……どうして……。彼らが何をしたって言うんですか……」
そしてある一人の顔が思い浮かぶ。
「あの人は……どう思ってるんでしょう……」
本を元通り、棚に戻し僕はその部屋を後にした。
――――同時刻
ベリアルの書斎に、珍しくアシュタロスがいた。元々天界でもそれほど仲がいい問ワケでもなかった二人は、この世界になってからはほとんど接点がなくなっていた。
そのせいか、今のこの空間に話し声など存在してなかった。同じ空間にいるにもかかわらず、ベリアルは紅茶を飲みアシュタロスは戯れてくる3つ頭の獣――――ケルベロスをなでていた。
しかしその沈黙も終を遂げた。
「随分入れ込んでいるようだな」
「――――何の話だ」
互いに視線を合わすことなく、独り言でも言うかのように会話を続けていく。なんとも奇妙な光景だった。
「あの異界の天使。過去を払拭できてないと思ってたが、俺の思い違いか」
「ふざけるな。そんなんじゃないさ」
「はぐらかさなくてもいいだろう?あの事態は俺でも防げはしなかった。お前が気に止むことでもないだろう?まぁ、あの時のお前では、力があったとしても無理だったか」
「今更、過去を払拭しようとしまいと、もう遅い」
「――――お前は相変わらず気に食わない。せっかく拾ったそれをみすみす終焉に向かわせるとは、愚者の行いに等しい」
「お前に好かれようとは思えないさ。そんなことされたら、余計寿命が縮む」
「骨くらいは拾ってやろう」
「そのまま捨てられたほうが本望だ。今ある俺は、跡形もなく消え去ったほうがいい」
訳のわからない言葉の乱立に、そこそこ知性のあるケルベロスですら、わけがわからないというように首をかしげた。




