#33 魔の王
久々に姿を現した王、バエルにアグレアスは言いたかった言葉をグッと押し殺し、仕事を彼に提出した。
椅子に座り、それを見て顔をしかめたバエルだったが、彼は一切同情しようとは思えなかった。
「これは私が処理した分です。アシュタロスのやった分は、また後ほど」
「勝手に判を押せと言っておいただろ。何のための王補佐だ」
「あくまで貴方様のお仕事を、補佐するのが役目です。王の代わりをするわけではありません。だいたい、貴方の印は貴方の血無くては無効ですし、あなたが直々に押さなければ、魔力判定で速攻返却されるんですよ」
「めんどくさい制度だ。誰が定めた」
「貴方です」
渋々といった様子で、書類に目を通し始めたバエルに、アグレアスがようやく胸を撫で下ろした。いくら処理をしても、最終の彼が目を通し、確認印を押さなければ意味ないのだ。
彼が自分から行方不明になる理由を知っている傍ら、あまりうるさくは言えないのだが、それでも鬱憤は溜まっていくというものだ。これが終わったら、しばらく休暇をもらい、東にある自身の領地に戻ろうかとも思う。
「そういえば……東の方は特になにもないのか?」
「えぇ。昔から、さほど闇の分子が集まらない地方でしたし。魔獣の暴動も、闇の狭間の拡大も見られませんよ。北の地方の方が、よっぽど顕著に見られます」
「北はそれでも、結界を貼り直したんだ。いくらか持つだろ。西は……ベリアルがいるから、それほど心配はしていないが……」
「それが西の外れに、巨大な狭間が確認されたと噂が」
その言葉に、バエルは書類からアグレアスへと視線を写した。
「規模は?」
「まだ噂の段階で、現在調査をさせていますが。かなりの規模らしく、ベリアルとシャックスがいるとしても、とても押さえ込むまでは……」
「無理か。使えん」
あなたがそれを言うんですかね、いてほしい時にいないくせに。
喉元まででかかったが、なんとか口から出ずに済んだ。こんなところで、バエルの機嫌を損ねなどしたら、面倒以外の何ものでもない。
「ところで、あの迷惑な下僕はどうした?」
「下僕……あぁ、ベリアルのペットですか?それが、妙にノエル様に懐いてしまい、未だ王宮内に……」
「暴れないならほおっておけ。それにおそらく、ノエルは時期西へ行く」
「ノエル様にあの闇の狭間を、浄化させるおつもりですか?!」
「あいつだけで押さえ込めればいいが……。その狭間の真偽を早急に突き止めさせろ。もし本当なら、アシュタロスと相談しないとならないな」
「彼が飲むでしょうか。反対されるのが目に見えてますが」
「いつまで過去に囚われてるつもりだ」
「貴方は割り切りすぎだと思いますが」
短く息を吐いたバエルは、椅子にもたれかかり反転させると、後ろにある窓から澄んだ青い空を見上げた。




